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Rock 'N' Roll Star

 ――おもちゃの兵隊たちは燃え上がる炎の中に消える。

 灼熱の炎がブリキでできた彼らの体をどろどろに溶かした。

 おもちゃの兵隊は戦場にその身を捧げ、英雄となる。 



 見上げれば太陽の様に燦々と輝くステージの照明と古い体育館独特の木材の芳香。会場から巻き起こる困惑、驚愕、怒号。

 今目の前に立っているのは紛れもない。世界中のロック少年たちが憧れるロックバンド、ロクサーヌのアイリーン・ロングフェルトだ。

 誠司は調子を狂わされながらも英語で話し始める。



 『一体こんなところまで何しに来たんだよ?』

 『何ってご挨拶ね。忙しい日本ツアーの合間を縫って、あんたとセッションする為に来たんじゃない! 約束守ってもらうわよ!』

 『セッションって・・・。オーディエンスに暴言吐きやがって! どうすんだよ!?』

 『あんたたちがどれだけの演奏をしてるかも理解できないクソヤローばっかりだから、一発ブチかましてやったのよ!』



 何の悪びれる様子もないアイリーンにさすがの誠司も言い返せない。

 話している内容までは理解できなかったが、昂汰と奏はアイリーンが誠司に輪をかけて口が悪いのだということを察した。



 『そこに置いてある小汚いドラムセット借りるわよ。壊すかもしれないけど。』

 『ああ、軽音部のか? ・・・ていうか絶対壊すなよ!』



 昂汰と奏は英語で親しげに話す誠司とアイリーンを見て、呆然としていた。

 アイリーンはステージに佇む昂汰を見て指差す。



 『それからそこの少年! 廊下を走るときと弦の替えには注意しなさいよ!』

 「え・・・? 僕のこと!?」



 勿論英語の為、昂汰は理解できない。助けを求めるかのように誠司の顔を見た。



 「廊下を走るときと弦には注意しろだってよ。お前アイリーンに会ったのか?」

 「さっき廊下でぶつかって・・・ていうか、誠司君。彼女、ロクサーヌのアイリーンだよね!? 一体どういうことなのさ!?」

 「どういうって、俺の前のバンド仲間だよ。言っただろ?」

 「聞いてないよ!」



 日本語で話し込む昂汰たちにアイリーンは気を揉み出す。



 『ちょっと何やってんのよ? もう待ちきれないわ! とっとと始めるわよ!』

 『待てよ! ギターの弦どうすんだよ!?』

 『大丈夫よ。今替わりが来るから。』



 アイリーンは会場を振返り、大きな声で呼びかける。昂汰たちもアイリーンの呼びかける先へ目をやる。 



 『シモン! 何やってんのよ!? 早く上がって来なさいよウスノロ!』



 アイリーンの呼びかけに答えて、観客の間を申し訳なさそうに背の高い外国人の男がゆっくりとステージへ近づいてくる。

 


