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正しくないことが目の前で起きていたら声を上げて下さい

タケシが取っている大学の講義の中で最も興味があるのが臨床心理講座だ。


高校生のときは知らなかったが、人の心に働きかける仕事は三種類あるようだ。


ひとつは、医者。

心を病んでしまった状況を病気を治すことからもとの元気な状態に戻す専門家。

もうひとつは、学校の教師。

読み書き計算や、人間のあるべき姿=正直さ誠実さ優しさ勇気や正義などを尊ぶことについてや、こどもは学ぶ権利を守られるべきだということなどを教える専門家。

そしてもうひとつは、臨床心理士。

クライアントそれぞれに固有な多種多様な価値観を尊重しながらその人の自己実現に向けて寄り添い手伝う専門家。


タケシは人間にとって一番意味があるのは教育だと思っているが昔から自分に関わった教師を尊敬したことがなかったので卒後一生の仕事として教師を選ぶ気もないため、

とりあえず臨床心理士について学んでみたいと思っていて、その事がバイト先で客との会話をちゃんと大切にするというキャラクター作りのモチベーションになっていた。


タケシの担当に座った今日の客は話の中身からは警察事務の勤めらしき中年の女性で1時間程して酔ってくるとデータに基づいた話が増えてくる。

例えば、‘犯罪白書なんかの明確な統計としてだされている犯罪率などを見れば今の若者は順法意識がちゃんと高くて団塊の世代の犯罪率の方が明らかに突出しているのを知ってる?’など、講義を聞いているようだ。

‘若者を取り込もうと必死の政党も実態はオールドリベラリストたちの思うままで、すぐに若者は取り込まれてしまい完全に「使われる若者と、使う大人」という構図になってるのよ、そういう感じはあるよね?’などとくれば、受験勉強しかしてきていない18歳のタケシでは話が続かないのだ。


相手の話に寄り添うにも、知らないことにはお手上げなのでバイトではとにかく聞く役割を掘り下げるしかないのだが、それはそれで、気持ちを決めてしまえばそれなりに面白い。


昨夜有紀といつものようにしたあとになぜか彼女からお金の話を振られて、まだこれといって何も計画がないタケシに彼女が生々しい話をしてくれたことを、ふと思い出した。


’今70歳の団塊の老人達は生涯の保険料支払い額が1400万円程度に対して受取額1900万円と、日本社会の年金制度で500万円ほど「得」をするのに、今35歳の社会人だと平均寿命まで生きても700万円も「支払わされ損」をするのがこの国の年金の仕組みなのよ。うちら世代も貯金や退職金は必須らしいわよ、就活真面目に頑張ってね!‘と。


タケシにしてみれば35歳まではまだ15年以上もあるので夢のような先の話なのだが、さすがに有紀は社会人だからかしっかりしていることに驚いて、感心したが、愛し合ったあとにお金の話が出来る仲になっていてことにも驚いた。


タケシの目の前の警察勤めらしき笑顔が不自然な酔った中年女性が、なぜか涙を浮かべながらおおいに熱弁を振るってくる。

‘君はこれまで、目の前で明らかに正しくないと思うことを見て見ぬふりをしたことはある?私はいっぱいあるのよ、情けないわ…。弱虫の自己中な虫けらなのよ、でないとお金がもらえない…。このやな感じわかる?君にはこんな大人にならないで欲しい…。’


今夜も3時間ほど、バイトでの客のこんな感じの世の中のディープな話に耳を傾け、

バイトが終わったらまっすぐ寮には帰らずいつものように有紀の部屋に行って、何か食べて、して、少し話を聞いて、帰ることになるだろう。


今夜は話が未来すぎて少しわかりづらいな。


自分のメリットにならない世の中の少数派的な正しい事を、わざわざ同調圧力の壁をぶち抜いてまで知らん顔していたい他人達の中に紛れずないように明確に示して生きていかなければならないのだろうか…?


反射的にこんな風に考えてしまったタケシは、もしかすると自分には既に’あるサイド‘にいる人間達にとってのみ望ましい教育がなされ、今や彼らの思惑どおりに行動する事が心の平穏なのだと頭にも身体にも染み込んでいたのかもしれないと思った。

とにかく今は誰からでもいろんな話を聴きたいと思うタケシに、有紀の心の奥はまるでわからなかった。。









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