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暁のサラマディオス  作者: sin
EDeN編
1/5

火竜飛翔

俺は、今日のことを一生・・・いや、死んだ後も忘れることは無いだろう。

この日、この時にここで起こった出来事が俺の人生を、世界のすべてさえも全く別のかたちに変えてしまうのだから。




(あかつき)のサラマディオス〉



























火竜飛翔


春も近くなってきた三月、少年――竜杜陽真(たつもり はるま)は変わったことは何もない、ごく普通の「いつも通りの日常」を送っていた。時間は正午。午前の授業が終わり、昼休みに入る頃だった。陽真は教室の窓から外を眺める。

「……よし、本日も快晴!」

陽真のいる窓際の席から見える空は、まぶしい陽射しと雲ひとつ無い青空が広がっていた。

「ハルマーっ‼」

「うあああああ⁉」

いきなり後方から大声が響く。隣の席の十賀明(とおが あかり)の声だった。陽真は驚きのあまりにイスから転げ落ちる寸前だ。

「い、いきなり大声出すなよ、明!」

「ゴメンゴメン。陽真、いっしょにゴハン食べない?」

「まったく……普通に言えないのかよ」

ごく当たり前のように昼食に誘われ、呆れながらも陽真は誘いに乗ることにした。



神園町(かみそのちょう)。首都圏の自然と科学が共存する町で、陽真もこの町で生まれ育った。そして、この町には大きなシンボルがある。それは「日本機動科学研究センター(通称:日動研(にちどうけん))」のことである。

この日動研では「生物と機械の共存」をモットーにさまざまな研究が行なわれており、その研究成果は世界の技術を大きく進歩させ、今では世界中にその名前が知れわたるまでになった。そして、この町の人々はそのモットーを体現した町を自分たちの誇りにしていた。



学校の屋上。日動研・海・山・空……そのすべてを一望できるこの場所を陽真はとても気に入っていた。そこで昼食を食べることを日課にしているくらいだ。

「うーん……ここで食う昼メシは最高だ!」

「ふふっ。今日もまた同じこと言ってるね」

食事を続けながら話す陽真と明。席が近いせいか、二人は仲が良かった。ウマが合う、と言ったところか。

「それにしても……スゴかったね、先月のアレ。『子供の命を救った英雄(ヒーロー)!』だって」

「大げさだよなあ」



一カ月前、陽真はある事故に遭遇していた。

登校中の通学路に暴走車が突っ込んできたのだ。その中で、進路上の子供に追突する寸前、陽真がその子供を庇ったのだ。その結果、奇跡的にけが人0(ゼロ)、車体との接触までわずか十センチと、大惨事になり兼ねない事態だった。下手をすると重症どころか死亡する可能性すらあった。

この時の陽真の行動を「命知らず」「危険」だと咎める声もあったが、多くの人は「勇気ある行動」と称賛した。しかし当の陽真本人は「人として当たり前」と言い、自慢することは無かった。



「陽真はあの時、どう思ってたの? 死んじゃうかもしれなかったのに……」

「どうって……」

ウーン、といいながら少し考える。

「……あの時にああやって動いたのは、俺にとっての『答え』……かな」

「答え?」

「うん。あの時はさ、声だけかけるとか、自分だけ逃げるって選択肢もあった。でも、気づいたら俺はあの子を助けたい一心で走ってた。それが、俺にとって一番の『答え』だった。って思ってる」

「……陽真らしいね。その考え方」

「ああ。目の前の問題には全力で立ち向かう……それが俺の『答え』だ!」

陽真は誇らしげに断言した。



食事も終わり、一息ついたところで、

「そうそう。陽真、コレ見てよ」

明は噂話――いわゆる「都市伝説」が大好きで、度々陽真にも聞かせていた。今もそれと同じで、スマートフォンに移されたゴシップ記事を見せてきた。

「え……っと、『神園町最大の秘密! 日動研の下に何かがある!』だってぇ⁉」

思わず素っ頓狂な声を上げる。横で明は「面白いでしょ!」と言わんばかりに嬉々としている。明が興味を持つ基準は信憑性より面白さが第一で、根も葉もないものが多かった。

「またおかしな話を……」

陽真は呆れ顔で、その頭から信じる気のない記事に目を配らせる。

その記事はこうだ。



世界的に有名な日本機動科学研究センター(通称:日動研)。

今回はその日動研に関するある情報を手に入れた。

それは、この日動研の地下に巨大な空間が広がっているというのだ!