 「今度はなんだ? なんかデカい外人がステージの方に行くぞ!」

 「いてて、なんか背負ってるぞ?」

 「何なんだよさっきから!?」

 「なんかどっかで見たことあるような・・・。」



 外国人の男は何とかステージの下まで辿り着き、誠司を見つけると嬉しそうに手を振る。

 少し長めのブラウンの髪にアンバーの瞳、寒さを感じさせない半袖のロックTシャツに細身の色落ちしたジーンズ。身長は軽く180はあるだろう。

 今、全世界のギターキッズたちの憧れの的である若き天才ギタリスト、シモン・グレゴリーその人である。



 『誠司! 会いたかったぞ!』

 『久しぶりだなシモン! お前が背負ってんのってそれ?』



 シモンはステージに飛び乗ると、背負っていたケースを開ける。

 中身を取り出すと、昂汰の前まで行ってそれを差し出した。



 『本当は俺が弾くつもりだったんだけどな。だけど君のギターをもっと聴きたくなった。これを使え。君のと同じだ。』

 「え・・・えーと・・?」



 シモンから差し出されたのは昂汰のギターと同じエピフォン・カジノであった。

 昂汰はどうしたらいいか分からず、再び誠司に助けを求める。



 「シモンがお前に貸すってさ!」

 「ほ、本当に借りていいの!?」



 昂汰はゴクリと唾を呑み込むと、手を震わせながらシモンのギターを受け取る。

 シモンは笑顔で昂汰の肩をポンッと叩くと、今度は誠司の元へ歩み寄った。



 『誠司、悪いがベースを貸してくれ。』

 『・・・ああ、壊すなよ。』

 『何言ってんだ。俺にとってもそれは大事な物だろ?』



 誠司の手からシモンにリッケンバッカーのベースが渡される。

 ステージの上でのやり取りに、観客たちも疑問を抱いていた。



 「なんかあの外人たちも一緒にやるみたいだな?」

 「あれって確か・・・まさかな・・・。」

 「とりあえず演奏再開か? なんかメンツ増えたし。」



 会場は異様な空気に包まれる。

 それまで話の蚊帳の外であった奏が状況を呑み込めず、誠司に詰め寄った。



 「一体どういうことですか!? なんでロクサーヌの人たちがここにいるんですか!?」

 「まあ詳しい話は後だ! 最後の最後でロックの女神様は俺たちに微笑んだってことだよ!」



 誠司は奏に向かって親指を立ててウインクをする。

 いい加減待ちくたびれたアイリーンが誠司を急かす。



 『いつまで待たせんの!? グズグズしてんじゃないわよ! 早くこいつらにブチかますわよ!』

 『ずいぶんと口の悪い女神様だ・・・。』



 誠司は苦笑いし、アイリーンはドラムセットに座った。

 シモンはやれやれといった様子で誠司に尋ねる。

 


 『で、次は一体何をやるんだ?』

 『ストーンズの“ホンキー・トンク・ウィメン”だ!』

 『分かった。できる限りお前らに合わせるよ。』



 突如の展開に緊張の面持ちの昂汰と奏に誠司は檄を入れる。



 「アイリーンがドラムを叩く。即興でやるしかないが、お前らならできるはずだ!」

 


 昂汰と奏は顔を見合わせ頷き合う。

 奏はキーボードの位置につき、昂汰は覚悟の表情でシモンから渡されたギターのストラップに肩を通す。



 (なんか色々起こりすぎてよく分からないけど、奇跡ってこういうことを言うんだろうな・・・。まだ皆と弾けるんだ。)



 昂汰たちの用意が整い、アイリーンが待っていたかの如くスティックを高々と掲げて数回叩く。

 観客たちはこの状況を未だ呑み込めずにいたが、その小柄な外国人の少女の一挙手一投足に誰もが釘付けとなった。



 その直後、会場中に激しい地響きが起こる。

 皆が見つめるステージのその上では、謎の外国人少女が鬼神の如くドラムを打ち鳴らしていた。

 


 (さすがロクサーヌのアイリーンだ。あの小さな体でこんなパワフルで躍動感のあるドラミングができるなんて! テレビで見てた以上だ!)

 (激しいのにテンポも正確でリズムも心地いいです! 何よりこのノリは他の演奏者を熱くさせます!)



 昂汰と奏は間近で叩かれる世界的ドラマーの別次元のドラミングに衝撃を受ける。それは観客たちも例外ではなかった。



 「高校の文化祭でこんなの反則だろ!?」

 「誰だよあの外人!?」

 「手数も多いし、何より叩いてる姿がめちゃくちゃかっこいい!」

 「だけど、どっかで見たことあるような・・・まさかな?」

 「しかし一体何を演奏してるんだ?」



 その疑問に答えるかのように昂汰のへヴィーな轟音ギターがメロディーを刻み、誠司のハイトーンボイスが会場を突き抜けた。



 「これは確か昔のストーンズの曲か?」

 「ホンキー・トンク・ウィメンだが、なんか違うな。」

 「そもそも原曲はこんなにへヴィーじゃないし、ボーカルも高くない。」

 「色々違うけどアリだな!」



 サビの手前で今度はシモンのベースと奏のキーボードが入る。

 シモンの野太いベース音と奏のしなやかなキーボードが曲に更に色を添える。

 そしてメンバー全員でのサビのコーラスで観客は心を掴まれた。



 「なんか踊りたくなるな!」

 「凄く楽しい気分にさせる曲ね!」

 「我慢できねー! 俺も歌う!」



 観客たちの中から疎らにコーラス部分の歌声が聴こえてきた。

 そこは今まで会場の誰もが経験したことのない高揚感に包まれていた。

 そんな熱狂する観客の傍らで、壁にもたれて腕を組み、バンドの演奏を静かに見つめる男の姿があった。

 どうにも高校には場違いなスキンヘッドでサングラスをかけた強面の男。かつて昂汰たちがライブをしたライブハウスシャラララリーのマスターである。

 皆が距離を開け、近づこうとしない強面のマスターに声が掛かる。



 「お久しぶりです。マスター、いらしてたんですか?」

 「翔子ちゃんか・・・そうか、あいつらは翔子ちゃんの教え子なのか・・・。」

 「はい、私には勿体ないくらいのいい子たちです。」



 体育館の後ろでひっそりと立つマスターの姿を見つけ、懐かしそうに声を掛けたのは翔子であった。

 二人は声が届くように近づき、横に並んで話し始める。

 


