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MIX  作者: ゆきまる
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救世会編2

 この大学は石川県の金沢市にある。小京都と言われていたここ金沢だが、魔法が発展した現在、そう呼ばれる街並みは極端に少なくなっている。この大学が建設されている場所もその例にもれず、ビルやコンビニ、魔法関連の店に囲まれており、風情もなにもあったもんじゃない。風紀委員室の窓から外の景色を見るたびそう思う。昔はもっと、日本なりの風情がある建物があったはずなのに。これも魔法のせいかもと考えると、ますます魔法というものが嫌いになってきた。

 いや、これは魔法のせいではなく時代の流れというやつで、遅かれ早かれこうなっていたのかもしれない。


「煙間」

「はい?」


 俺が帰ろうとすると、三日月先輩が後ろから俺に話しかけてきた。怒られるようなことはしていないはずなのだが(さっきの件以外)。


「なんでしょうか」

「少し時間いいか?」

「少しだけなら」


 俺のその返事に三日月先輩は頷き、俺を学内にあるカフェテリアまで連れて行く。俺が先輩に連れていかれた場所はカフェテリア‘ミーシャ’。ここはそれなりに人気のスポットであり、学内、学外問わず、あらゆる人がこのおしゃれ空間に押し寄せる。普段から待ち時間が30分を超えるのもざらな場所なのだが、我らが風紀委員長、効率が服を着たようなこの先輩には通用しない。


「風紀委員命令だ。今すぐ1席空けてもらおう」


 三日月先輩はどこぞの魔王のような威圧感で店員にそう言い放ち、席を確保することに成功した。普通、こんな理不尽を行ったりしたら、店員や周りのお客さんからの視線が痛いところだが、彼女の場合は違う。

 魔法が出現してから10年の歳月が経った今でも、ギルドなどの公的機関だけでは治安を守ることができていない。人材の育成を推進している政府ではあるが、実を結んでいるとは言えず、魔法犯罪に対抗できる人材は、ギルド内でも限られているのが現状だ。

 そんな中、自主的に立ち上がったのが47都道府県、各大学の代表達である。‘自分の住む場所は自分達で守る’を目標に、ギルドの補佐という形で、各地域の治安を守るために動き出した。

 最初に立ち上がった先輩方には、本当に心の底から敬意を表する。何の見返りもなくそのような行動をしたのだから。しかし、今現在ではギルドや自衛隊に対するポイント稼ぎの一環と成り果てている。なんとも現実的で、なんとも人情に欠ける結末である。自主的に立ち上がった先輩方には申し訳ない限りだ。

そんな裏を知らない地域住民にとって、風紀委員は‘市民の味方’というやつで、それなりの人気を博しているのだ。特に、三日月先輩はどんな些細なことにも首を突っ込んでいくので、市民からは頼れる人、優しい風紀委員という間違った評価をいただいてる。本当はトラブルに突っ込んでいくのが好きなだけなのに。そんな彼女だからこそ、多くの人は彼女の我儘、無茶苦茶に寛容なのだ。


「さて、話しだが」


 話に入るようだったので、俺は懐から煙草を取り出す。煙草と言っても、これから出る煙にはニコチンが含まれていない。草でできたものではなく、機械でできたもの。副流煙ではなく、ある物質を含んだ水蒸気が出るものだ。だが、この禁煙社会において俺の行動は世論、もっと正確に言えば、カフェのお客さん方から冷たい目で見られるものだろう。とは言え、これは仕方がないことなので許して欲しい。口には出せないが、心の中でそういい訳する。


「君と四亜にはこの子をマークしてもらいたい」


 三日月先輩はそう言って、俺に1枚の写真を見せる。この電子機器に囲まれたご時世に、なんとまぁアナログなと思ったが、アナログにはアナログの良さがある。そう自分に言い聞かせ、携帯電話もまともに扱えない、機械音痴の先輩が見せた写真を手に取る。

 写真に写っているのは、黒い長髪を後ろで結んでいる女性だった。


「この人何者ですか?」

「何者ねぇ・・まぁ、強いて言うなら神様?今学期から入学する我々の後輩だ」

「帰らせていただきます」

「待て。半分冗談だが、もう半分は真実だ」

「半分神様なんですか?この子は」

「はっははは、違う違う。私は君にヘラクレスを見張れとは言ってない」

「じゃあ」

「あぁ、安心してくれ。きちんとした人間だ。生い立ちや経歴が少し特殊なだけで」


 凛とした姿勢と雰囲気が特徴的な三日月先輩だが、今俺の目の前の彼女はそうではない。椅子の背にもたれ、無邪気な子供のような笑みを浮かべている。悪戯っ子のように。


「お断りします」

「拒否権を与えた覚えはないが」

「経済学部の山川先輩なんてどうですか?真面目で魔法の戦闘経験も豊富です。それに、三日月先輩への忠誠心も厚い」

「私は君に頼んでいるのだが」


 悪戯っ子の雰囲気から一転して、風紀委員の長本来の姿勢に戻った三日月先輩。そんな彼女を前に、俺は蛇に睨まれた蛙のようになってしまった。だが、このまま押し切られる訳にはいかない。何故なら、この案件は間違いなく厄ネタであり、それを彼女は俺に押し付けようとしている。

 2度と地雷被害に遭うのが嫌な俺は、その後も俺の身代わりを提案するが、そのことごとくを拒否される。


「・・・何で俺なんですか?」

「この件、とてつもなくきな臭い匂いがするからな。備えあれば憂いなしというやつだよ」

「買いかぶり過ぎです。俺がいても、折り畳み傘ぐらいの備えにしかなりませんよ」

「なかなかどうして便利じゃないか。期待しているぞ」


 どうやっても俺をこの件に当てたいらしい。

 俺は頭に手を当て、どうやってこの件を回避するかを考える。そんな俺を三日月先輩は、カップ片手に微笑んで見ている。いや、ほくそ笑んで見ている。


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