燃え盛るフェニックス
一通り城内をブラブラと歩き、魔王城外に出た。
今日も平和だ。魔王様も大あくびをしている。
「カアー、カアー!」
カラスかと思って見上げると、不死鳥フェニックスが体をメラメラと燃やしながら飛んでいる。
……不死鳥フェニックスも……カアカア鳴くのだ。なんか残念だ。もっと美しい声で鳴いて欲しいものだぞ。
「デュラハンよ、魔王城内から消火器を持ってくるがよい」
「――! ま、まさか!」
魔王様がニヤリとほくそ笑む。こういう表情はいかにも魔王様らしい悪い顔で、喜ばしいのだが……。
「それは駄目でございます! それだけはおやめ下さい!」
「予もやりたくてやっておるのではないのだ。CO2削減のため……この星の未来のために心を鬼にしてやるのだ。消火器を持って来い! これは命令だ」
――さっきはほくそ笑んでいたくせに。なにが「心を鬼に」かと問いたいぞ!
魔王城内に入ってすぐのところに置かれた真っ赤な消火器。近くのホームセンターで数年前に購入したものだ。
半年毎にちゃんと点検しているから使えるはずだ。ゆっさゆっさ中の粉が固まっていないか確認する。フェニックスに……気の毒なのだが魔王様のご命令には従わなくてはならない……。
たとえそれがパワハラだと分かっていても――。
消火器を持って行くと、魔王様がフェニックスを呼び寄せていた。
「カーカー」
だからその鳴き声はやめて欲しいぞ。安っぽいイメージになるから。……しかし、消火器で火を消された後はいったいどうなるのだろうか……。ひょっとすると丸焦げの鳥……真っ黒なカラスそのものになるのではなかろうか……。
「やれ。デュラハンよ」
「……」
「聞こえなかったのか? やるのだ!」
「……はっ!」
消火器の安全ピンを抜き、ホースの先端をフェニックスに向ける。
「――カーカー!」
あどけない瞳で見ないでくれ――!
「すまない、フェニックスよ」
力任せにレバーを握った。
見ていられないから……目を閉じた。首から上は無いのだが……。
ブシュ―!
「カ? カー!」
白い粉末状の消火剤がフェニックスの炎を包み込む!
「カー! ゲッホゲッホ! カッカー!」
「すまない!」
白い靄に包まれて、フェニックスの姿が見えなくなるのだが、赤い炎が徐々に消え去るのだけは分かる。
魔王様が目を輝かせているのが……歯痒い。
火の消えたフェニックスの姿を見てしまい……二人は絶句した。
焦げているかと思ったら、不死鳥は煌びやかな真っ白な翼を伸ばした。
まるで――白鳥……ではなく……アヒル……でもなく……。
「「ニワトリじゃないか――!」」
フェニックスは元々ニワトリだったのか――! 真っ赤なトサカが眩しい。
「ありがとうございます、魔王様」
――しかも喋ってる。
「大昔に体に火が燃え移ってしまい、消すに消せず長年辛い思いをしていたのです」
「……」
「このまま永遠に燃え続けるのかと怖れていました」
「……いや、フェニックスよ」
火が消えた白いニワトリをフェニックスと呼んでいいのだろうか。
「体に火が付いたのなら、水の中に飛び込めばよかったのではないのか」
池や川に飛び込んだりすればよい。さらには大雨の日に走り回れば自然に火は消えるだろう。
「……水は嫌いです。水は怖いのです」
――あんたが怖い!
いったい何年燃え続けていたのか怖くて聞けやしない~。
魔王様のCO2削減策も……まんざら正しいのかもしれない。知らないうちに世の中のモンスターはおかしく成長しているのかもしれない。
……炎の精霊にも消火器が効くのかもしれない。
「どうもありがとうございました。魔王様」
「よい。これからも予のために尽くすがよい」
「それでは失礼します」
コッコッコと鳴きながら歩いて行った……。ニワトリになったから空を飛べなくなったのかもしれない。
本当にいいことをしたのだろうか……半信半疑だが、CO2の削減ができた事だけは確かだ。
もう二度と火に近付くなよ。
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身近にできるCO2削減を考えて実践しましょう!!
火の用心で火事をなくし、CO2を削減しましょう!