向日葵に
タケシはこれまで早く成人になることを望ましいことだと思っていたが、偏差値の高い難関大学を卒業すれば幸せな未来が確実に手に入るなど、幻影ではないのか?と思い始めていた。
しかしこれまで長くやってきたことのゴールはすぐそこなので、立ち止まって前を見ないで立ち止まる勇気もない。
タケシは、他人の大人から見たら自分の姿も年齢も少年であり大人の男性になるための移行期に過ぎず、多くの明るい未来と欲望に胸を躍らせていることだろうと思われる側だと知っていた。
しかしタケシは大人に組織作られた社会の一員として生きることをとっくに重荷に感じ始めていて、
それはあちらこちらに存在している長生き老人達よりも多くのことを知って頭で理解してしまったからかもしれないと感じていた。
老人は長く生きてきたことから賢く謙虚になるわけではないと知ったのは小学生の頃で、家庭の状況によっては若いものも老いたものも自分の人生にいつなんどきでも疲れてしまうものなのだ。
タケシはこれまで楽しい日を心をワクワクさせて待ったことなど一度も無く、目の前に山のように積み上げられた学習課題を決められた日までにこなすことだけに生きてきた。
夜遅くまで課題をやって、6時間眠って、また学校と塾と模試だけの繰り返し。塾の特別講習は成績順資格制に組まれていて高額だったし、支払いのためだけに夢中になって働く母親のために止めたいとか興味ないとか、そんな言葉は口にできなかったこれまでの日々は、タケシにとっては当然、何一つ、楽しくはなかった。
でも初めて、
日曜日の模試のあとの、待ち合わせというイベントが嬉しくて楽しみだ。
そうだ。
塾でいちばん上のクラスで良い成績を取ったとき、とても嬉しかった。
模試で全国BEST5位に入っている結果通知を見せると大きく喜んで誉めてくれる母親や塾のセンセイ達の笑顔もとても嬉しかった。
勉強の合間に食べる母のお弁当は面白い形を作った美味しいおかずやおにぎりで、いつも楽しかった。
クラスメイトに勉強を教えてあげると感謝してくれて、楽しい。
マンションの管理人のおばさんがいつも声をかけてきて、なにかと誉めてくれるのも嬉しい。
タケシは、何一つ楽しくなかったなんて、そんなこと無かった事を頑張って思い出した。
‘こんな気分なのは、あの子のお陰なんだろうな。’
タケシは素直に心に感じたことを独り言で口にしてみた。
‘鞄につけたお守りは癒しだけでなく幸運を呼ぶ御守りだったんだ。
今日からは、4人家族のメンバーであることを楽しまないともったいよね、…ありがとう。’