救世会編7
「で、何を調べればいいんだ?」
「救世神の情報についてだ」
「あいよ。けど、高くつくぜ」
「安心しろ。経費は全部風紀委員持ちだ」
「なら安心だ。三日月先輩は金払いがいいからな」
そう言うと同時に、忍は目の前のキーボードをかたかたといじりだす。俺はパソコンのことは全くわからないので、忍の行動をただただ見ているだけだ。四亜も俺と同じらしく、黙って忍の作業を見ている。
「んー、大した情報はないな。信者のブログに救世神がどんな人物かは書いてあるけど、信憑性は低いだろうし。ギルドの持っている今までの調書も大したものはない。ギルドとの衝突を上手く避けてるみたいだな」
「救世会のサイトとかには何か情報がないのか?」
「まともなのはないな。写真と簡単なプロフィールだけだ」
俺と四亜は救世神の簡単な情報が書かれているページを見る。救世神は現在18歳。幼少の頃から救生会の教えを叩きこまれ、将来は素晴らしい教祖になることを期待されていた。しかし、教祖である父も、教団の幹部も、信者の人達にも予想外のことが起きた。
それは、救世神がお告げを受けたことだ。それにより、当時14歳の彼女は神になったのだ。
神になった彼女は、魔法が出現したこの世界で、救世会の信者を救うために降臨したと考えられており、今は‘祈りの間’という所で、毎日信者と世界の幸福を祈っているらしい。
見せてもらったページに書かれているのはそれくらいだ。
「悪いな、大して役に立てそうにねぇ。今のところは」
「今のところ・・・か」
「あぁ、もう少し広く、深く調べてみる。時間は多少かかるが」
「なるべく早く頼む。大して怪しくないところが逆に怪しい。厄介な事になりそうだ」
「厄介なのはいつも通りだろう」
忍は呆れたような笑みを浮かべながらこちらを見る。
「そういえば煙間先輩、四亜は今回何をすればいいんですか?」
「ん?あぁ、四亜は俺と一緒に救世神の見張りかな。しばらくは」
「はい」
「しばらくは・・・ね」
「何だ?含みのある言い方だな」
「いや、何でも」
またも呆れたような笑みを見せる忍。俺はその笑みに違和感を感じつつも、あまり追及することはしなかった。どうせ、こいつはまともに答えてはくれないだろう。
「ところで、四亜ちゃんは彼氏とかいるの?」
「え・・・え!?」
急な忍の質問に、四亜は顔を真っ赤にしながら狼狽える。狼狽えすぎてその場で転んでしまう。何もないところなのに。
「はっはは、初心だねぇ」
「あんまりルーキーをいじめないでくれよ。お嬢様学校出身なんだから、こういう話題は苦手みたいなんだ」
「わ、私は・・」
ぱくぱくと金魚のような口のままで、そのまま金魚のように真っ赤な四亜が見ていられなかったので、俺は先輩としてフォローを入れる。
「忍の馬鹿を相手にするな。それより、こいつはデバイスの調整もできる。今日の内に調整してもらったらどうだ?」
「忍先輩、そんなこともできるんですか?」
「デバイス調整1級の俺に任せなさい」
「1級ですか!本当に凄いじゃないですか」
このちゃらんぽらん、機械関係なら何でもござれだ。その証拠に、日本国内で78人しか持っていない‘デバイス調整1級’の資格を持っている。
デバイスを扱う人は国内、国外問わず貴重だ。本来デバイスを調整するには、各県に基本1か所しかない‘調整技術研究所’に依頼しなければならないのだが、調整技術研究所の職員は数少なく、依頼をしてからデバイスの調整が行われるまで、最低でも3か月はかかる。優秀な、1級の資格を持つ技術師に見てもらうとなると、少なくても1年は待たなくてはならないだろう。
これだけ言えば、どれ程この馬鹿が貴重なのかがわかるだろうか。
天はこの馬鹿に何故2物を与えたもうたのか?
世界の7大不思議に入る謎だと思う。救世神に会った時にでも聞いてみよう。
「で、四亜ちゃんのデバイスはどんなのだ?」
「はい。これなんですけど」
四亜は腰にぶら下げていた小太刀、哭烏mc473を忍に渡す。ちょうどいいので、デバイスについてここで説明しておこう。
デバイスには世界に腐る程の数がある‘量産型’。
そこそこ世界に散らばっている‘準量産型’。
世界に100個もない‘準限定型’。
世界に10個あるかどうかの‘限定型’。
世界に1つしかない‘唯型’。
大雑把に分けるとこの5種類に分けられる。
デバイスの形は多種多様で、基本的には刀、銃等の武器、アクセサリーなどの装飾品が一般的だが、学生や一般の方に人気なのはアクセサリーだ。値段も手頃で、ファッション性にも優れている。一方、軍人やギルド、風紀委員に人気なのは銃、刀である。これは有用性を重視してのことだろう。
次にmcについて。
人が持つ魔素の量の平均は5000~8500と言われている。これは鍛えればある程度上がるものなのだが、大体の量は生まれた時に決まっているというのが通説だ。使用した後の魔素の量は一定時間で回復するのだが、0からMAXまで溜めるのには丸1日かかる。
人が魔法を使う際は、体内にある魔素を使用する。例えば、デバイスなしで10kgの物を10秒間浮かすのに必要になる魔素は、1800~2500程の魔素が使用される。しかし、デバイスを使用すれば、その量を半分程に減らすことができる。それに、操作性も抜群だ。デバイスの質にもよりけりだが。
四亜の持つ哭烏のmcは473。哭烏を使用しての1回の魔法に、魔素を473使用するということである。哭烏が使える魔法は音関連の魔法だ。音を操る魔法をデバイスなしで使用するとなると、およそ2000の魔素が必要なのだが、哭烏があれば約1/4にまで軽減できる。さすが限定型と言えるだろう。
しかし、どんな魔法を使うにも473のmcを必要とされるという弱点もある。100前後のmcの魔法も、473mcを使わされる。だから他の魔法を使用する際は、効率を重視し、いったんデバイスの電源をオフにしてから他系統の魔法を使用するのが一般的なのだが、戦闘中にそんな暇はないので、基本的には音の魔法のみで戦うことになる。まぁ、そんな弱点を持ってなお、この武器が優秀なのは事実なのだ。