この空間にはなにがあるのだろうか?

宇宙人の地球基地? 地底人の王国? 超巨大な軍事基地?

それとも……我々の知らない秘密組織があるというのか⁉

我々はこの謎を解明すべく、調査隊を結成した。

今後の情報をまて!



記事にはこの文章だけ、画像はホームページで入手できる日動研の外観写真一枚のみ……という、信じる方がバカらしくなるような内容だった。

呆れながら読んだ陽真もこの突拍子のなさには笑いがこみ上げてきた。

「……はははははははは‼ 明ィ、コレこの前の『ヨーロッパの町にゴブリン現る!』より面白ぇんじゃねーのか⁉」

「やっぱり? そうでしょ!」

どうやら明はこういう反応を最初から期待していたらしい。まあ、突然「宇宙人」やら「地底人」なんて単語が出てくる時点で笑うのも無理はない。

「……にしても、またトンデモない話だよな。この町の地下にでっかい空間があるってことだろ? そんな話、信じられないよな?」

「でも、ホントに存在したらおもしろいかもね!」

「……変な事はカンベンしてくれよ」

冗談半分に、陽真は笑い飛ばす。



「ねえ、次はこの写真なんだけど……」

明はスマートフォンを操作し、今度は一枚の写真を表示させる。

まだあるのか……と陽真は画面を注視する。その瞬間、陽真の目つきが変わった。

「……!」

その写真は一見普通の風景写真に見えた。町並みをみるかぎり、日本のものだ。しかし、一点だけ明らかに普通ではない部分があった。空になにかのシルエットが写っている。生物の様なその姿は、陽真にも見覚えがあった。

長い首と尾をもち、四つの足があり、頭には鋭い牙と角、体には大きな翼があった。

そう、その姿はまさしく……

「…………竜?」

竜――「ドラゴン」そのものであった。

しかし、ドラゴンとは神話の生物――空想上の存在……のハズである。

いや、編集によるものと考えることができる……が、その可能性は打ち砕かれた。

「……これ、無編集だって。」

明がポツリ、と言う。

わずか三カ月前、画像の編集・無編集を判別する手段が開発された。その精度は100%という驚異的な成功率で、それ以降は編集画像を無編集と偽る術は存在しなくなった。

この竜の写真がその手段で「無編集」という判断をされたということは……

竜の存在は「真実」であるということだ。

そして、最低でも三カ月前には日本にいた。……という事になる。

陽真は驚愕した。先ほどのゴシップ記事のような曖昧なものではなく、この写真に写る竜はまぎれもない事実であるのだ。

「じゃあ、この竜は……!」

「そう、これは『真実』なの。それも……信憑性100%の」

にわかにも信じられない話だが、信じざるをえない結論である。

「明、この写真もらえる?」

「珍しいね、陽真が画像欲しがるの。やっぱり気になるよね?」

「あ、ああ……チョット、な……」

陽真がこの竜について気になったのは、興味本位などではなかった。この竜からなにかの「予感」を感じたのだ。

近いうちに、とても大きな変化が起こる。それも、自分にとっても他人ごとではない事が。

そんな気がしたのだ。

そうこうしている間に、午後のチャイムが聞こえてきた。二人は慌てて教室へ戻った。



(なんなんだ、あの『竜』……)

帰り道・帰宅後問わずに、陽真の頭はあの竜のことが気がかりだった。それも、いつもの自分からしたら不思議なほどに。

陽真の自宅はマンションの一部屋で両親との三人家族である。しかし、父は技術者で海外赴任、母は都心部でソフトウェア開発をしているため、家族全員が揃う日は年間十日あって多いほうだ。そのため、実質陽真の一人暮らしである。

そのため、家事全般はもちろん自身で行う。そして、親の仕送りがあるにも関わらず最低限の出費に抑える努力も惜しまない。そんな風に生活しているためか、一人には大き過ぎる部屋でも寂しさは感じなかった。

