最終話 どうか永久に―
――
―――あれから、私は遂に息を引き取った。
長い長い…療養生活だった。
私は今、この柵だらけの旧家が代々祀られている墓に納められている。
今日は天気がいい。丘にあるこの墓地には穏やかな風が吹いている。
「――!」
「――。」
誰かがやって来たようだ。
本家当主逝去、納められて数ヶ月はひっきりなしに参る方々がいた。
今は…来る人間もいないはずだが…?
「結仁さん…やっぱりお花も…!」
「嫌ですよ。花なんかあげてあらぬ噂が立ったらどうするんです」
「う゛…」
――!
なんと…
友子と…結仁…
「早くして下さい。誰かに見られたら厄介です」
「そ、そんなぁ」
二人は…交流があったのか…。
「二度と京都の土は踏まないはずだったのに…」
「だ、大丈夫です!ここはコンクリートです!!」
「意味合いが違います」
はは…。母子仲良さそうじゃないか…。良かった、これで私も少し肩の荷が降りた。
友子は幾分ふっくらしたように思える。生活が良くなったのか着ているものも良いもののようだ。
幸せそうに結仁を見つめる友子…
ん?
…いや、なんだその目は?
恋する乙女の目だぞ。それは。
私以外の男にそんな目をするんじゃない、友子!
「線香…つけますね」
「はい…火、気をつけて下さいね」
「…私をいくつだと思っているんですか?」
「え?あ!す、すみません!」
…。
来てくれたのか。ありがとう、友子、結仁。
もう一度二人を抱きしめたいという願いは…遂に叶えられる事は無かった。
しかし…こうして二人は来てくれた。遥々と…。
二人はお墓に向かって手を合わしてくれた。
…仕方ないか。
息子だから、許そう。私も結仁が好きだしな。
私のかわいい友子が恋をしていたとしても…
凛々しいし、かっこいいからな。
…私に似て!
きっと、私に似てるから友子がそんな目をしているんだ。
きっとそうだ。
「教授…」
友子が私を呼ぶ。何回言っても、結局その呼び名に戻るんだよな。
「教授……」
――友子。
友子…。
――友子、次に生まれ変わったら必ず探しに行くよ。
柵も何もない。身軽な私となって、友子を探しに行くよ。
だからどうか待っていて欲しい。その時まで。
今度こそ幸せにするから…。
それまで…私以外の男に奪われないで。
私のかわいい友子。どうかそのままで。
「…誰が来るか分かりません。帰りますよ」
「え!?もう!?」
「では私は帰ります。ここからは別行動で。」
「そ、そんなぁ!結仁さんも教授に話したいことあるでしょ!?」
「…無いですよ」
無いのか…。
「…いや、言っておきたい事がありました」
さっきまでも若干冷たい感じのした結仁の声が更にじっとりとした重みを感じるものになった…。
なんか…恐いな。
「旦那様。旦那様は当時お屋敷で〝柔和な人たらし〟と使用人の方々に言われていたのを知っておりましたか?」
え゛…?
「柔らかい物腰に整ったお顔…微笑めば100人の女性が恋に落ち、惚れたお女中は数知れず…と、耳に致しておりました」
「ええ!?結仁さん、それ本当ですか!?」
ゆ、結仁…友子の前で…何を…!
「おまけにこちらの女性は未だに無知で世間知らず。学生時代であればさぞ、たらし込むのは容易なご様子」
ゆ…結仁様…!
「赤子の手をひねる程度だったとお見受け致します」
あぁ〜…それを友子の前で言うのはやめてくれ〜!
「旦那様。貴方様が大人として模範を示し、純然な態度を取るべきであったかと存じます」
…私と友子の天使は…成長し…ちょっと恐い子になりました…。
「ご、ごめんなさい。結仁さん…」
「貴方は人として危機感がなさすぎです」
今度は矛先が友子に行ってしまった。
「旦那様のようにはならないと思っておりましたが…」
結仁の声が幾分柔らかくなる。
「…甘やかすお気持ちも…分かりました」
…。
ああ、そうか…。
結仁にもいるのか…。
かわいくてかわいくて堪らない。愛しい存在が。
「…帰りますよ」
「え!?結仁さんの方が長かったですよ!」
「では、ここから別行動で」
「ええ!?嫌ですよ!」
「観光でも何でもどうぞご自由に」
「ちょっ!ちょっと待って下さい!教授!また来ます!」
友子がこちらを向いて挨拶をし、振り返って結仁について行った。
結仁も友子がこちらを向いた際にしっかりと私と向き合い会釈をしていた。
立派な子になったものだな。
「結仁さん、お茶でもして帰りましょう!」
「私はお土産を買ったら帰ります」
「ち、愛子さんも〝デート、楽しんで来て下さいね〟って言ってましたよ!」
「ええ!?」
驚く結仁。
(…愛子さんと言うのか。結仁の大事な女性は)
遠ざかっていく二人を見つめながら、二人の会話に耳を傾ける。
「…売られました」
「人聞きの悪い。〝母子水入らずで楽しんで〟って」
「…行きたいところは?」
「え?」
「…愛子さんのお願いなら仕方ありません」
…甘やかしているな、結仁よ。
またすぐに来ておくれ。
私の愛しい友子と…結仁…。
いつまでも…永久に―――
【完】
〜おまけ〜
「お手手拭き拭きしました?」
「…」
俺は目の前で浮かれているこの人をげんなりした気持ちも隠さず見据える。
仕方なく二人でカフェに入った。そう、仕方なく。
するとこの人のテンションがおかしくなった。
「はい結たん、あーん」
「そろそろいい加減にして下さい」
ケーキの乗ったフォークを俺の口元に持って来たこの人についに堪忍袋の緒が切れた。
【おしまい】
ご覧頂きありがとうございました(*^^*)
結仁くん主役の物語は
【一生に一度の素敵な恋をキミと】にて!