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その日を掴む

大学一年の授業はほとんどが受験勉強でやったことの繰り返しで試験やレポートも容易く、思ったより暇で自由だ。

タケシは文系で研究や実習もないのでまだ心を許せる友達は出来ないままだったが、寮の掃除当番や催事への参加は義務なので挨拶をし合う顔見知りが少しずつ増えてきていて、向かいの部屋の住人で同級のトオルは時々何も無いのに部屋に来て話しをしていくようになっている。


’空いてる時間にさ、バイト探したいんだよね。一緒に面接行かない?‘

‘僕、もう決まったんだ’

’なに?なにやるの?‘

‘飲食なんだけど’

’ファストフードとか?‘

‘CAFE、かな’

’あー、時給いくら?やっぱ千円くらいだよね?‘

‘2500円だったかな’

’なにそれ?塾でも1800円だよ、すごいね‘

‘そうか?’

’あ、そこさ、まだ募集してんの?‘

‘店が新しくオープンするんだって’

’えー、いーじゃん、教えてくれる?俺も、いけるかな?‘

‘あ、うん。今日17:30から研修あるんで聞いとくわ’

’よろしくなー、なんでそんな時給いいんだ?‘

’わからん‘


確かに、幸せ難民のためのCAFEってなんだろう…。まさか、ホストクラブじゃ無いよな…。ここはトオルも一緒に働いてくれると助かるな。


タケシはバイトというものをしたことがないので、研修があることやオープニングスタッフであること、医者が監修しているCAFEであることが決め手だったが確かに薬膳酒とはいえ酒を出すことや時給が良いところは気にかかっていた。


授業が終わってそのまま店を訪ねるとすでに4人の青年が来ていて、声をかけてきて面談をしてくれた片瀬が笑顔で中に招き入れてくれた。


‘こんにちわ、今日はみなさんに業務の流れを教えます。

今日は研修ですので時給は1000円です。

私は精神科医の片瀬です、サキモトメンタルクリニックの勤務医ですが、こちらのお店の責任者を仰せつかっています。

みなさん、よろしくお願いします。’


他の4人も大学生なんだろうか。ひとり、少しオッサンっぽい人もいるけど、みな話しかけやすそうないかにも親切そうな容貌で優しそうだ。


’みなさん、研修に参加していて自分には無理だと感じたらお互いのためにも、辞めてくれて全然大丈夫です。

この店のスタッフは、男性のみの予定です。

顧客は紹介性で原則女性限定を予定しています。

薬膳酒以外のお酒は例えば機内でCAが作る程度の簡単なものだけです。他の店と違うところは、カウンターだけで、客にスタッフとお話をするのを楽しみにリピート来店してもらおうとすることです。

疲れた女性の癒しになる空間を演出してもらいたいので、みなさんには丁寧に話を聞いたり笑顔をあげて欲しいのです。

お客とのトークの中身は基本マニュアルを教えますし、困るようなケースではカンフェレンスをして皆で考察しますので安心してください。

みなさんには丁寧な接客と準備や片付け、掃除なども含めた運営全般をお願いします。

提供する飲み物やおつまみは次回の研修で一つずつやっていきます。

ひとり一つだけ、パンケーキとかシュークリームとか、スイーツ作りを覚えてもらいます‘


さらに片瀬が5人に店の設備を詳しく案内して、質疑応答などが終わったのは2時間後だった。


‘片瀬さん、僕の友人がバイト探してるんですけど、面接まだやってますか?’

’同じ心理学科の生徒さんならウェルカムよ!‘

‘あー、そいつは生命科学科です、理工学部の。理系です。’

’生命科学って、老化とか栄養食とか化粧品改良とかやる理系だよね、面白いわね‘

‘あー、まだ、寮が向かいの部屋ってだけであんまり知らないんですけど’

’いいわよ、次の研修に履歴書持って連れてきて。面談してから決めるわ‘

‘はい、よろしくお願いします’

’タケシくんはやれそう?‘

‘はい、人の心理に興味あります。よくわかりませんけど、多分、知らない人と話が出きるようになっといた方が良さそうですし…’

’そうよ、臨床心理士になるんでしょ?そのうち精神科医のサキモト院長を紹介するわ、親子で2人サキモト先生がいて息子の方は循環器科なんだけど。臨床心理士さんも何人か紹介できるわ、まあ、まずは仕事に慣れてからね‘

‘よろしくお願いします!’


トオルは背が高く少し太りぎみだがニコニコしていて人懐っこいので須玖に片瀬も気に入って、タケシと一緒に5回の研修が終わり無事に他の4人も抜けることなくオープニングの日を3日後に迎えることになった。


店の名前は『カルペ ディエム』。

ラテン語でその日をつかめ、とかその日の花を摘め、と訳される紀元前1世紀の古代ローマの詩人ホラティウスの詩に登場する語句だという。


店は宣伝はしない方針で、知り合いから口コミの紹介性でひっそりと隠れ家的に営業するという。


タケシとトオルは同じ日に初日シフトが入ったが、勤務3時間のうちには客はひとりも来なかったので、もう1人のバイトと3人でシュークリームのシューを焼いたり本物のバニラビーンズをたっぷり使ったクリームを作ったりして過ごした。


若い男の子がはじめて作る無添加シュークリームがいくつも完成し、店の中だけでなく外にまでその甘くて美味しそうな匂いが立ち込めていた。

















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