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無形資産とポートフォリオ

いよいよ葉が落ちて床紅葉になってくるとマフラーが要るほど寒い夜もある。


心理学部で学んで臨床心理カウンセラーを目指すのもありかもしれないと思い始めているタケシは、どんなことも年代が違えば見方が全く違うというのがリアルで分かってきたことで多少は大人になってきたような気がしていた。


実経験の少ないタケシにとってバイトでいろいろな年の女性と話をすることは貴重でますます興味を持つようになっていたが、他にどうしても気になることがありそこはどうも落ち着いていない。

’友達’は気づいたらなってるもので、同じように‘恋人’も気づいたらなってるものだとしたら、何度も関係している有紀はもう自分の恋人なのだろうか。

有紀にはもともと本当の恋人がいて、時にはその彼と上手くいかないことを慰めたりする自分は、何なのだろう。

タケシははじめからずっと、有紀を誰よりも大切で特別な気持ちを持てる女性とは言えないと感じているのに、

会いに行けばいつでも自分がしたいことをさせてくれ、その行為はもちろんタケシのためだけの一方向の悦びだとも思えない。


有紀の方もタケシが自分に純粋に恋してくれていないことは知っているが、なかなか会えない男を待つだけの時間を一人で過ごしたくないし一緒にいると心と身体が癒されて気持ちがラクだった。

普段行けないような店や高級ホテルに連れていってくれる妻子ある10歳以上年上の男との貴重に思える体験や驚き、若い自分の裸を宝物のように扱ってもらえる悦ばしい時間も、どうしてもまだ棄てられない。

タケシは学生で遊びのために遣うお金がほとんど無いから自分の部屋で食べたり抱き合ったりするだけで、有紀の男達は2人とも両極端といえる。


タケシが『カルペ·ディエム』で話す女性客の中には、自分の信条や知り得たことを惜しみ無く披露してくれる人がいて、今、目の前に居る薫もその類いだ。

今日も3杯目になって饒舌になってきている。


’人生は本質的に悲しくてみじめなものだと思うとラクだわよ。人の意志の本質は悩みなのだもの。そこを幸せに変えていけるのは知識と経験からの行動しかないの。

君みたいに若い人には時間がたくさんあって将来があるわ、100歳で命が尽きるまでは夢を見るより知識を増やして経験を積んで、自分から幸せをつかみに行くような日々を送って欲しいな…‘


薫はタケシが真摯に聴いていることに気を良くして丁寧に話してくれている。


これまでタケシは自分の家庭環境を人よりかなり恵まれていない方だったと思っていたのにこの薫の言葉で何かが楽になれた気がして、

一人で育ててくれた母の自分への愛情や母自身の幸せのための再婚を自分が理解していて賛同しているという事を態度や言葉で表したくなった。

そして、有紀の事を思った。

有紀は悩みの元の男性と悩みを忘れるための男とつきあいながら、幸せを探して迷っているのではないのか。


スタイルの良い薫は店のなかでみる限り30代に見えるが今年の誕生日に54歳になるのだという。


母と変わらぬ年の女性とこんなに話が出来ることを不思議に思いながら、タケシは4杯目を飲んでいる薫が次に何を話してくれるのか楽しみに思う自分こそリアルで大人になっていく体験を今まさにしているような気がした。


薫が言う。

‘この国のこれからの人はね、ポートフォリオを持って、無形資産を大切にしたほうが有利だわよ’









 








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