 「翔子ちゃんが教師になるって言ってバンドを辞めて、もう何年になるかな?」

 「嫌ですわ、歳がばれてしまいます。」



 翔子とマスターは、まだ翔子がバンド活動をしていた学生時代からの知合いであった。二人は懐かしさに顔が綻ぶ。



 「あの子たちが行っていたスタジオってもしかしてマスターの所だったんですか?」

 「ああ、誠司の野郎、金がないからツケにしろなんて言いやがったからな。」

 「ははは・・・。申し訳ありません。」



 練習場所に困った昂汰たちが転がり込んだのはライブハウスシャラララリーであった。誠司はマスターに無理を言って、結局条件付きでほぼただ同然でスタジオを借りることに成功していた。

 マスターは視線をステージの上に戻し、感慨深い様子で演奏中の曲について語り出す。



 「ホンキー・トンク・ウィメンは確かにローリング・ストーンズの代表曲だ。だがこれはハンブル・パイのカバーバージョンだな。原曲よりハードにアレンジされている。」

 「その通りですわ、マスター。」

 「まさか生きてるうちにまたスティーブ・マリオットの歌声が生で聴けるなんて思わなかったぜ・・・。まるで夢のようだ。」



 ハンブル・パイ。スモール・フェイセスのスティーブ・マリオットが自らの音楽性の追及の為に元ハードのピーター・フランプトンなどと結成したハードロックバンドである。

 マスターはスティーブ・マリオットと瓜二つの誠司の歌声に、幼き日に父親に連れられて見に行ったハンブル・パイのライブのことを思い出していた。



 「マスター、驚くのはそれだけじゃないみたいですよ。」

 「そうだな、最近の音楽には疎いが、ロクサーヌって言えば俺でも知ってる。気付かれたら大騒ぎになるぞ?」

 「どうやらイギリス帰りのモッズ君には素敵なお友達がいたみたいですね・・・。」



 そう言うと、翔子はマスターにお辞儀をしてステージの袖へ戻ろうとする。翔子の様子がおかしいのに気付き、マスターは心配して呼びかけた。



 「翔子ちゃん。何かあったのかい?」

 「いいえ、何もありませんわ。楽しんでいって下さいね。このライブは歴史に残りますよ。」



 翔子は一瞬振り返るが、そそくさとマスターの元を離れる。マスターはそんな翔子の後ろ姿を見つめることしかできなかった。



 二人が話し込んでいる間に観客たちは更に熱狂していた。コーラスもいたるところから聴こえてくる。

 シモンのベースが縁の下から曲を支え、アイリーンのドラミングで曲は躍動する。昂汰のギターはとろけるように唸り、奏のキーボードから流れるメロディーは軽やかに舞う。そして誠司の歌声は体育館の高い屋根を突き抜けんとばかりに響いた。

 初めて合わせたとは思えない一体感である。



 (さすがシモンとアイリーンだ! こっちの演奏を汲み取って更に引き出してくる!)



