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食堂におけるCO2削減目標


 魔王城内の階段を下りていると、礼儀を知らないスライムたちが気安く魔王様に挨拶をしてきた。

 礼儀知らずは怖いもの知らずだ。……だからザコ扱いされるのだと教育したい。

「魔王様おはよー!」

 御座いますを付けよ。

「魔王様オハロー!」

 それは昼の挨拶か朝の挨拶か……ハッキリせよ!

「おはよう魔王様、いきなり飛び蹴り~!」

 スライムに飛び蹴りは不可能だろう。パンチなのかキックなのかスラ分からない。

「あいたっ!」

「こら! いくら体が柔らかいからといって魔王様に体当たりするんじゃない!」

 階段で悪ふざけをしては危険だ。

 魔王様は城内でも人気があり、モンスターの強い弱いに関係なくお近づきになられるのはいいが、少し度が過ぎている。スライムに囲まれて階段を下りられない。


 スライムごときに舐められてはならない――。


「ええ~い、デュラハンにも飛び蹴り~!」

「失せろ」


 ……スライムに「失せろ」と言われてしまったぞ……。額の血管がピクピクしそうだ。

 額は無いのだが……。

「どこに失せればよいのやら……」

「ほっほっほ、普段の口癖がスライムにうつってしまったのだ。よいかデュラハンよ、自分が言った言葉は必ずとして自分に返ってくる。悪い言葉を使えば使うほどその言葉は自分に返ってくるものなのじゃ」

「――!」

「言葉には目に見えぬ力が宿っておる」


 珍しくまともなことをおっしゃっている……鳥肌が立つ。


「珍しくないわい! CO2削減も立派なまともなことじゃわい!」

「御見それいたしました」


 一段一段ゆっくり階段を下りる魔王様……スライムよりも遅い。



 魔王城一階にある魔王食堂は普段は賑わっているのだが、早朝だけはガラガラに空いている。

 点々と丸椅子に座ったモンスターが眠たげな顔でそれぞれのトレーに乗せられた食事や餌や燃料を食べている。食べ終わればトレーや食器類は必ず自動食器洗浄機に裏返して置く。

 モンスター達のマナーは悪くないのだが、食器の大きさがモンスターにより様々で、まれに量の多い少ないで揉め事が起こり、四天王がそれを収める損な役割を担っている。


 魔王様は目玉焼きを優雅にフォークとナイフで食べていらっしゃる。私も毎朝魔王様と同じメニューを共に食する。

 トーストと目玉焼きとブラックコーヒー。これだけあれば十分だ。


「毎日食べても焼き立てのパンは旨いなあ」

「はい」

 焼き立てといっても、7枚切りの食パンをもう一度トースターで軽く焼いたもの。焼きたての意味が……ちょっと違う。

 魔王様はお優しいお方だ。食パンの耳の部分をいつも私のお皿にさりげなく置いてくださる。成長盛りの私にもっと炭水化物を食べて大きくなれと期待されているのだ――。

 パンの耳を頬張ると、少し焦げ味の効いた香ばしい香りが口一杯に広がり、コーヒーの香りが嗅覚を目覚めさせてくれる。

 首から上は無いのだが……焼き立てのパンは絶妙だ。


「しかしだ。この美味しい朝食ですらCO2を排出しておる」

 コーヒーカップの湯気を顎に当てながら魔王様が渋い顔をする。

「なんででふかムシャムシャパンもコーヒーも呼吸ムシャムシャしてませんよムシャムシャ」

 燃えている訳でもない。どちらかと言えば体内で燃えてエネルギーになるはずだムシャムシャ。

「食べながら喋るでない」

「……申し訳ございまムシャムシャせん」

「……」

 だったら食べている最中に話しかけないで欲しいぞとは言えない。まだ口の中にパンの耳が……4つ角が残っている。

 先に食べ終えた魔王様がコーヒーに砂糖を数杯入れる。魔王様は正真正銘の甘党だ。


「卵は……生でも食べられるのになあ……。そうか――!

 ――今日から目玉焼きは全て生卵としよう――!」


 ……微妙。


「卵を目玉焼きにするためにどれほどのCO2を排出しておるのか、卿は考えたことはあるか」

「ないでス」

「バカ者! 四天王がそれでは、魔王軍全体の士気に関わるではないか!」

「申し訳ございません!」

 咄嗟に謝るのも四天王としての必要スキルだ。

 浅はかだった。目玉焼きを焼くためのCO2……って、いやいや、それは本当に四天王の業務として必要なのだろうか……。

 食堂の料理長の仕事でもいいのではないか?


「まずフライパンを熱する。熱くなったら油を引き卵を割って蓋をする」

 魔王様は蓋をする派なのですね。

「そこに少しだけお湯か水を入れる」

 魔王様は蒸し焼きにする派なのですね……。

「さすれば美味しい目玉焼きのできあがりだ」

「はっ!」

「『はっ』ではない!」

「はは~っ!」


「――皆の者、聞くがよい! 明日から卵かけご飯――ナマバンだ!」

「「――!」」

 突然立ち上がって食堂中に響き渡る大声を上げた魔王様。ちょっと何言っているのか分からないや。

 ナマバン――?

「魔王様、いつもながらですが意味が分かりません。ナマバンとはいったいどういうことですか?」

 ギャバンやシャリバンやエステバンの後継機種なのだろうか。……冷や汗が出る。古すぎて。

「生卵をご飯の上にバーンと割るから――ナマバンだ」

「生卵をご飯の上にバーンと割るから……ナマバン?」

「リピートするでない。オウム返しかっ」

「も、申し訳ございません! しかし、よろしいのですかナマバン」

「ナマバンを語尾に付けるな。魔王に二言はない。卵を焼くためにこれ以上不必要なCO2を排出してはならぬ。卵は生でも食べられるのだ」


「――これこそ、(いちじる)しい環境側面なのじゃ!」


 ああー、その言い回しはどこかで聞いた事があるのだが……。

「著しくはございません!」

「著しいもん!」

 もんと言われれば……反論できないが、絶対に後悔するぞ……。

「魔王様、それではこれからオムレツやオムレットも生になるのですぞ」

「えー――!」

 えー! じゃない。誰だ、二言はないとか言ったのは。

 美味しくないだろうなあ……半熟ならともかく……生のオムレツ。想像できない。形とか。

 いやまてよ。生のオムレツなら形崩れしたり破れたりの失敗はしないかもしれない。

 絶対に焦げる心配もない――生だから。


「本当によろしいのですね」

「予に……二言は……ない」


読んでいただきありがとうございます!

ブクマ、感想、ポイント評価、面白かったらレビューなどもお待ちしております!

身近にできるCO2削減を考えて実践しましょう!!


目玉焼きを焼くために必要なガスの量……分からなかった……。

カセットコンロで缶の重さを焼く前と焼く後で量れば算出できるかもしれません??

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