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第5話 会話は歌、文章は恋文

 ……と私らしくない警戒感を持ってたんだけど。


「あ…… の? ゲルト先生、これは楽譜ではないでしょうか」


 初めての授業で渡されたのは大量の楽譜。


「そうです楽譜です」


 澄ました顔で先生はそう言った。


「そして御母君にもご協力をお願い致しました」

「びっくりしましたけど、私にできることでしたら!」


 お母様も何か上機嫌だ。


「いえいえ、歌姫レギナ・リンスカでしたらどの曲も完璧でしたことを懐かしく思い出します」

「その名前はもう昔のもの。ただのマイアの母ですわ」

「まあ一曲お願い致します。マイア嬢、お母君の歌い方を音でお覚えください」

「あ、あの、先生」

「何でしょう」

「何で歌なんですか?」

「それが一番貴女が短期間でリズムと発音を掴むのに良いからです。短期間で四カ国語を全てマスターしろなどというのははっきり言って無理です」

「無理ですか」

「無理です」


 超どきっぱり言いやがりましたねこの先生。


「文法等がっちり教えるのは今は論外。挨拶だけでも応用がなかなか利きません。それに何と言ってもまず! 貴女が嫌気がさしたらおしまいです」

「それは」


 図星だ。


「ですので歌詞とその訳で覚えていただきます。歌といえども、お母上の様に優れた歌姫の場合、異国の言葉の発音やリズムを完璧に歌いこなすことができます。貴女はともかく歌を覚えることを考えてください。楽しく!」

「楽しく」

「そうです。楽しくなければ人間は大量のことなど覚えられる訳がないのです」

「そうよねえ…… 私も刺繍とか苦手だったわ……」


 確かにお母様がそういうことしているところ、見たことが無い…… ピアノは好きで弾いていて、器用な指先だと思っていたのに…… 苦手だったんですねお母様……


「それではレッスンを始めましょう」


 先生にしてはがんばった笑顔でそれは始まった。

 お母様は知っている曲らしく、ともかくそれぞれの曲をピアノを弾きながら実に楽しそうに歌った。


「基本は子供用ですから、一曲は短いものです。挨拶から恋歌まで様々です」

「こ、恋歌ですか?」

「マイア嬢、一番てっとり早く異国語を書くのに上達する方法は何だと思いますか?」

「書く方ですか?」

「それは、恋文です」

「こいぶみ」


 すると先生は胸に手を当て、目を伏せて天井を見上げた。


「そうです。自分の気持ちを切々と訴える言葉を正確に伝えるにはどうすればいいか…… そういう時には必死で言葉を調べます。下手なこと言って嫌われたらどうしよう! という乙女心は武器にもなります」

「おとめごころ…… 何で先生がそんなことご存知なのですか?」

「恋する者は男女問わず乙女心を抱いているのです!」


 熱弁しつつもお母様はひたすら楽しく歌ってた。

 うーん、素晴らしい声。素晴らしい歌い方。確かにこれは意味を知りたくなる。

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