 観客たちは歓喜した。会場中に歌声が飛び火し、曲を知らない者までが周囲に合わせて一緒に歌を歌い出す。

 会場の熱気は右肩上がりのまま、曲は終わりを迎える。会場からは叫び声の様な大歓声が湧いた。



 「うおぉぉぉーー!!」

 「すげぇぇぇーー!!」

 「一体どうしちまったんだよ!!?」

 「さっきも凄かったが、もう次元が違うな!」

 「と、鳥肌が止まらない!」



 驚きと歓声がひしめき合う体育館で、昂汰、誠司、奏の三人は自らの中から込み上げてくるものを感じた。

 シモンはそんな三人を微笑ましく見つめ、アイリーンはまだまだ欲求不満そうな様子だ。

 そんな中、ついにシモンとアイリーンの存在に観客が気付きだす。



 「間違いない! こんなところにいるはずがないと思ってたけど、あれはロクサーヌのシモンとアイリーンだ!」

 「ロクサーヌって、あの世界中でトップチャートを総なめにしてるロックバンドだろ!?」

 「確かにあの小さいながらパワフルなドラマーはロクサーヌのアイリーンだ!」

 「ベースを弾いてるのは、ギターのシモンだ! なんでベースなんだ!?」

 「嘘でしょ!? 皆に教えないと!」



 観客はこの驚天動地の事実に興奮し、体育館の中はこれまで以上に騒然とする。

 顔を見合わせ現実を疑う者もいれば、携帯で友人に知らせる者、SNSにアップする者、皆が多種多様な反応を示す。

 次第に観客たちはステージに詰め寄り、いたるところから携帯のシャッター音が聴こえてくる。

 その反応にアイリーンがまだかまだかと誠司を囃し立てた。



 『さっきまで文句言ってた奴らが、今は餌に群がる魚みたいだわ。誠司、次は何!? この雑魚共にもっと餌をばら撒くわよ!』

 『お、おう! 次はお前らの曲をやる予定だったんだ! “ジ・アーリー・デイズ”だよ!』

 『調度よかったわ! あんたに歌わせてみたかったのよ!』



 誠司はアイリーンとアイコンタクトを取ると、ある筈のない事態に騒然とする観客たちにむかってMCを始める。



 「もう分かってる奴らも多いと思うけど、今日のギグはとっておきさ! 括目しろ! 歴史的名演だ!!」



 そう叫ぶと誠司は昂汰に合図を送る。昂汰は頷き、すぐさまギターリフを弾きだす。

 どこかで聴いたことのあるメロディーに観客は目の色を輝かせた。

 ベース、ドラム、キーボードの音が重なり、曲はその姿を露わにする。誠司が歌い出すころには、会場から驚喜の声が沸きあがっていた。



 「これCMで流れてるやつだろ!?」

 「かっけぇぇ!!」

 「ていうか、二人は本物だろ!?」

 「なんだかこの声の方が本物と違うけど、しっくりくるというか、合ってる感じだな。」



 “ジ・アーリー・デイズ”はロクサーヌのメガヒット曲であり、代表曲である。日本でもテレビCMやラジオで毎日のように流され、洋楽に興味のない者でも知らない者などいなかった。

 その歌詞の内容はメンバーたちの若き日の青春模様が描かれており、エモーショナルでパンク的、そしてキャッチーな曲調は世界中のティーンたちを虜にした。

 誠司は曲が盛り上がるにつれて観客を煽り、歓声の波が広がっていく。

 世界的な人気バンドのメンバーが来ているという話を聞きつけて、外からどんどん体育館の中へ人が入り込んできていた。

 ライブの轟音と次第に増していく観客たちの歓声が、この狭くて古い体育館を激しく揺さぶる。

 気付いた頃には体育館中に人々がひしめき合い、入り口の外まで人がごったがえしていた。



 「どこどこロクサーヌ!?」

 「ドラムとベースの外人だよ!」

 「っていうか皆上手くない!? 私こんな歌が上手い人初めて見た!」

 「あの人たち全員プロじゃないの?」

 「あのボーカルの子見たことあるよ!」

 「ギターの奴確か同じ中学じゃなかったか?」

 「キーボードの子って、A組の羽田野さんだよな!」



 新しく入って来た観客たちの声が入り混じる中、3分半の駆け抜けるようなロックソングは終演へと向かう。

 シモンは回転しながら華麗にベースを弾き、昂汰はハイジャンプをする。アイリーンはスティックを器用にクルクルと回し、奏の指が鍵盤の上を軽やかに走る。誠司はマイクスタンドを振り回し、その非凡な歌声で観客を魅了した。

 5人は既に汗だくであった。激しく動くたびに水滴が空中を舞い、熱いライブパフォーマンスが繰り広げられる。

 曲が終わる頃には、誰もが目にも耳にもしたことがない神懸り的な演奏に魅了されていた。

 


