MP割り増し
「魔王様、この削減リストに記載されている『炎ノ魔法ヲ使用禁ズ』もいささか極端でございます」
魔法使いには得意分野があり、炎の呪文を得意とする者もいる。また、炎に弱いモンスター……じゃなくて、炎に弱い人間どもが得をし、バランスが崩れてしまいます。
「魔王様も炎の魔法をお使いになりたくはございませんか?」
「……寒い日とかか」
「さようでございます」
寒い日に氷の魔法なんて見たくもないです。冬に雪の女王の映画も見たくないです。
魔王様は顎に手を当てフムフムと策を考える。良い案が浮かべばよいのだが、期待しない方が身のためなのだ……。
「じゃあ、炎系のMPを5倍増しにしよう」
……5倍増し? 微妙な割り増しだなあ……それで使用頻度が本当に減るのだろうか。右手を思いっきりパーにしている魔王様が……いささか歯痒い。
「魔王様、そもそも……MPってなんですか?」
私には魔法が効かないスキルがあるが、逆に魔法は一切使えない。MPと言われてもピンとこないのだ。マジックポイントの略だったと思うが……。
「ああ、魔王様に献上するパワーの略じゃ」
――魔王様に献上するパワー! 略してMP!
「魔王様入れ食い? ひょっとしてそれが魔王様の力の源なのですか?」
頭をまたポカリと叩かれた!
「いたい! 暴力反対!」
「入れ食いではない! 消費したMPの10%だけせしめるだけじゃ!」
消費税――!
いや、消費MP! いやいや消費消費MPだ!
10%だけせしめる? 横領? ひょっとして何も知らない勇者一行も魔法を使い続け、魔王様にパワーを献上しているのか――。
魔法を使い続ける限り……勇者一行には絶対に魔王様を倒せない……。
それはまるで、火を使い続ける限りCO2の増加を止められないのと似ている……。
「内緒だぞよ、デュラハンよ」
「御意!」
内緒ならベラベラ喋らないで欲しい。ソーサラモナーは知っているのだろうか……。魔王様にMPをせしめられていることに……。
「――大変です魔王様!」
丁度その時、ソーサラモナーが慌てて城内から駆けつけてきた――。さっきの話が聞かれていなかったかドキドキしてしまうではないか――!
「何事かソーサラモナーよ。卿が魔王城の外へ内履きのまま走り出てくるとは」
ただならぬことが起こったのだろう。
……サーバーがダウンしたとか。
ソーサラモナーは魔王様の前で片膝を付く。
「勇者一行パーティーめが、井戸を掘っている最中に……、原油を掘り当ててしまったそうです!」
「――!」
「なんだと!」
「偶然ですが偵察魔法『ドロドローン』で得た事実にございます!」
偵察……? というか、ほぼ盗撮で得た情報なのだろう。ソーサラモナーは怪しい禁呪文をいくつも知っているから……。
「くそ―、羨ましい~!」
……ソーサラモナーが爪を噛んで悔しがっている。
「原油で滅茶苦茶お金儲けができてしまう! 国が一個買えるほどの!」
「前に勇者が心配していたハーレムの維持費すら……容易く支払えます」
左団扇だ。もうバカバカしくて魔王城には攻めて来ないかもしれない。
「ちゃうやろ! 掘り当てた原油を様々な事に燃やして使えば、朝の目玉焼きとは比較にならないほどのCO2が排出されてしまうではないか――!」
魔王様――真面目!
騒ぎを聞きつけた他の四天王、サイクロプトロールとサッキュバスも駆けつけてくる。
「井戸を掘って原油を掘り当てるなんて、運がいいわね。原油は飲めなけど」
「ハッハッハ、よほど日頃の行いがいいんだ」
「そうそう、俺なんか畑で掘っていても去年の腐った種イモしか掘り当てられなかったのだぞ、ハッハッハ」
種イモ? ムカゴのことだろうか……。サイクロプトロールの趣味は家庭菜園らしいのだが、今はどうでもいいぞ――。
「――卿らはなにをのほほんとしておるのじゃ!」
魔王様は両手をグーにしていらっしゃる。
「そうよ、こうしてはいられないわ。今すぐ行きましょう。――横取りするのよ」
サッキュバスの酔いが醒めているのが……いささか恐ろしい。
「我らは魔族。人間の敵なのよ」
こんなときは好都合――か。
「横取りをして埋めるのじゃ」
「――埋める?」
「ホワーイ!」
寝言は寝ておっしゃって下さいと言いたいぞ!
「せっかくの金のなる木を……お埋めになるのですか――」
「予のため、魔族のために埋めるのではない。この星に生まれる後世の者達のために埋めるのじゃ――」
――!
魔王様の一言に……心を打たれた……。
「「――埋めよう! 未来のために!」」
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身近にできるCO2削減を考えて実践しましょう!!
――未来のために!!