夕食を済ませ、ソファに寝転がり、考え事にふける。もちろん、写真の竜についてだ。いつもは筋トレやゲームなど娯楽に使う時間だが、頭がいっぱいで手につかなかった。

異常だった。長々と物事を考えるタイプではない陽真がひとつの事にこれだけ考え込む事は陽真自身にもそう思えるほどだった。

あの竜はなんなのか。

なぜこれ程気にかかるのか。

なぜ妙な予感がするのか。

「俺の『答え』は……」

どの問に対しても、納得のいく答えも出ず、それでいて、後回しにもできず、陽真の心はまるで雲がかかったかのようにモヤモヤしていた。

考えがまとまらないうちに、辺りは真っ暗になっていた。



時計が午後十時を回るころだった。考え事をする内に、陽真はソファの上で眠ってしまっていた。外も静かになる時間、テレビもついてないうえに時計もデジタルのものばかりで針の音も聞こえないため、おそろしく静かな空間だった。


「…………」

(……何か聞こえる。何の音だ?)

「…………ォォ……」

(これは……唸り声?)

「…………ゴォォォ……」

「…………」

(もうひとつある……これは……)

「……グガァァァ……」

「……セヨ」

(もうひとつは……人の声⁉)

「……カクセイ……」

(カクセイ……『覚醒』⁉)

「……覚醒……せよ‼」

「ガアァァァァァァァァァァ‼」

「わああああああああああああっ‼」

突然聞こえた叫び声は、まるで竜の咆哮であった。陽真は驚きのあまりに飛び起きた。

あたりを見回すが、そこは見なれた居間で、変わった様子は見受けられなかった。

「今の声……夢だったのか?」

だが、明白に覚えている。徐々に大きくなってきたあの声は「覚醒しろ」と言っていた。そしてまるで竜のような叫び……陽真にはどうしてもタダの夢には思えなかった。

その瞬間、陽真は直感で「何か」を感じた。

「‼ ……何だ、この感じ!」

ただならぬ気配を感じ取った陽真は、咄嗟に窓を開け、ベランダから外を見た。

「……何だアレ⁉」

自分のいる住宅地から離れた町の方、そこに大きな人影が見えたのだ!

目に映る以上信じることしかできなかった。これは事実だ。

そのあたりから黒煙が噴き出している。どうやら町で暴れているらしい。このまま治まるというわけでもなさそうだ。

眼前にあるあまりにも信じ難い状況にただ絶句する陽真。……しかし、陽真にひとつの考えが浮かぶ。

「……行かなきゃ‼」

陽真は、あの巨大な人影の元へ向かうことを決心した。

なぜ行こうと思ったのか。行ってどうするか。そんなことはどうでも良かった。

あの場所へ行くように呼ばれた気がした。どうしても行かなくてはならない。陽真にはそれがこの状況で出せる「答え」だとすら思えていた。

すぐさま家を飛び出し、全速力で自転車を漕ぎ、町へと向かう。進んでいくにつれその人影は大きくなっていたが、不思議と恐怖感はまったく感じなかった。



(速く……速く……速く……!)

今の状況に軽く混乱しながら自転車を走らせ、町のほうへ急ぐ。近づくにつれ、その巨大な影も大きくなってゆく。町に着き陽真は、その巨体のもとへ接近を試みる。

町の様子は時間のこともあり、人は多くはなかったが、わずかにいた人たちは悲鳴を上げ、散り散りに逃げ惑う。ほとんどの人は陽真の進行方向の逆へと向かっていた。そして、あれだけ暴れてみえたハズなのに建造物はあまり崩れておらず、かわりに道路がボロボロだった。ところどころ車がペシャンコに潰され、路面もアスファルトが粉々、地面が見えるほどだった。

だが、ビルには無傷なものもあり、全壊したものはあるものの、町の原型はとどめていた。

見えた人影の大きさ、町の壊れかたから、人間に比べ、かなり大きなものだとわかる。

そして、地面ばかり破壊されているようすは、まるで人間を狙っているかのようだ。

これから考えるに、ここではあの巨大なものが人だけを襲っているようだ。

「……嘘だろ?」

そんな恐ろしい状況を想像し、陽真は戦慄した。しかし、町に漂う血の匂いにより、それが現実だと実感させられた。

だが、陽真は歩みを止めることはなかった。いや、できなかったのだ。

恐怖を感じながらも、彼に逃げるという気はさらさらなかった。ただ、あの時と同じく誰かを「助けたい」と思っていたのだ。こんな状況だからこそ、その「答え」を曲げるわけがなかった。

(目の前の問題には全力で立ち向かう……それが俺の『答え』だ!)

