救世会編15
「煙間先輩、どうするんですか?」
「ん?」
「神ちゃんのあの話です」
「あぁ、ん~どうするって言われても」
あの後、言いたいことを言い終わった神ちゃんは信者を連れて帰った。こっちの返事も聞かずにそそくさと。なんと勝手な子だろうと思ったが、神話の物語に出てくる神様の大概が自己中であることを考えると、これはこれでキャラ通りであり、キャラにとても忠実な行動なのかもしれない。
「とりあえず三日月先輩に報告して、その後指示を仰ぐ形になるかな。さすがに俺の一存で決めていい話ではねぇだろ」
「そうですか」
というわけで、俺達は大学構内にある風紀委員室を訪ねたわけだが、結果として、三日月先輩からの指示を仰ぐことはできなかった。その原因は、
「三日月風紀委員長は今、インドに向かっているわ」
「「インド!?」」
「はい」
「旅行・・・というわけではないですよね」
指示を出すべき人が国内にいないからだ。
お前に任せたとは言われたが、この件の一切を丸投げされていたとは。今回の件、行動も責任も全て俺持ちらしい。平の風紀委員が全責任を持って扱う案件ではないだろうに。
ちなみに、俺達にその残酷な事実を突きつけた女性は財丈先輩だ。忍の姉であり、この風紀委員での情報管理を一手に任されており、三日月先輩からの信頼も厚く、他のメンバーからも頼りにされている。
容姿端麗、頭脳明晰、21歳なのにも関わらずツインテールというイタイところがあるが、そんな欠点など些細なことだ。クールな大人の女性がツインテールなんてと思うかもしれないが、本当に、本当に、本当に、そんなことは些細なことである。ツインテールが悪いわけではない。そう、ツインテールに罪はないのだ。
「東条煙間君、その不愉快な視線は何かしら?視線の先にあるのが私の髪型だというのならば、私はあなたを社会的に抹殺しなければならないのだけれど」
「・・・今日も財丈先輩は綺麗だなと、思わず見惚れていたんですよ」
「あら、お世辞でも嬉しいわ」
聞いてのとおり、財丈先輩に髪型の話はタブーだ。風紀委員石川支部の3大タブーである。
冗談や洒落ではなく、社会的に抹殺される恐れがあるこのタブーに突っ込めるほど、俺は命知らずではない。なので、ここは無難なお世辞で俺の失態を流すことにする。
「財丈先輩、三日月先輩は何でインドに向かったのでしょうか?」
タブーを前に固まってしまった不甲斐ない先輩の代わりに、四亜が聞きたいことを聞いてくれた。
「風紀委員長が追っているテロリストの本拠地が、インドにあるという情報を掴んだからです」
「けど、国外の犯罪組織の取り締まりは基本的にはできないのでは?」
「基本的に・・・ですよ。例外もあります。なければ作ればいいだけですし。それに、そのテロ集団は国のトップや政府関係者、警察関連の方々と‘仲良し’ではない方々だったので、思いのほか楽に脅迫ができ・・・もとい説得することができました」
「とんでもなく物騒な単語が聞こえたのは四亜の気のせいでしょうか」
「気のせいだ。この世の中、知らないほうがいいこともある」
国のトップや政府、司法関係者を脅すネタを常備している財丈先輩の恐ろしさに、四亜は思わず俺の後ろに隠れる。その気持ちは痛いほどわかる。実際、俺も超ド級の危険人物の対面にいるというこの状況に、膝の震えが止まらない。
「何か重要な要件?それならば同行している他の方に連絡をとってみたらどう?」
「いえ、大丈夫です。いや、大丈夫ではないですけど、あの人の指示は伝わりましたから」
「そう」
「煙間先輩、指示というのは?」
「‘私に聞くな、自分で考えろ。そして行動しろ’だ」
この件を放っておいて国外に行くということは、そういうことなのだろう。
自分は好きなように暴れるから、そっちはそっちでなんとかしろということなのだろう。何と勝手な先輩なのだろうと思うが、こんな人だからこそ、くせのある風紀委員のメンバーを束ねられるのかもしれないかもしれない。
「あ、煙間先輩、四亜この後予定あるので先に帰らせていただいていいですか?」
「いいぞ。今日は特にこれといってやることもないしな」
「では、煙間先輩、財丈先輩、お疲れ様でした」
「おう」
「はい、お疲れ様です」
四亜が風紀委員室から退出したのを見届けた後、俺は仕事に取り掛かる。風紀委員の報告日誌に今日あった出来事を書き込むだけで、そう時間はかからないはずだ。
報告日誌といっても堅苦しいものではない。試しに報告日誌をめくり、過去に何が書かれているかを見てみると、
‘違反者3名確保しました。詳細は明日報告します’
‘今日は平和な日でした’
‘特に何もなし’
‘銀行強盗を逮捕。詳細は明日の朝刊で見てください’
‘最近暇です。三日月風紀委員長、事件をもっと持ち込んできてください’
‘3丁目の定食屋のかつ丼が美味しかった’
などなど、様々な報告が・・・・・・これ、意味あるのか?
書いている最中、そんな疑問がふつふつと湧いて出てきたが、書かないと後で三日月先輩にボコられてしまうので、俺はこの意味のない報告書の作成を続ける。カタカタとキーボードを叩くがしばらく続いたが、財丈先輩の質問とともにその音は途切れる。




