痕跡
「おーい。カイル起きて。今日手伝ってくれるって言ったじゃない。」
「うー、まだ早いじゃん。」
(苛)
「そっちがそう言う態度ならわかった。」
ゴツッ‼︎
「痛えな。何すんだよ。」
「カイルが起きないからだよ。」
ミスミに嘴で突かれたおでこを摩りながら、カイルがベッドから起き上がった。
「ところで俺は何すればいいんだ?」
「捜し物を手伝って欲しいんだよね。」
「何を探すんだ?」
「秘密」
「秘密って何だよ。何探すかわかんなかったら探せないから手伝えないじゃん。」
「連れて行ってくれたら分かるよ。」
「うーん。お前のことまだ信用してないんだけど大丈夫なのかなぁ?」
「お前じゃない。ミスミだよ。」
「わかったよ。ミスミ。」
「だからあんたの女じゃないし、年上の女性を、ミスミって呼び捨てにするんじゃない。」
「いちいちうるさいな。年上と言われてもドラゴンじゃ実感わかないし、ドラゴン相手にミスミさんって呼ぶの変じゃね?」
「つべこべ言わないで、早く準備していくよ。」
「わかったよ。あまり急かすなよ。飯ぐらい食わせろよ。」
「仕方ないなぁ。私は外で待ってるから、早くご飯食べて出て来てよね。」
「わかった。わかった。」
「2度同じ言葉続けない。」
「はい、はい。」
「はいは、1回。」
「へい、へい。」
「へいも、1回。」
「わかったよ、うるさいなぁもう。」
「さぁどこいったら良いんだ?」
「その丸い塊拾ったところへ連れてって。」
「ここだよ。この岩の割れ目の奥に光って落ちてたんだ。」
ミスミは大きな岩の周りを飛び回り見てまわった。岩は川に面してポツンと一つだけ存在していた。
「研究所と跡地とかの痕跡とか近くにあると思ったんだけどなぁ。ハズレだったかな。」
「けんきゅうしょ、何だそれ?」
「なんでもないよ。ところであの丸い球拾った時、他に周りになんかなかった?」
「何もなかったよ。」
「拾ったのは昨日だよね?」
「違うよ2日前の日が落ちた頃だよ。」
(私が目覚めたのが昨日の昼頃だったから、起動のきっかけとなるエレルギー源となるようなものも周りにあると思ったんだけど、ここじゃなかったのか。)
「昨日のお昼頃どこにいた?」
「昨日の昼は隣の街の剣術魔法学校ってところにいた。また嫌なこと思い出した。」
「それはここから近い?」
「馬車がないと歩いてだと行くのは難しいかな。」
(じゃあ無理か。んっ?魔法?)
「今、魔法がどうとか言ってなかった?魔法ってこの世界にあるの?」
「何言ってだよ。魔法はあるに決まってるじゃん。」
「カイルも使えるの?」
「痛いとこつくな。俺は苦手なんだよ。うまく発動しないだよな。」
(だとしたらエネルギー源の可能性があるのは魔法か、それに付随した何かなのかも。それも気になるけどここから遠いのなら難しいから後で調べるとして、まずはこの近くに研究所があるかないかだよね。ここに岩があるってことはこの近くにってなんもないよね…。この岩だけって隕石のように落ちてきたらこんな状態ではないし、川上から流れてきた?)
「じゃあ、この川の上流にはなんかある?」
「崖から飛び出した四角い形をした岩以外特に変わったものは何もないかな。」
「それかな。そこってどれくらいで行ける?」
「ここから一刻くらい歩いた先かな。そんなに遠くじゃない。」
「じゃあそこ連れて行って。」
「ここだよ。」
「なるほど。」
(ほとんど崖に埋まっちゃってるけど、この飛び出してるものの形、研究所の一部で間違いない。見つけた。でも入り口あたりは埋まっちゃってるみたいだね。こんな状態じゃ建物の中に入れたとしても押しつぶされちゃってて中に入れないよね。もう少し色々準備をしてまた出直すしかないかな。もうしばらくはこのままかあ。)
「ここに、なんかあるのか?」
「あるはずなんだけど、こんな状態だと中に入れないし捜しようがないんだよ。」
「中に、入る?」
「うん。」
「どうやって?」
「それがわかんないから今日はあきらめる。」
「じゃあ捜し物は終了ってことなら俺は帰るぜ。」
「待ってよ。」
「なんだよ、もう頼み事は聞いたぜ。」
「置いて帰るのならその塊返してよ。」
「なんだよ。昨日も言ったけど、これは俺のだよ。」
「それがないと困るのよ。」
「これっていったい何なんだ?」
「私の記憶と心よ。」
「はあ?何言ってんだ?」
「だからそれは私の記憶と心を記憶したメモリーチップ。」
「まったくわかんねえ。お前そこに居るじゃん。」
「理解できないだろうけど、それは私自身なの。」
「混乱してきた。でもこれは俺のだから返さないよ。」
「返してくれなのならついていく。」
「好きにしろ。」
ミスミ時点の描写です