昼間の自分の言葉を思い出しつつ、陽真は先へ進む。そんな彼の瞳は、前を見据えていた。



ズシン……ズシン……と地響きが近づく。もう目の前まで来ているようだ。音のなる方向へと角を曲がると――――あの巨体があった。

それはビルの二~三階ほどの体長があり、ヒトのような手足をもっていた。頭は存在せず、身体の天辺に暗い赤色の発光体がある。その光沢から、材質は金属のようだ。だが、継ぎ目のような所は一切見受けられなかった。

言うなれば「金属製の巨大生物」となる存在だった。

陽真も、その姿にはただただ驚くばかりだった。しかし、驚いてばかりもいられない。自分とそれを挟んで反対側に、まだ人がいたのだ。しかも、その金属生命体はくるりと振り向き、そちらへ向かおうとしているのである。

(これじゃあ、あの人が!)

目前の危機を見過ごせるわけもなく、陽真はなにか、と最善策を考える。

のしのしと金属生命体が人に近づき、その腕で叩き潰そうとした振りかぶる。

その瞬間、金属のからだに何かが当たる、陽真が金属棒を投げつけたのだ。そう、陽真の最善策とは自らを囮にすることだった。

「バケモノ‼ こっち来い‼」

叫びながら、注意を引きつける。その挑発に乗るかのように、金属生命体はまた振り向き、陽真へと狙いを変える。

「今のうちに遠くへ‼」

陽真は名も知らない人を逃がすと、そのまま自転車で逃げ始める。

あの距離ではそこまでのスピードが出ないため、走り続けていると、追いつかれることは絶対になかった。そのまま誘導し、極力人の居ないところへと走る。



何時間ほど経っただろうか。陽真は無我夢中でペダルを漕ぎ続ける。幸い、あれ以降ほかの人とは会っていなかったのが救いである。もし会っていたら、金属生命体がそちらへ向かっていったであろう。誰もいないことは好都合だった。

「はっ……はっ……いつまでっ……来るんだよっ……」

ぶっ続けで走っていたので、陽真にも限界が近づいてきていた。時間が経てば自衛隊の機動兵器部隊でも来てくれると打算していたが警戒しているためか一向にくる気配もなく、そのうえにこのデカブツを町の外に出してしまうと被害が大きくなると考え、町内をグルグル回り続けるほかなかった。さらにそのデカブツも最初からピッタリと同じ間隔でついてきているために、速度を緩める事も隠れる事も許されなかった。いまの陽真にはひたすら走る以外に選択肢は無かった。

(このままじゃ……殺される……! なにか……なにか解決策は⁉)

限界を感じ、焦りをみせる陽真。が、その焦りが不幸を招く。

ガシャン‼

不覚にも、不注意により路上の瓦礫を見逃し、衝突してしまった。

「‼ わあああああああああ‼」

勢いあまって、陽真は自転車から放り出されてしまった。陽真はそのまま地面に叩きつけられる。そこに距離を詰めてきた金属生命体。自転車は踏み潰され、見るも無残な状態だった。

これ以上逃げても追いつかれるだけ。抵抗する術はない。隠れるまでの猶予もない。

もう逃げ道はなくなった。陽真に残された選択肢は――――「死」。

陽真は自分を呼んだ謎の声の正体もわからずに、バケモノに好き勝手させたくない為にも、このまま、なんの答えもわからずに最期を迎えることには納得いかなかった。

(こんなとこで、死んじゃいられないんだ……‼ まだだ……まだ……)

