第7話 さて演技か天然か。
とか何とか。
先生はちょいちょいその類いの「現在の世界」的な話を差し込んできた。
いつ出来るのだか判らないけど、確かあの時お父様はまだ「連合」に参加するかどうか迷ってるみたいな感じだった。
「ちなみに先生はお名前からしたらザマンラントのご出身ですか?」
「生まれはザマンラントですね。ですが両親があちこち仕事で移動するものですから。一番長く暮らしたのはパラントですよ。マイア様のお母上もそこのご出身です」
「え? お母様この国で生まれたんじゃないの?」
私達の国の名はルスカヤという。別名「北の大国」らしい。そして私達はそのルスカヤとパラントの国境に近い場所に住んでいる。
さてそこで普段の家庭教師、フランシズ・シャガン先生の授業をふと思い出す。
ついつい興味なくて右から左へ聞き流してしまったことばかりだけど!
「パラントにも国王は居ますが、わが国に支配されている状態です。我々の国はパラントを通り、あの野蛮なティカ帝国を抜けなくては海に出ることができません。それが常にわが国にとって頭の痛いところです」
シャガン先生が言ってたことをちょいちょいと頭の中で図に直してみると。
「うわ本当にうちの国って北の端なのね」
「そうです。だからこそ強くならねば、とずっとやってきた訳です。あの砂漠がなければ、もっと大きく東に国を広げられたでしょうが」
「ん? そうすると、お母様はもともとうちの国ではなくてパラントの出身ってことだから」
「そうです。パラントの誇る歌姫でした」
「誇る!?」
ゲルト先生の言葉は時々いちいち大げさになる。……それとも大げさじゃないのかな?
「それが現在の陛下に見初められたということですが、パラントの女性ということで、寵姫として認められることもできず…… おいたわしい」
そしてハンカチで目を押さえる。先生、さらっと私の両親の正体言って下さいましたね。
ならば。
「ちょっと待って下さい先生、今何と仰有いました?」
「え?」
「お母様が陛下に、とか寵姫とは認められず、ってどういうことですか」
さっと先生の顔から血の気が引いた。
「あ…… マイア嬢、まだ聞いていませんでしたか?」
「聞いても何も。そう私に言うってことは、先生、本当なんですね?」
「はぁ! 何ってこと私の口は滑ってしまったんだろう」
頭を抱えて大きくかぶりを振る。さてこのひとのこの態度は本当か演技か。まあとりあえず両方と考えておこう。
「教えてください、先生が知っていることを……」
私はうつむいて絞り出す様な声を立てた。いや、そこで涙の一つでも出せればいいんだけど、そこまで私は演技派ではないので。
「判りました、お教え致しましょう」
先生は神妙な顔で私に向き直った。