美肌へのオマージュ
タケシはバイトが終わるとまっすぐ有紀の一人暮らしのマンションに向かって、彼女といる自分を観察していた。
今日休みだった有紀はポトフと炊き込みパエリアというメニューを僕のための遅い夕食に用意してくれていたのに、間抜けなことに、まだ酒を飲んだことがない僕は手ぶらで来てしまった。
水とかジュースとかを持ってくるのは変だし花くらい持ってくるべきだったのかな、ご飯を作る時間とか買い出しのお金とか、迷惑かけてるな…。
夕食は、たいして会話もなくてCATVのヨーロッパ旅番組の映像を目で追いながら、味が濃すぎるポトフと水分の多いべちゃっとしたパエリアを美味しいと言って食べる。
正直こういう食事が毎日続くのはキツいだろうな、と思う。
有紀には、タケシが何を感じているのか彼の素直な表情からだいたい推察できた。
自分を愛していると口に出してはばからず高級な外食や温泉旅行で抱きたいように抱きまくる35歳の妻子持ちと、目の前のまっさらで経験不足のお子様貧乏大学生のどちらも全然‘違う’のだ。
2人とも自分の心ではなく、若い今だけの艶の良い弾けるような肌にオマージュしている取り巻きに過ぎないのだ。
有紀は自分の顔立ちが特徴ない一般的なものだとよく分かっていたし、首から下の白くてきめ細かい光輝く素肌の美しさもよく知っていて、エステティシャンとしての知識と化粧品を惜しみ無く使って日々しっかりと隅々まで手入れをしていた。
男に抱かれると白い身体中が熱をもって薄いピンク色に紅潮するらしく、こういう女の身体が男にとって貴重なものなのだとしたら、
自分や自分が産むかもしれない子供の長い生涯のために人生を通して働いて稼ぎ続けてくれる少しでもハイスペックな男を見つけるのは今のうちだ。
有紀にとっては、学生のタケシは気まぐれな時間潰しと考えている。
35歳の男と違う若い綺麗な指で肌を擦られるのはとても気持ちよく、
勝手乱暴な行為を嫌々受け入れるのではなく自分のペースで迎えられるタケシとの行為の方がずっと楽だ。
タケシにとっては、昨夜の続きとはいえやはり一糸纏わぬ女を目の当たりにして裸の自分と全身で触れあうのは刺激が強すぎてなかなかうまくいかないのだが、そのことがさらに好奇心を刺激してくる。
’明日も明後日も、ずっと毎晩このキレイな身体を抱きたい…‘
思わず出たタケシの声を有紀はしっかり聞いていた。
有紀は裸の身体をもたもたしてどんくさいタケシに預けながら、頭の中でタケシの品定めをしていた。
この子、大学はそこそこの国立大で顔立ちもキレイな方で、性格は競争には向かなくて不器用そうに思えるけれど人間的に卑怯な感じはしないし、まだまだ伸びしろがある。タケシは世間的にある程度の良い仕事に就けるのではないかな…。
タケシはとにかく美しく輝く無駄の無い有紀の裸体に夢中で、明日の講義は休んで夕方のバイトに行く時間まで、ずっと何度も何度もこの身体を抱いていたいと望んでいた。