「まだ……死ねないんだあああああ‼」

この結果に抗うかのように、陽真は鋼鉄の巨体に叫ぶ。

その時、大きな影が真上に現れる。


「グアアァァァァァ‼」


聞いた記憶のある咆哮とともに、目の前にいた金属生命体が吹っ飛ばされ、別のものが舞い降りる。陽真にはそれがなんなのか、すぐに理解できた。

長い首と尾をもち、四つの足があり、頭には鋭い牙と角、体には大きな翼がある。

それは――――――(ドラゴン)だった。

陽真の前に現れたのは、あの写真と同じ竜であった。そして、その咆哮は、謎の声と共に聞いたあの叫びと同じだった。

「……お前が、俺を……呼んだのか?」

まるで自らの窮地を救うように現れた竜に対し、陽真は問いかける。

あの巨人と同等の体躯の巨大な竜に対し、陽真は敵意を感じなかった。なぜかその竜には全く悪い感情をもてなかった。その瞳は、どこか優しく感じられた。

「グオオオオオオ!」

答えるように咆哮をあげ、竜は再び金属生命体に飛びかかる。



鋼鉄の竜と、鋼鉄の巨人の激しい戦いが始まる。

飛びついた竜はそのまま金属生命体に噛みつく。金属生命体は振り解こうと何度も殴りつけるが、竜はビクともしない。

町に叫び声と轟音が響くさまは、フィクション映画のような光景だった。

一命をとりとめた陽真は、その様子を目の当たりにしていた。あの竜を見ていると、なにかが解りそうな気がした。あの竜にこそ、すべての答えがある。と感じていた。

(あの竜……なんなんだ? 俺を呼んだのは……あいつなのか?)

疑問を持ちながらも、陽真は戦いを見届ける。

そんな中、一人の男が陽真に近づく。

「君……竜杜陽真くん?」

うしろに来た男に尋ねられ、陽真は振り向く。

そこにいた男は、背が高く、眼鏡をかけている青年だった。手にはハードケースを提げ、服装は汚れのないしっかりしたスーツに革靴と、今の状況には不自然な外見だった。

そして……何故か自分の名前を知っている。

「あんたは? それに、なんで俺の名前を?」

「僕は戌門優助(いぬかど ゆうすけ)。君を探してたんだ」

「探してた……俺を?」

「そう。君に伝える事があるんだ」

戌門と名乗る男は、柔らかい物腰で答える。

「伝えるって……?」

「陽真くん……あれ、何かわかる?」

戌門は戦闘中の二体を指差す。

「‼ あれについて知ってるんですか⁉」

「うん。知ってるよ。ある程度は……ね」

戌門は陽真の隣に立ち、手短に説明する。

「あの竜の方は騎導獣(きどうじゅう)、もう片方は機械屍(マシングール)と、僕たちは総称している」

「キドウジュウ……マシングール……初めて聞く」

陽真には耳慣れない言葉だった。

「単刀直入に言う。機械屍は人類の天敵だ。放っておくと人間は全滅する。」

「全っ……⁉」

突然衝撃的な事実を聞かされ、思わず絶句する。

「それにタチが悪く、突然現れるくせに現用兵器じゃあ傷一つつけられない。おまけに、並のレーダーとかじゃ感知すら不可能。……まったく、厄介な奴だよ」

「……嘘言ってる訳じゃ、無いんですよね?」

「もちろん、大真面目さ」

どうりで自衛部隊が来ないわけだ。陽真はヘンに納得した。

「だけど、機械屍に対抗する術はある。それが――――騎導獣だ。騎導獣だけが、奴らに太刀打ちできる唯一の存在なんだ。」

「じゃあ、あの竜なら……!」

「でも、この調子じゃ……駄目かもね」

よく見ると様子が変だ。竜に先程までの勢いはなく、今は押されてるようだ。

「あいつ、さっきまでと違う……。 弱ってるみたいだ。」

「本来、騎導獣には騎導士(きどうし)と呼んでいる人間のパートナーがいて、騎導士がいてはじめて本領が発揮されるんだ。だけど、あのドラゴン型騎導獣を見る限り、騎導士はいないみたいだ。」

「な、なら……その騎導士っていうのが必要なんですか⁉ 騎導士がいれば、あの竜は本気を出せる……そうですよね⁉」

「まぁ、そうだけど……」

「だったら……俺がやります‼」

「⁉ き、君が⁉」

陽真の発言に、戌門は落ち着いた様子を一変させ、驚きの声を上げる。

「俺、これ以上あいつを許せない。もう一人も……誰も、傷つけさせたくないんです。それに、今できる事を見過ごして後悔なんて絶対にしたくない。だから、みんなを守れるチカラとか方法があるのなら、俺がやります! 俺が闘います! これが――俺の『答え』です‼」

