救世会編17
大学を出た俺は自宅に帰ろうとしたが、どうやら真っすぐ帰るわけにはいかないみたいだ。
「・・・3人ぐらいかな」
大学を出てしばらく歩くと、誰かに後をつけられている気配を感じた。正確な人数はわからないが、3人以上はいるだろう。赤色の車に乗っている男。コンビニで携帯をいじっている若い男。物陰からこちらを見ている女性。この3人は確実だ。
このタイミングということは、十中八九救世会の信者だとは思うが、それにしては腑に落ちないところが1つある。若い男と女の尾行は初心者丸出しですぐ気づけたのだが、車に乗っているスキンヘッドの男の尾行は上手く、尾行されているという確信を得るまで時間がかかった。あの雰囲気を持っている人を俺は見た事がある。ギルドで、自衛隊で、事件現場で、戦いの場で。殺し合いをした人が纏う、独特な雰囲気をあの男に感じる。非情に厄介だ。若い男と女が俺を尾行しているのは、神ちゃんと接触した俺の調査といったところだろう。しかし、スキンヘッドの男が俺を尾行する目的は他の2人とは違うはずだ。
恐らく神ちゃんがやろうとしていること、救世会を壊すと考えていることに、俺も1枚嚙んでいるのではと考えた救世会の武闘派、テロリスト共の差し金だと思われる。忍のマンションのセキュリティを突破したスキルを見る限り、俺の家はもう知られていると考えたほうがいいかもしれない。俺の家族をどうこうするような、そんなリスクの高い行動をする段階ではないとはいえ、このまま素直に家に帰るのは得策ではない。
俺は携帯を取り出し、奏に連絡を取る。
「もしもし、奏か?今日の晩飯なんだけど」
「今日の晩御飯は漣さんの家にお邪魔することにしたから」
「あぁ、わかった。いや、どうしてそうなった?」
「何かこう、嫌な予感がして。家にいると変な悪寒がするから、漣さんの家に避難させてもらっちゃった」
奏の危機察知能力は凄い。危機の強弱がわかるほど危険には敏感なのだ。そんな奏が漣さんの家に避難するような出来事が俺の周りにあることを知り、改めてこの件の危険性を再認識する。
だがまぁ、ひとまず奏の無事を確認することができ、俺はほっと胸を撫で下ろす。
「さすがだな。俺も急いで向かうよ」
「さすがっていうことはお兄ちゃん、また厄介事を抱え込んでるの?やめてよね。お兄ちゃんが自分で危険に突っ込んでいくぶんにはいいけど、それに家族を巻き込まないでよ」
「返す言葉もありません」
俺は電話を切り、蓮さんの家に向かって歩き始める。
連さんの家はギルドのすぐ近くにあり、女性が1人で住むには些か以上に広い一軒家である(旦那さんは現在単身赴任中)。安全面で言えば、ある意味忍のマンションよりも安全だろう。そんな石川県1安全なはずの場所なのだが、俺が来た時には世界でも指折りの危険地帯になっていた。
「煙坊、ようやく来たわね。まぁ座りなさい。そして飲みなさい」
「漣さん、あんたの隣であんたの息子が倒れている件について聞きたいんですけど」
「ん?あぁ、これ?何杯か飲ませたら気失っちゃってね。ったく、だらしない。こんな子に育てた覚えはないっつーの」
そう言いながら、漣さんは空の酒瓶を忍の頭に叩きつける。その親とは思えぬ恐ろしきDVに慄く俺は、この場から脱出するためにデバイスを懐から出そうとするが、我が母、東条 香音に阻止されてしまった。
「あの・・お母様?息子を縄で縛る理由を教えてはいただけませんでしょうか?」
「あなたが手に持っているデバイスを離して私に渡すなら、この縄を解いてもいいわよ」
「さすが香音ちゃん。腕は鈍ってないわね。もっとやれ!亀甲縛りしろ!」
「あらやだ。それじゃあ久々に逆海老縛りでもやっちゃおうかしら」
俺はデバイスを手放し、無抵抗の意思を現役ギルド職員と元ギルド職員に示すが、この酔っ払い共にそれが通じることはなく、俺は縄で何度も縛られることになった。
いろんな縛り方で、いろいろな吊るし方をされた。このような縛り方は、市中引き回しや罪人を捉えるために開発されたことを考えると、俺が涙ながらに悲鳴を上げる理由としては十分だろう。それほどの恐怖だったのだ。




