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MIX  作者: ゆきまる
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救世会編16

「あの子のところに行ったんですか?」


 財丈先輩のいうあの子とは先輩の弟であり、俺の悪友である忍のことだろう。

 俺は少し間を置いて、そうですと答える。一瞬間を置いたのは、財丈先輩の質問の意図を読むことができなかったからだ。普段は弟のことに無関心な姿勢なのだが、それは俺の気のせいで、本当は弟を心配しているのだろうか。


「・・・あの子の心配をしているわけではありません」


 口に出してしまったのかと思い、俺は思わず口を塞ぐ。思ったことを全部口に出すとか、そんな馬鹿なことをするやつではないという自己評価があったのだが、それはどうやら間違いかもしれない。


「表情からそう思っているのかもと思っただけです。あなたは口に出していません。安心してください」

「俺シャイなんで、財丈先輩みたいに見つめられるのは慣れてないんですよ。だから、今後そういうのはなしでお願いしたいです」

「ふふ、ごめんなさい」


 妙に妖艶に笑う財条先輩。年上の、しかも友人の姉にドキっとしてしまった俺を誰か殴ってくれ。男は皆羊の皮を被った狼だと奏に言い聞かせている俺だったが、そんな俺が誰よりも狼かもしれないという現実は、案外と受け止めがたいものがある。


「えっと・・・あの馬鹿は今回の件には関わっていますが、そこまで深く巻き込ませるつもりはありません。安心してください」

「だから心配してません。気にかけているだけです」


 それは同じ意味だと思うのだが、そこらへんを追及するほど俺も無粋ではない。それに、照れ隠しで俺の社会的立場が抹殺されるなんて、洒落で済む様なことではないのだから。

 本当、この兄弟は厄介である。


「あの子は自分の身に無頓着なところがありますから、姉としては心配・・・もとい気にかけてしまうんですよ」

「今心配って」

「言ってません」

「・・・さいですか」

 

 新手のツンデレだ。それと同時に新手のブラコンだ。少なくとも、俺はこんな人をこの人以外に知らないし、聞いたこともない。

 まぁ、複雑な家庭事情を抱えているので仕方ないのかもしれない。

 俺はそんな環境で育った財丈先輩に聞いた。神ちゃんとは違うが、それでも特殊な家庭環境で育った財丈先輩に。


「やっぱり、親が特殊な職業に就いていて、しかも立場が偉いと、その親の子供としては鼻が高いものなんですかね?」

「いきなりなんですか?」

「興味本位ですよ」

「・・・そうですね。確かに自慢ではあります。誇りに思い、その職を目指すのもおかしくないでしょう。かく言う私もそうですし、あの子もそうでしょう」

「あいつにそんな可愛げがあるとは思えないんですが」

「言わないだけですよ。親と同じ職業に就きたいなんて、あの恥ずかしがり屋の口から出るはずありません」

「それなら納得です」


 ちなみに、財丈先輩は将来ギルドの情報部に入ることを目標としている。目標としているとは言ったが、ほぼほぼ決定事項みたいなものだ。財丈先輩は風紀委員活動の一環としてギルドと何度も協力捜査している。そこで明らかになった財丈先輩の情報収集、捜査能力。そんな優秀な人材を見逃すほど、ギルドは馬鹿ではない。

 本当かどうかは定かではないが、ギルドの情報課には財丈先輩の名、財丈 佐々(ざいじょう ささ)の名が書かれた机があるらしい。

 文字通り、将来が約束されているというやつだ。


「それが好きでもない、尊敬もしていない親でもですかね?」

「どういうことでしょう?」

「・・・」


 神ちゃんの件を今の時点で口に出していいものなのかわからない。同じ風紀委員の仲間ではあるが、だからといって、やたらめったら巻き込んでいいものでもない。頼っていいわけではないのだ。

 みんなそれぞれ、俺とは別件の仕事を抱えている。そんななか、俺の仕事に関わらせて失敗なんてことになったら目も当てられない。

 

 自分の案件は極力、自分の力だけで乗り越えろ!

 

 それが三日月先輩の方針であり、部下の俺はその方針に極力従わなければならないのだから。


「わかりました。話さなくてもいいですよ」

「ありがとうございます」

「さて、質問の答えですが・・・そうですね、親に好意を向けず、尊敬もしていない人が親と同じ職業を目指すとは考えづらいですね」

「やっぱり、嫌っている親と同じ職業に就きたいなんておかしいですよね。そんな変わり者、そうはいないですよね?」


 言っている最中に神ちゃんが‘変わり者’の部類に入っていることを思い出し、思わず言葉を詰まらせてしまうが、あながち間違った評価ではないだろう。


「だけど、何をもってその人が親を嫌っていると思っているんですか?」

「何をもってって、そりゃあ本人に聞いたからで」

「‘人の口から出る言葉は、決して本当のこととは限らない’私の父が昔から私に言い聞かせてきた言葉です」

「本当のことを言っていないと?」

「かもしれないということです。それに、この言葉には続きがあります。‘だが、本当のことばかり言うやつは嘘ばかりつくよりも信用ならない。そういう人にこそ注意を払え’です」

「なんとまぁ、矛盾した教えですね」

 

 そんな教えをまともに受けていたら人間不信になってしまいそうだが、どうやら財丈先輩はそうならなかったみたいだ。たぶん。恐らくは。確信が持てない自分が嫌になる。尊敬している先輩にそのような考えを抱いてはいけないとはわかっているが、常に人を見下すような冷たい目を前にしてはそうもいかない。

 申し訳ない。


「そんな冷たい目をしてますか?」

「やっぱり口に出てますか?」

「いえ、表情を見て」

「・・・」


 これが事実だとすると、今度から財丈先輩と会う時は覆面装着が基本になるかもしれない。見た目はあれだが、プライバシーの保護が優先だ。


「そうだ、私も1ついいですか?」

「なんでしょうか」


 覆面を購入するか本気で悩んでいる俺に、財丈先輩は質問する。


「あなたが私に先程質問した内容と同じ質問ですよ。私の両親は確かに特別な職業に就いていて、その身分も高いですが、それはあなたも同じでしょう?」

「・・・」


 俺は帰り支度を済ませる。そそくさと、逃げるように。それが答えたくないという俺の意思の表れだったのだが、財丈先輩はそんな俺の反抗など気にも留めず質問を続ける。


「どうですか?子供として、親のしている仕事を誇りに思っていますか?同じ道を歩みたいと思っていますか?」


 席を立ちながら俺は答える。


「誇りも興味も、まったくないです・これっぽちも、全然持っていませんよ。クソくらえとは思っていますけど」


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