陽真はまっすぐな目をしていた。彼にはもう、迷うことなどなかった。

心の底からでたその言葉こそ、陽真の「答え」だった。

(強い目だ……。 彼になら、コレを託せる。)

「……君なら、そう答えてくれると――信じていたよ」

戌門はハードケースを開ける。その中には初めて見る機械が入っていた。

その機械は灰色の水晶体に棒状の持ち手にあたる部分があり、どの様なものか、見当もつかない。そもそも機械かどうかすら怪しい。

「これはオラクルデバイスといって、いわば騎導獣の手綱のようなものだ。これがあれば、あのドラゴンを操れる。……陽真くん、僕はね、もともと君にこれを託しにきたんだ」

「俺に?」

「これを持つには相応の覚悟が必要になる。あんな巨大な獣を従える力を持つんだ。人によっては自身の野望に使うことも、誰かを護ることだって可能だ。だから、騎導士選びは重要になるんだ。そして――君はそれに選ばれた」

最初から陽真に渡すつもり――そんな口ぶりだ。

「今の言葉で確信したよ。君は僕の期待どおり……いや、それ以上だ。君にならオラクルデバイスを託せる。君なら――きっと良い方向に扱えるはずだ。君こそ、あのドラゴンにふさわしい騎導士になれる」

今、自分に大きな変化が訪れようとしている。

自分の手に、世界すら変えられる力が託されようとしている。

あの写真の竜が気になったのも、謎の声を聞いたのも、町へ向かったのも、

全て、あの竜に出会い、竜の力を授かるため。陽真は、そう気づいた。

「改めて聞くよ。竜杜陽真くん、君は――この力をどうする?」

「俺は……」

陽真に選択が迫られる。だが、陽真はもう――「答え」は決まっていた。


「俺は、みんなを護りたい。力は――護るために使いたい‼」


陽真は、なんの迷いもなくオラクルデバイスを掴む。

そして、竜に語りかける。

「頼む! お前の力を……俺に貸してくれ。俺だけじゃ足りないんだ。お前のそのチカラが必要なんだ。俺もお前に力を貸す。だから……」

「……ゴォォ……」

「だから……答えてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」

「…………‼」

キィィィィィィィィ……! 陽真の叫びに呼応するかのように、オラクルデバイスが輝く。

オラクルデバイスの水晶が、燃え上がる火炎のような赤色に変わった。

「……グォォォォォォォォォォォォォォ‼」

竜も陽真に答えるように咆哮する。オラクルデバイスと同じく、真紅に染まる。

瞳も輝きを取り戻し、機械屍を大きく吹き飛ばす。まさに完全復活、と言ったところか。

「や、やった……‼」

「陽真くん、これで君はあの騎導獣の騎導士になったんだ!」

「はい! ……‼」

同じくして、陽真の思考にある文字列が浮かぶ。名前のようだ。

「サラマ……ディオス……、サラマディオス。それがお前の名前か?」

「グオオオ!」

「そうか……!」

サラマディオス。それがあの竜の騎導獣の名前のようだ。そのサラマディオスは名前で呼ばれ、どこか嬉しそうだ。

「陽真くん、騎導獣に命令するには……指示を『考える』。それだけでいいんだ。そうすれば彼は君の言う事を聞いてくれる。わかったかい?」

「指示を『考える』……わかりました。」

戌門の言葉を聞くと、陽真は竜――サラマディオスのもとへ向かう。

「聞いてくれ、サラマディオス。ここはおれの大切な場所なんだ。だから、この町を失いたくないんだ。そのために――――サラマディオス、俺と一緒に闘ってくれ」

サラマディオスは、静かにうなずく。陽真も笑顔をかえす。

向こう側の機械屍が起き上がる。陽真は機械屍をじっと睨みつける。

「行くぞ、サラマディオス。あいつを――――ぶっ壊せ‼」

「グオオオオオオオオ‼」

オラクルデバイスを振りかざすと、サラマディオスは突撃した。

壮絶な戦いが、ふたたび動き出す。



ガキィィィィィィィィィィィ‼

サラマディオスと機械屍が激しくぶつかる。

「いいぞ‼そのまま攻撃だ!」

サラマディオスに指示する陽真。大体の性能は把握できていたため、戦闘に困らなかった。

バランスを崩した機械屍に向け、そのまま追撃。高度を上げ、敵目がけ急降下! 見事に相手を地面に叩きつけた。あたりに土煙が舞う。

(初めての戦闘で、ここまで……!)

