第13部分 恋人
第13部分 恋人
あれからオレとレナの密かな交際が始まった。
レナはやはりあの巨大ホテルの住人だった。一緒にいるのは義父とその父母だという。母とは三年前に死別し、その母の再婚相手である義父に引き取られたのだとか…
家庭的にはシアワセとは言い難いが、義父一家が金だけは不自由しないくらい持っているのだそうだ。ああ、一度そんなこと言ってみたいわ…
他にもレナについていろいろなことがわかってきて、オレの想いは募るばかりだった。
・レナは二十歳、今度の成人の日には振袖とドレス、両方を着ること。
・運動はあまり好まず、理系っぽい楽しい男性が好みであること。
・得意科目は英語、不得意は社会。中学では合唱部、高校では家庭科部にいたこと。
・習い事は、ピアノに習字、華道、琴などの経験があること
・ファーストキスは一七歳、まだ男性経験は無いとの自己申告
ちなみにオレはもうじき二十五歳である。
レナとの会話は果てしなく楽しかったが、毎日必ず23時になると終わるのが疑問だった。このあとはたいてい出てこないが、出たとしても25時を回っていた。
「この間、いったい何をしているのだろう?」
新たな疑問が湧いてきた。何を聞くにしても、もっと仲良くならないとな。もっと仲良くなりたかった… ココロの底から。
ある日の25時過ぎのライン会話を再現してみよう。
『ねえいまなにしてる』
「すぐ近くでバイト中。 レナはまだ寝てないの?」
『寝れないの。なんか楽しいお話してよ』
「いきなり、そんな… じゃぁね、こぶとり爺さんて知ってるかい?」
『題は聞いたことあるけどさ、どんな話だっけ?』
「じゃ詳しく語ってあげるからさ、それで良いかい」
『うん、あ、待って、お茶持ってくる、長いでしょ』
「いや、そこまではね、大丈夫さ」
『…』
見てねぇし…
早くも居ないのかい?
『OK、お願い」
「じゃ行くよ」
『わくわく』
「待ってレナ、ハードル高杉晋作」
『ねぇ、はやく』
「わかった」
『どきどき』
「あのね、むかしむかし、あるところに」
『あるところに?』
「うん、小さくて太ったお爺さんが住んでおりましたとさ」
『おじいさんね』
「うん」
『それで?』
「いや、それだけだ」
『???』
「おしまい」
『タク、ね… いつどこでコブとったの?』
「あの、だからコブすら出てきてはいないよ」
『だってこぶとり爺さんて、ワケあってコブを取ったのか、取られた気がする』
「そっちじゃなくて… だから、小さくて太ってるお爺さんだってば」
『ヒドイ、タク…(笑) そっちの小太り? 』
「ごめんごめん、それしか思いつかなくて」
『いいの、タクと話すのが楽しいから』
「ありがと(^▽^)/ ゴメンね、一応バイト中だし…」
『でもね、今日はもうちょっと甘えてもいい?』
「うぇるかむ、どしたん?」
『さっき、いやなもの見ちゃった』
「え、なに?」
『あ、なんでもない、ダイジョブ』
「オレは同じ建物にいるからね、ダイジョブさ」
『アリガト、会いたいな… せつないyo。 あ、同じ建物といえばね』
「なになに」
『ミナがこのホテルに来るよ』
「なんですと?」
『若に紹介されたのがここの住人でさ』
「まさか結婚とか?」
『かもね』
「展開早くない?」
『早過ぎ晋作』
「ウフフ、晋作って… ´∀` 友達来るとか良かったね」
『うん』
アレ、なんで気乗り薄いんだろう? まあ女の子にはいろいろあるからな。
「顔見たいな」
『ミナの? ぷん』
「レナの、だってば」
『部屋から出れないもん』
「わかってる」
『タクはS階来れないんでしょ』
「なぜか、ね」
『従業員でも?』
「この件はね、なぜかだれも話さないし教えてくんない」
『ゴメンね、今はアタシも、なの。レナもう一回寝てみるね』
「そっか、おやすみなさい。レナ」
『タク、おやすみ… ねえ忘れてない』
「あ、やったぁ! おやすみレナ、ちゅっ!」
『ありがと、タク、ちゅっ!』
「むぎゅ は要らない?」
『ほしぃ!』
「むぎゅぅ~~~!!」
『きゃぁ、死んじゃう』
「むぎゅむぎゅむぎゅ」
『えへへへ… コロして、タク、お願い!』
「一緒に、ね、レナ… 二人いつまでも一緒だよ」
『うん… ねぇタク』
「な~に、レナ」
『約束して』
「即答イエス」
『ホント? 絶対夢に出てきてね』
「やったぁ! お安い御用で… でもね」
『でも?』
「そしたら…明日は眠いけど… 覚悟しといてね」
『なんで??』
「二人とも眠れないからさ、たぶん」
『あっ… うん』
「さぁ、早くおやすみ、レナ」
『いつか… 二人で寄り添って夜明けのココア飲みたいな』
「口移しでね… 飲ませてあげたい」
『ユメじゃないよ、もうじき現実になるのね』
「うん、大好きだよ、レナ」
『大好きよ、タク… またあした』
「ちゅ!」
『チュ!』