魔法使いの かくかくしかじか
ぼくたちはどこで間違えたんだろう
「魔法使いは、存在するよね?」
「あぁ」
「違う世界にいるの?」
「あぁ」
「なら、どうやってその世界にいけるの?」
「さぁね」
彼の言う『さぁね』は、自分で考えろということだと、これまでの経験で学んでいた。
ほんの憐憫さえ与えられない、なんのヒントもない、容赦のなしのコミュニケーション。彼とぼくの相互関係。
『自分で考えろ。脳を使うんだ。一時も休めさせるな。常に考え続けるんだ。悩むことを止めるんじゃない。想うことをあきらめるんじゃない。人間で有り続けろ。』
ぼくは考えて、考えた事を言った。
「…色んなところに、扉があって、それをくぐければ行けるんだよ」
「そうか」
「でも、見えないんだ。じーっと目を凝らして、そのことしか頭にないくらいに思い続けないと、見えてこないんだ」
「そうか」
「ぼくは目が見えるけど、扉は見えないよ?」
「あぁ」
「目の見えない人は、見えるのかなぁ?」
「さぁね」
顎に手をやり、脳を超スピードで回転させる。 しかし答えは見えてこない。
「…もしかして」
「あぁ」
「これなのかなぁ」
ぼくは歩いて7歩の玄関まで行った。扉を見て、触れ、はーっと息を吹きかける。焦げ茶の金属板が、小さくくもった。
「この扉を開けて、いってきますって言うんだ」
「そうだな」
「そうすると、そこは違う世界なんだ」
「あぁ」
「誰でもみんな、持ってるんだ」
「そうか」
「自分だけの玄関も、扉も、家のない人でも、ちゃんとあるんだ」
「あぁ」
「自分でいってきますって言えるところが、扉なんだよ」
「あぁ」
「みんな毎日開けてるんだ」
「あぁ」
「みんな毎日、違う世界にいってるんだ」
「あぁ」
「だからきっと、魔法使いはぼくたちなんだよ。違う世界にいけるんだもの」
「あぁ」
「…ならぼくは、何をすればいぃんだろう?」
「さぁな」
「色んな魔法使いが、世界にはいるけど、色んな人が死んでいくよ?…魔法は、効かないの?」
「さぁな」
生じる矛盾。メビウスの輪のように、終わらない疑問。質疑無答。自分で、考えるしかない。誰も答えてはくれない。
「ぼくは、魔法使いになるんだ」
「そうか」
「毎日違う世界に行って、毎日魔法をかけてくる」
「そうか」
「何度もやれば、きっと効くよね?」
「さぁな」
「とりあえず、アパートの人みんなを笑顔にする」
「そうか」
「じゃあ、いってきます!」
「いってらっしゃい」
ぼくは黒く光るランドセルを背負って、異世界へつながる扉を開けた。
評価、感想、大歓迎です!