燃え盛る溶岩ゲロ
近づけば近づくほど炎からの熱風は強くなる。
息をするのも困難なくらいだ。少しずつではあるが、吹き出す炎の量が増えてきている。 早くなんとかしなくては……この辺り一帯は火山地帯のように近付けなくなってしまう――。
歩く度に回復魔法が必要なダメージゾーンになってしまう。
「皆の者、待たせたな!」
魔王様が瞬間移動をして現れたかと思うと、辺りが急に薄暗くなった。
「あ、あれは!」
――大空を舞う翼竜。その影が辺りを暗くしたのだ――。
「狂乱竜クレージードラゴ―ン!」
「ウンギャアギャア」
「さあ、狂乱竜よ、お前の燃え盛る溶岩で吹出す炎に蓋をするのだ!」
「さすが魔王様! ナイスアイディーアでございます~!」
「魔王様、天才です!」
「魔王様……ええっと? あ、素敵です!」
スーっと口と鼻から大きく空気を吸い込むと――、
「オ、オオオ、オうええええー!」
ゲロゲロゲロビチャビチャビチャー!
狂乱竜の最強最悪の必殺技……燃え盛る溶岩ゲロ……いつ見ても汚い。飲み過ぎて排水溝にぶちまける忘年会シーズンのおっさんみたいだ。
毎日食べている僅かな量のドッグフードで、なぜこれほどまで溶岩を吐き出せるのかが摩訶不思議だ。エコなのだろうか……。いや、これを見ればドラゴンに火を吐くなと言った魔王様のお気持ちも分からなくはない。
ドラゴン一頭あたりのC02排出量は……桁違いだ。
しかし、燃え盛る溶岩ではガスと共に勢いよく噴き上げ続ける火柱を止めることはできなかった。
溶岩が炎で飛び散って辺りに散乱し、なんか……汚い。
そしてゲロ臭い……すっぱぐさい~! 硫黄な臭いがし貰いゲロしそうになる――。
「やはり……駄目か」
「どうすればいいんだ!」
魔王様も青い顔をされている。いや、いつもの青色だ。
「狂乱竜は地獄の炎もへっちゃらなはずだ。なんせ溶岩を吐くくらいなのだから」
「それなのに吹き出す炎を止められないなんて……」
炎もへっちゃらなドラゴンの硬い鱗……龍鱗。
「そうか――! 狂乱竜の巨体をもってすれば、炎の吹き出し口を押さえ付け、炎を止められる――!」
「おお、デュラハンの言う通りじゃ!」
――よっしゃ、魔王様のポイントゲットだ! 他の四天王の悔しそうな顔が……羨ましい。首から上が無いのが……コンプレックスだから。
「狂乱竜よ、そのバカでかい体で炎の吹き出し口を封鎖するのだ!」
「ウンギャ?」
「ウンギャではない! 炎の吹き出し口を封鎖し火を消し止めるのだ!」
一度火が消えれば黒い原油とガスの噴き出しに変わる。その瞬間に周りの炎を消し去れば、なんとかこの惨劇は食い止められる――。
「ウンギャ?」
……アホドラゴンめ……。
誰かドラゴン語が分かるスキルかアプリのあるやつはいないのか。
なんとかクレージードラゴ―ンを炎の吹き出し口へ向かわせる方法……。
……ある。
というより、ないことはない……。
「仕方がない。私がこのドッグフードを持って炎の吹き出し口へと走ろう」
クレージードラゴ―ンを連れてくる時に魔王様が一箱だけ餌を持って来ていたのだ。魔王城近くのホームセンターで一箱四九〇円で売っている最安値のドックフードだ。
「犬まっしぐら」と書いてあるが、クレージードラゴ―ンもまっしぐらなのだけは確証済みだ。
「お前、さっきは炎の熱さには耐えられないと言っていただろう」
「数分くらいならなんとかなる。吹出す炎を消せるのは一瞬だけだ、その隙に周りの炎をソーサラモナーの魔法で消してくれ」
「あ、ああ。分かった。最強の冷却魔法『凍えるようなボケ潰し』で一気に消火してやる」
凍えるような……ボケ潰し? ……そんな魔法に命を預けなくてはならないのか……。ネーミングの大切さをもっと理解しろと言いたい。
「……頼む。そして火が消えたらサイクロプトロールは吹き出し口を大きな岩で塞ぐんだ」
「あ、ああ。任せておけ。火さえ消えればへっちゃらさ」
「足元は熱いと思うから気を付けてくれ」
「ああ、耐火安全ブーツを履いてきたからその心配はない」
――その辺の準備は周到なようだ。
「よし、行くぞ――!」
大きく声を上げて勇気を奏でだす! 餌箱を持って炎の吹き出し口へと走った。熱気が容赦なく金属の鎧を熱する。
「うおー、あっちー!」
餌の箱は厚紙だから一瞬で燃え去ったが、中の銀色の袋は辛うじてまだ燃えはしない。だが時間の問題だ!
「さあ、おいで! 餌だぞ!」
「ギャアギャア~!」
餌の入った袋が見えたのだろう。狂乱竜が一心不乱にこちらへ突進してくる――。
「そ、そうだ。燃え盛る炎をその体で――」
もう熱くて動けない――。声も出なくなってきた――。
CO2削減のためとはいえ……無茶をし過ぎてしまったようだ……。目の前がぼんやりと歪んで見え始める……。
次に生まれてくる時には……CO2が少なく緑が多い……美しい大地で……。
顔がニョキニョキ生えていますように……。
「――デュラハーン!」
「いやあー!」
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身近にできるCO2削減を考えて実践しましょう!!
決して無理はいけません。継続できる削減こそ大切なのです。