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MIX  作者: ゆきまる
20/22

救世会編19

「とてつもなく失礼なことを考えている顔してたから」


 なんて勘のいい人なのだろう。さすが元警察官。さすが現ギルド職員。見た目とは裏腹に、きちんとギルド職員に必要な技術が備わっているようだ。もしや財丈先輩にこの技術を教えたのは漣さんなのでは?


「痛っっ!なんで殴ったんですか!?」

「私の本能が、目の前の馬鹿を殴れって告げてきたからよ」

「野生の本能で・・・いえ、なんでもないです。すいませんでした。勘弁してください」


 またも酒瓶を振り上げる漣さんを見た俺は、土下座の姿勢で降参の旨を伝える。

 手の早いこのギルド職員に思うことはあるが、思った瞬間に頭が割れる恐れがあるので、これ以上はやめておくことにした。


「ん?何の話してたんだっけ?」

「何で漣さんはギルド職員を、正義の味方をやってるかっていう質問ですよ。悪党のほうが似合う漣さんがっっっ!」

「口に出すな。考えるな」

「言論の自由と思想の自由はないんですか?」

「保証したのは国でしょ?私は保証してないわね」

「さいですか・・」


 なんという横暴。

 こんな理不尽が許されていいのだろうか。


「で、理由だったっけ?そうねぇ、まず1つ目の理由はお金かしら。この危険なご時世、こういう役職の給料の相場は大分上がったからね」


 危険手当とかいうやつだろうか?

 学生の俺には縁遠い話なのでわからない・・・と言いたいところだが、実はそうでもないのだ。風紀委員はその特性上、危険な仕事をする場合が多い。いくらボランティア色の強い役職とはいえ、学生を危険に放り込んで何も渡さないというのは大学側の体裁が悪いらしく、風紀委員には活動費とは別に、危険手当が大学から支払われる。いや、正確に言えば国からか。俺も例に漏れずその手当をもらっているわけだが、その大半がデバイスの整備などで消えてしまう。1回の危険な任務で手元に残るのは2~5万程度だ。

 これを多いと思うか少ないと思うかは人によりけりだと思うが、これ以上でもこれ以下でもないのが現実だ。どれだけ頑張っても、命を懸けたところで、その金額が機械的に振り込まれるだけなのだ。なんだかやるせなくなる。


「2つ目は・・・正義っていうのとは少し違うけど、国を守りたいっていう気持ちかしら。いや、国じゃなくて故郷かな。この石川を、この町を守りたいっていう気持ちは今でもあるわね」

「それはまぁ・・わからなくもないですね」


 俺も嫌々風紀委員をやっているが、自分が生まれ育った場所を守る活動と考えれば、まぁ、うん。悪くない。それが風紀委員に入った直接の目的ではないにしろ、モチベーションの1つであることは否定できない。


「最後の理由としては、そこに転がってるバカ息子と娘のためね」


 最後に漣さんが口に出した理由は、俺にとってはとても意外なものだった。普段からあんなこと(頭を空き瓶で叩きつける等)をしている人が、そんな理由を口に出すとは。それに、あんな穏やかな顔で忍の顔を見るなんて。


「あんな馬鹿達でも私の可愛い子供達だからね。守るためなら藁にもすがるし、ハゲ上司に媚び売ることもいとわないわ」


 最初のほうで話したと思うが、忍は1度とんでもないハッキングを行い、それが世界中にばれてしまった。それは当然、ギルドや自衛隊の上層部にも知れ渡っている。そんな忍の立場は、当然のように微妙なのだ。国内でも、国外でも。


「あの馬鹿をギルド上層部から、自衛隊から、国外の政府組織とテロリストから守るためですか?」


 蓮さんは気恥ずかしそうな表情のまま話を続ける。ほほが赤いのは多分、アルコールのせいだけではないのだろう。


「私があの子に変わって仕事をするなんてことはできないけど、あの子の仕事の何割かを私ができたら、とりあえず、強引にギルド上層部のやつらが忍を狙うことはないでしょう」


 その言葉を紡ぐ口元は笑っていた。それは自分らしくなもない自らに向けた嘲笑か、我が子へ向けた慈愛の表情なのか、その両方なのか。子を持ったことのない俺にはわからない。


「子供を心配しない親なんていないってことですかね?」

「それはないわね」


 即答する漣さんは、とてつもなく機嫌の悪そうな表情だ。胸糞悪いという気持ちが、これでもかというくらい出ていた。

 相変わらず表情の移り変わりが激しい人だ。


「仕事上、子を愛してないクソ親を散々見てきた私が、そんな綺麗ごとを言えるはずないでしょ。そう思えるはずないでしょ」


 そうだった。漣さんは元少年課だった。数多くの子供を、親を見てきた漣さんだから言える言葉だろう。

 子供を捨てる親を見ただろう。

 子供を殴る親を見ただろう。

 子供を殺す親も見たのかもしれない。

 そんな漣さんの口から‘全ての親は子を愛している’なんて甘い言葉が出るはずもない。


「子供を酒瓶で殴るような親もいますからね」

「誰のことかしら?」

「ごめんなさい。酒瓶を持ち上げないでください」

「まぁ、愛情を持たない親をぱっと判断することなんてできないけどね。それが複雑な家庭ならなおさら、見ただけじゃわからないのよ。子供と親の両方に話を聞いて、それでも愛があるか判断できるかどうかは怪しいわね」


 神ちゃんの家庭はどうなのだろうか?

 聞く限り、神ちゃんの親はそこまで悪い親というわけではないだろうが、俺が聞いたのは神ちゃんの主観的な話なので、真偽のほうはわからない。それが例え客観的な情報であったとしても、俺にそれを判断することができるかは怪しいところだが。


「あなたが今抱えている案件のこと、ざっくりとだけど忍から聞いたわよ。あの子に関わるとなれば、なかなかハードな案件になるでしょうね」

「あの子?あぁ、知り合いでしたっけ?」

「そうよ。あの子の母親である救世教子は私の同級生だからね。昔からの女友達ってやつよ」


 それは知らなかった。救世会という宗教団体の教祖と、ギルド職員としての関係かと勝手に思っていたのだが、どうやらそれよりも親密な関係らしい。

 これと友人だと思うと、俺の中の教子さんのイメージがガラガラと崩れてしまう。カリスマ性のある、神の如き美しい女性だと思っていたが、案外どうしようもないダメ人間だったのかもしれない。


「人生の最後に言い残すことはある?」

「死ぬ前にぜひ、その読心術をご教授いただきたいですね」

「今のは口に出してたわよ。目上の尊敬すべき女性相手に、とてつもなく失礼な発言が私の耳まで届いていたわ」

俺は乾いた笑いを浮かべ、覚悟を決めた。

「・・・お手柔らかに」


 俺の意識はそこで途切れた。


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