第6話 真実
詳細はシリーズ小説【一生に一度の素敵な恋をキミと】にて!
「…お父さん…少し…お時間頂けますか…?」
深夜皆が寝静まった頃、か細い小さな声が聞こえて来た。
「忠義か…。入りなさい」
結仁を探す手がかりを見つける為、実に数年ぶりに屋敷で床についていた所だった。
「失礼致します」
私の寝室に長男、忠義と二人で座る。場所柄いつもより近くに。こんな事は初めてで、自分がいかに子供と遠い距離にいたかを実感した。
「…結仁くんの事です」
「何か知っているのか!?」
「知ってるも何も…」
それから忠義は泣きながら結仁の身に起こっていた事を私に伝えた。
「……何故それをもっと早く私に伝えん!!?…答えろ、忠義!!!」
自分の事を棚に上げ、忠義の胸ぐらをつかむ。腸が煮えくり返る。自分にも母にも、妻にも…この屋敷の連中全員にも…!
「伝えるも何も………お父さんはおりませんでした……」
私に胸ぐらをつかまれたまま忠義は吐くように空虚に声を出す。
「…お父さんは私を…神か何かかと思っておりませんか…?私とて人間です。私に何が出来ましょうか…」
忠義は中学生。まだ…子供だった…。
掴んでいた胸ぐらを離し、ドカッと畳の上に座る。忠義も座り直した。
「ご相談したい父はここにはおらず、私は次期当主として…」
そうだ、分かっていたはずなのに…だから忠義を一人にしないと…
この皆が私利私欲を考えて動いている屋敷で当主は誰にも弱みを見せてはならない。
忠義が頼れるのは忠義より上の…当主の私だけだったのに…
「…お父さん…、私が大切なものは一つでは無いのです…」
「…」
「重圧あるお父さんも、余所者扱いされるお母さんも、お一人で屋敷を守るお祖母様も…私を慕う忠興も結仁くんも…祖先の想いが詰まったこの家も…」
「…」
「…全て…大切なのです…守りたかったのです…」
忠義が泣いたのはこれで二回目だった…。どんなときも次期当主として毅然とした態度でいた。
それを…無理して頑張っていたのだと知って、駆け落ちを思い留まったのに…
結局このざまだ、私は。
…私は…とことん愚か者だ。
「忠義…お前にはただただ辛い思いばかりをさせた」
謝るのは…やめよう、こんな私の言葉には重みが無い。
「そのような状態で…もし結仁が命を落としていたらと思うと…」
「お父さん……私が結仁くんにかまったのは…罪悪感も少しあったからです…」
「罪悪感?」
「私が結仁くんから父と母を奪ったのでは…と」
「それは違う、忠義」
「お父さんが家に神妙な面持ちでお帰りになったあの日の事が…どうも頭に残っております」
「決めたのは私だ」
「その罪悪感から……結仁くんに、罪滅ぼしのつもりもあったのかもしれません。あの時の私が結仁くんにこんな未来を与えてしまったのでは無いかと…」
「違う!忠義!私だ…全て…私だ」
結局は自分の事だけだ、私は。
この言葉を聞いてさえ、結仁の命より友子になんて伝えたら…そればかりを考えてしまっている。
きっと…友子は私を許してはくれないだろう。
私を信じて、結仁の幸せを願って…私に結仁を託してくれたのに…。
なんとかして結仁を探さないと。
生きているなら、まだ友子とやり直せる。
…こんな時でさえも私の考えは自分の幸せの事だけだ。
ずるい大人、それが…私だ。
「結仁くんに…」
黙り込んだ私に忠義が話し始めた。
「手紙を持たせています。私宛の」
「…手紙?」
「はい。きっと…結仁くんはいつか送って来るはずです。…死ぬまでには」
〝死ぬまでには〟に凄く違和感を覚えた。死を目前まで経験した結仁がそこまで窮地に陥らないと手紙は送って来ないという事か。
「忠義…お前は本当に立派だな。手紙を持たせてくれてたとは…」
結仁の手がかりが全く無くなった訳ではない。
まだ…希望がある…!
「…結仁くんからの連絡に…お父さんの助けが必要であれば、お父さんにもご連絡致します」
…なんだその言い方は。
「私の必要が無ければ?」
「伝えるか伝えないかは…結仁くんに聞いてからに致します」
「…私は結仁の父親だぞ」
「それを…おっしゃるのはいかがなものでしょう」
ぐ…
確かに、今更か…。
「忠義が結仁を守ってくれて良かった。心から感謝するよ、ありがとう」
それでも、結仁は私と友子のかわいい子供。
「…弟を守るのにお礼を言われる筋合いはありません」
これまでの口調から一転、ドスの聞いた恐ろしいまでの冷酷な声…。
「父の出来があまりにも悪いものですから、子は尻拭いばかりで大変でございます」
「なんだその口の聞き方は…!」
「怒りますか?叩きますか?今ここには二人です。この騒ぎを聞きつけて皆が駆けつけたとき、私の話とお父さんのお話、信用されるのはどちらか分かっておいででございましょう?」
「…」
私と違いカッとなることなく怒りすらも冷静に処理する息子。その眼つきと口調があまりにも恐ろしくて…
「裏表のある子だな」
「はい。お父さんとお母さんの子でございますから」
「忠義が…そんなに腹黒いとは思わなかった…」
いつも品行方正。これが我が家の長男だったはずだ。
「はい。私はれっきとしたお父さんとお母さんの子でございますから」
私を小馬鹿にしたような笑い顔に背筋が寒くなる。
「忠義は母親似だな」
きっと…忠義は私の子であるはずだが。
「お父さん…私は紛れもなくお父さんとお母さんの第一子でございます。どうかその事…お忘れなきように」
「そうか」
含みをもたせた言い方。きっと私の胸中を察しての事だろう。忠義は何も知らないはずだが…。
私の子…
もう一人の私の子を、何が何でも探し出さなければ…
手紙の件は【一生に一度の素敵な恋をキミと】の
【第一章 第10話 俺のソウルメイト?トラウマを消し去る為に賭けに出る】にて(*^^*)