第1話 気付いたら十五歳の誕生日
「……どうしたんだね? マイアレーナ」
はっ、と私はお父様の声に顔を上げた。誕生日の御馳走。久しぶりのお父様の心配そうな顔。
ああ良かった、あれはちょっと夢でも見てたんだわ。
でもいつの間にお父様がいらしたのかしら。
「このところ貴方がやってくるからってどきどきしてあまり眠っていなかったからですわ、眠気が来ちゃったのね」
「おいおい、十五にもなってそれじゃ困るねえ」
十五!
ちょっと待って。確か今日は十六の誕生日……
―――違う。
ドレスの色。今日は十六の誕生日、女の子も結婚できる歳、大人の印よ、とお母様がしっとりとした紅茶の色のドレスを用意してくれたはずなのに。
視線を落とした袖の色は薄紅色。一番大好きな薔薇の色。
去年の誕生日に着たドレス!
ああ、確かに覚えがある。テーブルの真ん中に作られた飴細工。翼のある馬。
そしてお母様の焼き菓子の上に毎年飾られる護り細工―――歳の数だけあるはず。十五。
ぐっ、とドレスの膝を掴む。ああこれは確かに去年の誕生日だわ。
「久しぶりだ。お前の歌も聴きたいな」
「あら貴方、最近練習していないから…… でもええ、マイア、伴奏をお願いね」
「あ……はい」
広間の大きなピアノの前に座る。お母様、楽しみにしてたんだろう。譜面が置いてある。
この曲なら手癖で充分弾ける。指が動く。
お母様は昔歌手だったらしい。とてもしっとりとした美しい声が広間全体に流れる。いつも仏頂面をしている召使い達もこの時ばかりはうっとりと戸口で聴いている。
一曲終わると、お父様はお母様を抱きしめ、軽く両頬にキス。
「ああ、一年ぶりにこの声を聴けた。だが来年は難しくなるかもしれない」
「……お忙しくなるのですか?」
「東の砂漠の向こうの帝国を知っているだろう?」
「大きな国だと聞きました」
「そう。だからこちらの国々はしばらく諍いもなく、『連合』を作ろうとしている。だが我が国はそれに加盟するか今意見が割れている」
「私はその辺りはよく判りませんが、大変なのですね」
「お父様、来年はいらっしゃらないのですか?」
私は思わず口を挟んだ。
「難しいかもしれないね。その時にはマイアレーナ、愛を込めてプレゼントを送るよ。おお、それに来年は十六か。そろそろお前にもいい結婚相手を探さなくてはな」
そういう話が―――あった? あったかもしれない。けど去年の私にはそんなのはまだ遠い話と思ってたんだ。
それにプレゼントがお父様から? どう考えればいいの?
「お父様、お願いがあります」