救世会編8
そんな優秀な限定型デバイスを調整できるのは、準1級以上の資格が必要となる。
「うーん、1時間くらいくれ。大丈夫か?」
「全然問題ありません。いくらでも待ちます」
四亜の了承を受け、忍は哭烏の調整に入る。
忍の調整待で手持無沙汰になってしまった俺達は、その場に座り込んで待つことにした。
「そういえば四亜、1つ聞いていいか?」
「何でしょう?」
「彼氏はいるのか?」
「何で蒸し返すんですか!?」
またも真っ赤な顔で俺をする四亜。
いやぁ、眼福眼福。
あぁ、可愛い可愛い。
暇な時は後輩いじりに限る。
「いやぁ、実際気になってね。いくらお嬢様学校とは言え、男と全く接点がないというわけではないだろ?」
「そ、そんなことないですよ。私が通っていた女学校は規律が厳しくて。それに、私は寮で生活していましたし」
「とか言いつつ?」
「こっそりと抜け出していましたけど・・・って、何言わせるんですか!」
勝手に自爆しておいて怒られた。ポカポカと俺の肩を叩いてくるが、孫がおじいちゃんの肩を叩くぐらいの強さなので、全くといっていい程痛くない。
「でも、抜け出してまで男性の方と会ってはいませんでした」
「ほぅ、男に会うのにそんな手間をかけなくてもいいと」
「違います!」
「否定するとこがまた怪しいな」
「本当です」
「だそうだ。証拠収集よろしく」
「あいよ」
俺の要請を受け、忍はデバイスの調整作業をする手を止める。そして、パソコンでカタカタと別の作業を始めた。忍が何故作業を止めたのか察したのか、四亜は全力で忍の作業を阻止しようとする。それはもう、魔法を使ってでも止めたかったらしい。
さすがに魔法を使う相手を魔法なしで止めるのは無理なので、俺も正当防衛として魔法を使わせてもらった。その結果、俺は四亜を羽交い絞めにすることに成功したわけだが、あんな魔法戦を繰り広げて、俺の服と部屋が少し焦げるという被害で収まったのは、まさに奇跡と言わざるを得ない。
「四亜ちゃんのいた高校付近の監視カメラの記録は・・・これか。えっと・・四亜ちゃんが高校生の時のデータは・・・あった!」
「どれどれ?」
「ん~~ん~ん~~」
俺は四亜を縄で縛って、ハンカチで口を塞いだ後、忍が見ているパソコンの画面を見る。罪悪感がないでもないが、好奇心の前ではそんな些事は気にならない。泣いている女性が縛られている姿は色々アウトだが、そんなことも気にしない。
「「・・・」」
「ん~~~」
画面には怪しい姿をした女が、本屋で怪しい本を買っている姿だった。
女の持っている本のタイトルは‘美形なお坊さんのプライベート~美容師のお兄さんと・・・~’だった。
端的に言えば、後輩がBL本を買っている姿だった。
「・・なんか・・ごめん」
「俺、デバイス調整に戻るな」
「・・・」
なんとも気まずい空気が流れる。こんなとんでもないパンドラの箱を、彼女が抱えているとは思わなかった。
「えっと」
「・・・もういいです」
「え?」
声のする方を見ると、口を塞いでいたハンカチと縄を外した四亜がいた。虚ろな目で、恐ろしいオーラを纏い、予備用のナイフ型デバイスを構える四亜がそこにいた。歴史に残るサイコパスも、今の四亜の姿を見たなら裸足でダッシュは間違いないだろう。
怖いよ、四亜ちゃん。
そこからはお約束というかなんというか・・・とりあえず、消火器を使うことになったことだけはここで述べておこう。
その後何とか四亜の機嫌を直し、普通の雑談を行うところまで仲を修復した俺。さすが俺。
まだ目に見えない溝があるが・・・そんな溝など気にも留めず、しばらく四亜と仲良く雑談をしていると、俺と四亜の耳にチャイムの音が響く。この部屋に客とは珍しい。基本的にこの部屋への来客なんていうのは俺、奏、三日月先輩、財丈夫妻くらいなのだが。
「おい忍、お客さんだぞ」
一度作業し始めると、チャイムの音ぐらいは平然とシャットダウンしていしまうやつなので、俺はできるかぎりの大声で忍に来客を伝える。
「ん?あぁ、もうこんな時間か。この部屋まで通してやってくれ」
「はいよ」
俺は忍に言われた通り、玄関まで行き扉を開ける。扉を開けるとそこには女がいた。黒の長髪を後ろに結い上げている、どこかで見た覚えのある女性が。
「・・・どうも」
「こんにちわ。あなたが財丈忍ですか?」
「いや、あいつは奥の方で作業だ。とりあえず部屋に入ってくれ」
俺は目の前の女を部屋にあげ、忍のいる所に案内する。
「忍、これはどういうことだ?」
「何が?」
「お前の部屋に来たこのお嬢さん、最近どこかで見た覚えがあるんだよなぁ」
「その・・・私も見た事があります。今日、本日、煙間先輩から渡された写真で」
「偶然だ偶然。他人の空似ってやつだろ。世の中には顔が同じ人間が3人いるって言うだろ?」
忍は作業をしながら俺の質問に答える。惚けながら。
「お嬢さん、お名前は?」
「救世神と申します」
丁寧な口調から出てきた名前は、案の定聞いたことのあるものだった。
「忍、聞いたことのある名前なんだが」
「空耳だ。それに、神なんて名前どこにでもあるだろ。メジャーだろ」
「ほーう」
俺は鬼のような形相で忍を睨みつけるが、忍は我関せずといった感じだ。そうだった。俺はトラブルを引き付ける天才だが、こいつはトラブルをややこしくする天才だった。俺は額に手を当て、これからの方針を考える。
「どうした?頭痛か?」
「あぁ、頭が痛くて仕方ねぇよ。どっかの馬鹿のせいでな」
馬鹿に文句を言うのはこれくらいにし、俺はこの状況を整理する。