第5話 名は結仁
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【一生に一度の素敵な恋をキミと】とリンクしてきます(*^^*)
――ピンポーン
「はーい!」
結局何一つ変える事の出来ないまま半年が過ぎた。相変わらず、友子の部屋に居座り続けている。
「教授、お帰りなさい!鍵は?」
「友子に出迎えてほしかったから持ってないよ」
随分と大きくなったお腹を抱えて友子が笑顔で私を迎え入れてくれた。大学には休学届けをだしたそうだ。
私は頭を抱き寄せて、そのまま頭にキスをする。
「かわいい…私の友子…」
そう伝えると相変わらず顔を茹でダコのようにして照れて俯く。この裏表のない友子がかわいくてかわいくてかわいくて…
「ほら、お土産。かわいいだろ?」
「女の子か分かりませんよ?」
「友子と私の子だ。絶対かわいい女の子だよ」
女の子用のピンクの靴下。こういった物を用意出来るのが最高に楽しい。
(男児育児に関わらず、しきたりだったからなー)
本当は一緒に買いに行きたいし、デートもしたい。友子としたい事がいっぱいある。
それなのに…私と友子はこの家の中でしか一緒にいる事が出来ない。
「男の子かもしれませんよ?」
「…調べたの?」
「調べましょうか?」
「この子は女の子だよ。こんなにかわいい友子から男の子が産まれるなんて想像つかない」
「私は…男の子だと思います」
「じゃあとってもかわいい女の子のような男の子だろうね」
純真無垢で真っ白な友子。きっと天使が産まれるはずだ。
本来なら交わる事の無い私達。教師と生徒。
それを…これから先も消えない一生の絆を結んでくれた、情け深い仁徳に溢れたお腹の子。
✽✽✽
「ぱーぱー」
そうして結仁は産まれ、2歳を迎えた。タイムリミットが近づいている。
「結仁、今日はパパとお出かけするよ」
言葉では言い表せない複雑な感情を抱えて、小さな小さな結仁の手を握る。
「結たん…パパの言うことちゃんと聞くんだよ…」
「まーまー?」
友子がしゃがみ込んで結仁を抱き締めながら、声にもならない声で囁く。
「教授…どうかどうか…結たんを宜しくお願いします。必ず迎えに来ますから…」
今度は泣きながら私に頭を下げる。…違う、悪いのは全部私だ。
友子は結局、大学は中退。本来なら今は卒業のタイミング、このまま実家に帰らせる。
私は友子から友達を奪い、大学を奪い、就職を奪い…
挙句子供まで奪う。
「友子…すまない。私が…」
全て自分の幸せの為に
「教授…私嬉しかったんです」
私の言葉を遮る様に友子が話だした。
「私を幸せにしてくれて、ありがとうございました」
泣きながら、友子は笑った。
これは、二人で話し合って決めたこと。
親にどう伝えようかと悩む友子を救いたかった。
そして………
結仁がいれば、俺と友子の縁が切れない。
子供はかわいい。しかし、それ以上に―――
俺の心の中に悪魔が囁く。
今の俺に取って、結仁は人質だ。
俺と友子を繋ぐための
✽✽✽
「だ、旦那様!?」
「ただいま、皆は?」
私は久方振りの屋敷に戻る。妻と母、息子達を集めてもらった。
(忠興もいるし、結仁がいても問題は無いだろう)
「その…お子は…?」
母が私に問う。
「私の子です。名は結仁」
長男、忠義が成人するまで、私はここを離れない。
「この家の、三男でございます」
それを…あの時誓った。
✽✽✽
「結仁は?」
「もう眠っていますよ」
妻に聞くといつもの返事。
「そうか…少し覗いて来よう」
(これまで三人川の字で寝ていたのだから、心細いだろう)
「駄目ですよ旦那様。子が寝ているのを起こしては頭脳が悪くなるのですよ?」
「…そうなのか?」
「はい、ですから起きるまで見守るのです」
なんだかんだ言って、私は子育て初心者。妻は二人育てている。完全に信用していた。
「…結仁はここの生活に慣れたのだろうか」
「はい。…私を〝お母さん〟と呼ぶのですよ」
「え…」
確かに、この家の…私と妻の三男として連れて帰った。
だけど…
結仁の母は…友子だ
「本当に、幼子はかわいいですねぇ。懐かれれば、尚の事」
そうして毒々しく笑う妻の顔を見て私は…
私と友子の結仁が…
なんだか酷く汚されたように思えて仕方なかった…
✽✽✽
妻に懐いている結仁を見るのが恐くて、結局私は友子と暮らしたアパートにいる日々が続いた。
ここは今、私が借りている。
もう、結仁は5歳になる。
友子も家業の手伝いが大変らしい。実家から郵便局も遠いらしく中々連絡が取れない。
「…屋敷に戻ろう」
もうこんな生活は耐えられない。結仁を連れて香川に行こう。忠義には何かあれば私を頼ってくるようにと伝えれば良い。
そして、友子のご両親に頭を下げて仕事を探して一からやり直そう。
あの三人で過ごした幸せだった日々をもう一度――…
✽
「結仁、結仁!?」
屋敷へと戻り、結仁を探す。
(部屋はどこだ?)
男児育児に介入せず、そんな事はもうしなくても良い。
いつまでこの家の昔の習わしに縛られるつもりだ。しきたりなんか私が変える。
「忠剛、どうしました?」
「お母さん、結仁はどこか出かけたのですか?」
廊下をバタバタと走り回り結仁を探していた私に母が話しかけた。
「ああ…そんな子もいましたかねぇ…」
「は?何言って…」
「養子に出しました。それだけです」
…
(は…?)
それからいくら問い詰めても何も答えてはくれなかった。
✽✽
「なんですか、旦那様。久しぶりというのにそんな恐ろしい顔をして」
「…結仁を養子に出したこと、知っていたのか」
母に聞いても何も答えてくれない為、私はこの形式だけの妻に問いただす。
「お義母様の決めた事に口を出せる身分ではございません」
「…これが忠興だったら!?」
「…」
「忠興なら…阻止していたはずだ」
実の母と慕った結仁の無念を私は妻にぶつける。こいつは私に他人の子を育てさせながら、その逆はしなかったのだ。
「…かわいいかわいい結仁の事でございます。どこに行きましょうとも必ず…かわいがっていただいておりますよ」
…そのどす黒いまでの本性を出さない表情に身震いし、結局妻からも結仁の事は何一つ聞けなかった。
結仁くんを連れて帰った時の周りの反応は
【一生に一度の素敵な恋をキミと】の
【第一章 第13話 関係を進めるために、自分の正体を知りたい②】にて(^^)
妻に懐いている状況を友子にどう伝えたのかは
【第一章 第57話 月曜日の職場と水に流すことの大切さ】
にて(^^)
ピンクの靴下はどうなったのかは
【第二章 第16話 少し成長する。憧れの恋バナ】
にて、それぞれ当時の周りの状況を書いています。
こちらも宜しくお願い致します(*^^*)