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ロシアン ルーベッド  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第11部分 縁(えん)の下

第11部分 えんの下


 どうもこのホテルには「やみ」があるような気がする。しかしオレに関係なければ、別にどうだっていい話だ。オレは言われたことをやる。その代償がバイト代なんだ。口は堅い…つもりだ。まあ口は堅いから、どんな秘密も他人にしゃべるつもりはないが… 


 好奇心も強いんだよな、人並み以上に…


 ここのバイトの先輩に「軽部かるべ」というヒトがいる。まあまあ気が合うし、良い方だ。ただ酒好きだし、深酒すると正体を失くすのが欠点の二十代後半男性。


 『ここでバイトしている理由はな、前の会社でさ、取引先との酒の席で酔い過ぎてさ、こともあろうに取引先のライバル会社を褒めちぎって首になったからなんだわ、これが… たまたまオレの友達がここの募集を知っててさ、紹介してもらったのさ』

いつだったか、二人だけでいた時にこっそり打ち明けられたことがある。


 オレは経済的な事情もあって今までバイト仲間のコンパには顔を出さなかったが、今回だけは思い切ってこの「軽部」を誘ってみることにした。カネがあまりかからないIR外の居酒屋にでも誘ってみよう。


「先輩、暑いっすね。どうですか、ビールが酎ハイでも」

『あはは、珍しいな、タ、タク… そ、そうなんだがな、知ってるだろ、オレな、アレだから禁酒中なの。カ、カネもないしさ』

「それがね、カネはちょっと臨時収入があって。ははは、それにオレ相手に口が滑って困ります?」

『なるほど… そう誘われたら、そ、そりゃ行かにゃ、な。どこで?』

「六時に【デンデン屋】でどうです?」

『の、乗った、キ、決まりだな』


 ふふふ、チョロいもんである。


 軽部との会話を延々と描いても、色気があるワケじゃなし、そういう意味では果てしなくつまらない。聞き取ったことのうち肝腎かんじんなとこだけを抜き書きしておくことにしよう。


 オレは軽部にそろそろ酔いの限界が来たかな、と言う頃を見計らって、先輩教えてください的な態度で質問をぶつけてみた。

「そう言えばね、別とはいえS階からとかの電話を受けたことが無いんですよ」

『ヘ、ヘンな…変なとこ気にするんだな。電話は…えっとな…オレ達にゃ掛からんのさ』

「なんででしょね。信用されてないのかな、オレ達」

『オ、オレもそのS階は行ったことないけどさ、その客が言ってたぞ、廊下で、えっと…』

「へぇ、さすが先輩。何を聞いたんですか」


『そ、そうだ。えっと何か変なことさ。そうだ、部屋の番号がな、番号が毎日変わるってさ』

「はい?」

『そ、そう、ド、ドアの前さ、前の番号が毎日変わるんだって毎日とか、なんとかって』

「そんなことあります?」

『そ、そうなんだよ、そう。おかしいだろ』 

軽部は続けた。


『部屋の番号でさ、番号で何かするらしいぞ。く、くじ? くじとか当選って言ってたぞ』

オレはいったんここで追及を止めた。あまりつついてはいけないのかも知れない。


 十分ほど経つと、今度は軽部から口火を切ってきた。やや小さい声になっている。

『タク、タクな、オマエ…S階の客ってさ、ずっといつも居ると思わんか? ずっと、な』

「ええ、宿泊と言うよりマイホーム的ですね。」


 それは知ってるよ、うん。

『で、でもな、でもずっといた人がさ、なんか…なんか気付くと居なくなってるのさ』

「あ… そういえばそうですね」

『ぼくのお気に入りの女子がいたのにさ、ずいぶん前からぜんぜん見ないんだよ』

真剣なのか、ドモリが減っている。


「長い旅行中とか?」

『そうかな、その女子のツレは今でも、今もツレはいるのさ』

「その女子とは話したりしたんですか」


『ああ、ちょっ、いやぁいっぱいおっぱい話したさ。でもさ、えっとなんだっけ?リバウンドじゃなくて』

「なんでリバウンド?」

『あんなにいっぱい話してくれたんだからさ、えっと、リバウンドしてくれてもいいだろ?』

「もしかしてリピーター?」

『それだ、それ、レポーター』


「ははは、先輩酔いましたね。ついでにもう一個聞いてもいいですか」

『あ、あれ? ちがったかぁ… もういいや、何でも来い』


 オレは思い切ってカマを掛けてみた。

「なんかね、あの直通エレベータね、大きなモノを下ろしての、偶然見たんですよ」

『えっ、そりゃ知ら… いや…袋とか、ホントはな、オレもトランクみたいのものもな、見た見た、見たぞ』


「さすがです、先輩! いやぁね、なんか気になってて… ははは、ブタの丸焼きとかですかねぇ、へっへっへ」

『あ、ははは、なんだろうなぁ… オ、オレの予想はな…』

「先輩の予想は?」


『あ、あれだよ… ほら女の子のハダカの女の子にな、刺身とかの、あれさ』

「いわゆる、その、女体盛りってやつ?」

『それそれっ… 一回でいいからやってみたいな、タク』

「今度期待してますよ、先輩のおごりで」

『ばかあ言うな、タク』


 これでつながった。気のせいなんかじゃなかったんだ。オレたちには内緒で何かを積み下ろして、あの裏口から運び出しているんだな。


 今は工事中だけど、完成したあの門の中に入って出し入れすれば、誰にも見つかるはずがない。つまり… 搬出はんしゅつ秘密裏ひみつりにできるはずだ。


…とすると、アレはいったい何なんだろうか。

気になるなぁ…



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