戌門も、初戦闘にしては手際のいい陽真の指示に驚きを隠せない。

土煙で状況がよく掴めず、これでは指示が出しづらいため、警戒してサラマディオスを少し離す。その時。土煙の中心が怪しく光る。

「……‼ 離れろっ!」

空中に紅い閃光が走る。――――機械屍の放つビームだ。

陽真の直感により、すんでの所で回避。直撃は免れたが、翼にかすり傷を負ってしまった。仮に直撃だと大ダメージは確定だろう。かすり傷だけで幸いだった。

危険を感じ、距離をとる。

「あいつ……ビーム使えるのか⁉」

「機械屍が、飛び道具を使うなんて……‼ 今までのヤツとは違うのか⁉」

機械屍のビームは戌門も初めて見るらしい。

「陽真くん! あのビームは危険だ。気を付けろ!」

「何か……方法は⁉」

ここで陽真は思いつく。サラマディオスは竜型の騎導獣。竜なら、確か――‼

すると、頭の中に情報が送られる。この問いの「答え」だ。

(――――やっぱり!)

機械屍は立ち上がり、発光体を輝かせる。――――土煙の中の光と同じだ。また、あのビームが飛んでくる。しかし、陽真には答えがある。

「サラマディオス! あいつに火炎弾だ!」

「ガオオオオオオオ‼」

サラマディオスは咆哮し、炎の弾を口から発射する。燃え盛る炎が敵めがけ飛んでゆく。

火炎弾は機械屍にクリーンヒット。ビームを発射直前に食い止める事に成功した。

竜なら炎を吐けるハズ……そう考えた陽真の作戦だった。

火炎弾が命中し、機械屍が炎上する。

「よしっ、作戦どおり!」

「でも……まだ機械屍は健在だ!」

機械屍に傷はつけられたが、まだ闘う余裕はありそうだ。

「まだ立つんなら、一気に……‼」

「あいつは自己再生をする。その前に叩くんだ‼」

よく見ると、機械屍の身体は徐々に再生している。放っておくと全快するであろう。戌門のいうとおり、攻撃あるのみだ。

「ヤツを休ませるな! 全速……」

行動する直前、機械屍が耳鳴りに近い金属音を発する。サラマディオスもたじろぐ音だ。

「何だ……この音……⁉」

ガラスを引っ掻くような音に、陽真と戌門は耳をふさぐ。

音とともに、機械屍の様子が変わる。再生どころか、「変形」している。

身体が割れ、そこからまた赤い発光体が出現する。二つ増え、合計三つだ。

変形が終わると、金属音も止んだ。再生も完全に終わってしまった。

「戌門さん! 機械屍って変形するんですか⁉」

「いや……僕もこのケースは初めてみるよ……」

(どうなってる……? 今までの機械屍には飛び道具も変形もなかったぞ……⁉)

戌門の経験にもない予想外の事態が続く。

「……⁉ 発光体がそれぞれ点滅してる……⁉」

「これって……!」

変形した機械屍には同じ発光体が三つ。……つまり、ビームが三発に増えるということだ、しかも、点滅はバラバラだから、それぞれ独立しいてることになる。

「来るぞ、サラマディオス! 飛べ‼」

サラマディオスは上昇する。そこを目がけ機械屍のビームが飛ぶ。

断続的にビームが来るため、ただ避けるばかりだ。

火炎弾はおろか、攻撃の暇などない。

「あの連続ビーム、厄介だな……。」

初めての敵に対し、戌門は打開策を考える。陽真も同じだった。

(この戦い、負けられないんだ……! だから、何か……)

回避に専念するサラマディオス。だが、すべて避けきれる訳ではなく、消耗するだけの状態になりつつあった。

(早く……答えを……!)

