救世会編10
「お前達、下がりなさい!」
戦闘開始の直前、神ちゃんの凛とした声がこの部屋に響く。
今まで見ていた神ちゃんはそこにはいなかった。そこにいたのは紛れもなく、救世会で崇められている神様だった。彼女が神として崇められる所以を見た。否、感じたといったところだろう。
あの神聖な雰囲気を感じた。
畏怖を与える目を見た。
心に直接響く声を聞いた。
人とは違う、異端を感じさせられた。
その声を聞き、その姿をみた侵入者は、その場で跪いた。
「し、しかし」
「くどい!」
「は、はい」
集団の先頭にいたリーダー格の男が口を開くが、神ちゃんの一言で一蹴させられる。
「神ちゃん、もしかしなくてもこの人達って、あんたのところの?」
「はい。救世会の信者の方々です。私を心配してここまで来てくれたようです」
「銃を持って乱入する程心配されるとは、神様冥利に尽きるってか?」
戦闘の危機がないことがわかった忍は、そんな軽口を叩きながら護身用デバイスを指から外す。
「四亜ならこんな過剰な心配御免です。神ちゃん、鬱陶しくないんですか?」
「貴様ら、我らが神に向かってそのような無礼を・・許せん!」
「よい、我が許す」
「は、はい!」
さて、神ちゃんが侵入者を大人しくさせている間に、2,3個聞かなきゃならんことがある。
「さて、いくつかあんた達に質問をしたいんだけど、いいですかね?」
「誰がお前みたいな若造に」
「答えなさい、八葉」
「はっ!」
「神ちゃんのカリスマ性、本当に便利ですね」
「だな」
「俺他の作業してるから、終わったら声かけてくれ」
自分の部屋に侵入者が入って来たというのに、数分も経たぬうちに通常運行に戻る忍。こいつの危機管理意識は、どうやらセキュリティ云々以前の問題らしい。有馬先生と言い、自分の部屋のことに無関心すぎやしないか?
それに関しての説教は後にするとして、今は目の前の問題を片づけるとしよう。
「で、あんた達の目的は何だ?」
俺の問に対し、白髪混じりの眼鏡をかけた男、八葉さんは答える。
「それはもちろん、神様の護衛です。祈りの間から勝手に抜け出しただけではなく、1人でどこかへ行ったと聞き、いてもたってもいられなくなりまして」
「なるへそ。けど、最近の宗教団体っていうのは物騒だな。そんなごつい銃、皆持ってるのか?」
「これは・・・」
「誤解です!」
俺の当然の疑問に対し、神様が思いのほか強く否定した。ここまで強く感情を表に出すタイプではないと思っていたが、どうやらそれは勘違いだったらしい。
まぁ、それは当然かもしれない。だって、彼女は神様ではなく、人間なのだから。
「彼らは普段、武器を使うような者達ではない。救世会の教えを守り、清く優しく日々を過ごしている。武器とは無縁の、ただの一般人だ」
「いやいや、そんな本格的な戦闘デバイスを持ってる一般人なんていませんよ」
「そ、それは・・」
四亜の手厳しいツッコミに、思わずたじろいでしまう神ちゃん。
護身用ではなく、戦闘特化の魔法デバイスを持つ人は少ない。それこそ、日本ではギルドや自衛隊、風紀委員ぐらいしか所持はしていないだろう。一般人で持っている人の割合は、精々1割といったところだ。四亜がこのことに疑問に思っても当然だが、このまま困っている神ちゃんを見過ごすわけにもいかないので、俺は神ちゃんの弁護をすることにした。
「四亜、この人達が普段武器を使っていないのは俺が保証する」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「ほら、あれを見てみろ」
俺が指差す方を見て、四亜は俺の意見に納得がいったようだ。
俺が指を差したのは、彼らの持つ銃にある安全装置だ。彼らが持つ銃は、1つ残らず安全装置が解除されていなかった。グロウレッド17 mc1250の安全装置解除は、少々手間がかかるのだ。普通なら、この部屋に侵入する前に安全装置を解除するはずなのだが、彼らはそれをしなかった。考えられる理由としては、彼らが安全装置の解除を忘れていたおまぬけさんだった。または、銃など使ったことのない一般人ということになる。
俺の指摘を受け、あたふたと安全装置を解除しようとするが、なかなか彼らは解除できずにいた。これでほぼほぼ確定だろう。彼らが銃に触れたことがない、清廉潔白な一般人だということが。
「続けて質問。どこでその銃を手に入れた?まさかそこらの道端に落ちていたとか言わねぇよな?」
「・・・これは」
「私の方から説明しましょう」
白髪の男と俺との間に割って入る形で、神ちゃんはそう言った。その姿はまるで子を守る母のようだった。神聖で、母性に溢れるものだった。
「ですが神様」
「よい。私にはわかっている。父の側近に渡されたのだろ?」
「・・・はい。その通りでございます」
「お父様ですか?神ちゃんのお父様って、確か救世会の教祖でしたよね。そんな人が何故」
「俺も気になるな。話してくれるか?」
「はい。しかし、あなたの知りたいことは他にもあるのでは?」
「ん?まぁ、そうだな。話してくれるなら」
神ちゃんはしばらく考え込んだ素振りを見せた後、黙って頷いた。何かを決心したような素振りではあったが、神の演技をしているからか、さっきからその仕草1つ1つが演技染みている。
「八葉さん、皆を連れて外に出てください」
「何故ですか!?こんなどこの馬の骨ともわからぬ輩の部屋に、貴方様を1人にさせるわけにはいけません」
「おねがいします」
それからしばらくの間、八葉さんと神ちゃんとの言い合いが続いたが、神ちゃんに軍配が上がったらしく、八葉さんは他の信者を連れてこの部屋を出て行った。
出ていく最中、八葉さんにもの凄く睨まれてしまったが、彼らも悪気があってこんなことをしているわけではないのがわかっているので、その視線にはなんとも反応しづらいものがある。純粋な悪意があるほうがまだましだ。