考える事にいっぱいの陽真。その時だった。

「グアアアアアアア……‼」

サラマディオスが、被弾した。ビームを翼にモロに受け、地表へ落下する。

「サラマディオス!」

横たわるサラマディオス目がけて、機械屍が前進する。

(クソっ……ここで、終わりか……?)

「陽真くん! サラマディオスは……まだ諦めていない‼」

満身創痍でも、サラマディオスは立ち上がる。その眼は、死んではいなかった。

(いや……まだ終わりじゃない……。そうだよな? サラマディオス。)

こんなところで引き下がれない。それは陽真も、サラマディオスも同じだった。

(そうだ……俺は……俺たちは……)

「まだ……終われない……っ‼ これが俺たちの……『答え』だァァァァァァァァァ‼」

「グアアアアアアアアアアアアアアアア‼」

陽真とサラマディオスが叫ぶ。

二人の心がひとつになった。

瞬間、オラクルデバイスとサラマディオスの身体が強く輝いた。

「なんだ……⁉」

「これは……もしかして⁉」

サラマディオスに異変が起こる。――――「変形」が始まった。

姿を変えたサラマディオス。その姿は……「人」のカタチだった。

翼と尾はそのままに、竜の頭は胸部に。手足は伸び、ふたつの目がついた顔もあった。

炎を纏うその体に、傷など存在しない。

「サラマディオスが人型に……‼」

戦人態(せんじんたい)……⁉まさか、初戦闘で変異(へんい)するなんて……!」

人型のサラマディオスに機械屍が迫る。機械屍は腕を振りかぶり、殴りつける。

「防御だ‼ 今なら耐えられる!」

指示通りに眼前で腕を組み、防御の態勢をとる。

そこを目がけ、拳がぶつかる。

しかし、サラマディオスはピクリともしない。この形態では、人型ならではの動きもできるため、防御姿勢も簡単だ。

「こっちも、お返しだぁーーーーーー‼」

サラマディオスも、機械屍にパンチを決める。今とは逆に、機械屍は大きく押し戻された。

「すげぇ……パワーも全然違う!」

打って変わって、圧倒的な力量差だ。機械屍もそれに気づいたかのように三連ビームを発射する。すると、サラマディオスは炎でビームをかき消した。

「これなら!」

サラマディオスはビームを無視し、機械屍に迫る。ビームが無効と判断したのか、機械屍は捨身の突撃をする。

「陽真くん! 戦人態のサラマディオスなら、『固有武装』……武器があるはずだ。それで一気にとどめを!」

「武器……これかっ!」

サラマディオスは左の掌で火球を作り、その中に右手を入れ、何かを取り出す。

それがサラマディオスの武器――――「(つるぎ)」だ。

剣も同じく、赤い炎を纏っていた。

「サラマディオス‼ 決めるぞ‼」

火炎とともに、サラマディオスは加速する。

「これが俺たちの『答え』だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

剣を振りかざし、機械屍を切り裂く。

機械屍は真っ二つに裂け、大爆発。――――共に、消滅した。



ここに、ひとつの戦いが終わりを告げた。

竜杜陽真とサラマディオス。二人の初勝利だ。

戦い抜いた二人の戦士を癒すように、朝日が昇る。

「やったよ、陽真くん! あの機械屍を倒したんだ‼」

「俺……町を……守ったんですか?」

「ああ、君たちはこの町を――――救ったんだ。」

「護れたんだ、ここを……‼」

陽真は嬉しかった。自分の、自分たちのチカラで誰かを救えたのだから。

「やったな、サラマディオス!」

「グオオオ!」

「俺たちは、勝った……ん……だ…………」

陽真は力尽き、その場で倒れる。

「は、陽真くん! 大丈夫⁉」

「……スー、……スー……」

「寝ちゃった、のか……無理もないよ。あんな激戦の後だから、ね」

戌門は眠りについた陽真を、そっと寝かせる。

(初めての実戦で戦人態を覚醒させるなんて……。陽真くん、君はすごい騎導士だ。もしかすると、君はいずれ、この世界を照らす「(あかつき)」になってくれる――――かも知れないね。)

朝日の光をうけたサラマディオスの顔は、どこか誇らしげに見えた。


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