 「やっぱり世界で売れるって凄いんだね!」

 「洋楽よく分からないけど、私今度CD買う!」

 「音楽って言葉じゃないんだね。」

 「いいから次やってよ!」

 「ある意味凄いのはあの三人かもな。あの二人と一緒にやってて全く見劣りしてねぇー。」



 曲が終わり、感嘆と賛辞が飛び交う中、大歓声の余韻に浸る昂汰たちの立つステージに異変が起こる。突如ステージの垂幕が下りてきたのだ。

 昂汰たちが呆気に取られている間に垂幕は真下まで下りる。観客たちからは不満の声が沸き立つ。



 「何幕下してんだよ!」

 「今来たところなんだよ! もっと聴かせてくれ!」

 「これで終わりならアンコールだ!」

 「アンコール! アンコール!」

 「「アンコール! アンコール!」」



 会場からはアンコールの要求が沸き上がっていった。

 一方垂幕の下がったステージの中では誠司がいきり立つ。



 「誰だよ勝手に幕を下ろした奴は!?」



 誠司がステージの袖を見ると、翔子が驚きの表情を浮かべている。軽音部の川村と児島もいたが、突然の閉幕に珍しく右往左往していた。

 するとその奥から手をゆっくりパチパチと叩きながら歩いてくる男の姿があった。。



 「いやー、素晴らしい演奏でしたよ。」

 「お前は!?」



 ステージの袖の奥から現れたのは、軽音部顧問の柏葉であった。両手を叩きながら不敵な笑みを浮かべている。



 「残念だが、君たちのライブはもう終わりです。少し時間を使い過ぎましたね。」

 「何だよ! もう一曲くらいやらせてくれてもいいだろ! オーディエンスだって待ってるんだ!」



 昂汰の弦が切れてしまった一件で、確かに所要時間を大幅にオーバーしてしまっていたのは事実であった。

 今一状況を呑み込めないアイリーンは、不満そうに誠司に問いかけた。



 『何? この如何にもな感じのクソヤローは? オーディエンスも見てないし、やっちゃう?』

 『そんなことしていいわけねーだろ!』



 柏葉はそんな誠司らのやり取りを見て、笑いながらも少し強い口調で捲し立てた。



 「前にも言ったが、この文化祭ライブは軽音部にとって最大のイベントなんだよ。それをどうだこの有り様は?」

 「どうって、すげー盛り上がってるじゃねーか!?」

 「違う、このショーは軽音部の、私のショーなんだ! それを高岡先生に免じてお前らを出してやれば、余計な事ばっかりしやがって!」

 「んだと、このファッキン野郎!!」



 身勝手な言い分をする柏葉に誠司が襲いかかろうとするが、その前に翔子が手を広げて立ちはだかる。



 「せ、先生!?」

 「もうやめなさい! 時間なのだからどうしようもないわ。例え途中まででもライブはできたし、英語部も残るの! それでいいじゃない! あなたが手を出せば、取り返しがつかなくなるわ!」



 翔子が誠司を静止したことに、柏葉は声を上げて笑い出した。



 「ははは・・・! そうですよね高岡先生! あなたは私に逆らえない!」

 「どういうことだ!?」



 柏葉の発言の意味が理解できない誠司。

 昂汰はそのやり取りを見て、目を閉じ拳を握りしめて、耐え忍んでいた。

 奏はそんな昂汰の様子を不思議に思い、心配そうに気遣う。



 「昂汰君、どうしたんですか? 顔色悪いですよ?」

 「・・・もういいんだ。」

 「・・え?」



 顔を上げて昂汰は翔子を見つめる。そして目を潤ませながら声を張り上げた。



 「もういいんだ、先生!! 気持ちは嬉しいけど、僕らの為にそんな奴と婚約なんてしちゃダメだ!!」

 「ど、どういうことだよ、コウ!?」

 「婚約って一体何ですか!?」



 昂汰の突然のカミングアウトに誠司と奏は動転する。

 皆の視線は翔子に集まるが、翔子は柏葉の前で俯いて口を塞いでしまう。

 誠司と奏の疑問に答えるように、柏葉がヘラヘラと笑いながら話し出した。



 「全くどこで盗み聞きしたのかな? まあいずれ分かることだからいいだろう。そうだ、高岡先生は私のフィアンセになるんだ! そうだろ、先生?」

 「そうよ、英語部とは関係ないわ・・・。私が自分の意志で決めたことよ・・・。」



 翔子の言葉に誠司と奏は言葉を失う。しかしそれでも尚、普段の昂汰からは想像できないほど、声を荒げて翔子に抑えていた自分の気持ちをぶつけた。



 「僕らは誰かを不幸にする為にロックをやってるんじゃない! 先生は僕らにとって、もう大事な人なんだ! だからダメだ! 先生だけが犠牲になるのなんて間違ってる!!」

 「いいのよ、これは私のけじめなの! あなたたちにはこれからもこの学校でロックをやって欲しいのよ!」



 翔子は今にも泣きだしそうな顔で、昂汰に悲痛な気持ちを返した。

 気に食わない様子で二人のやり取りを遮るように、柏葉が手を叩きながら後夜祭の即時閉幕を要求する。



 「いいかお前ら、さっさと片づけを始めろ。廃部にされたくなかったら言うことを聞くんだ!」



 ステージに下りた幕の外では、アンコールの要求が昂汰たちの会話を飲み込むように膨れ上がっていく。



 「「「ロクサーヌ!! ティン・ソルジャーズ!! ロクサーヌ!! ティン・ソルジャーズ!!」」」



 その歓声は地響きを立てて、古い体育館の壁や天井に反響する。

 翔子の秘密に動転していた誠司は、ようやく冷静になり、まだ驚きと不安で一杯の奏の肩に手を置いた。



 「本当に馬鹿な大人だよな・・・。俺たちとの約束を守ることと引き換えに自分の人生売る気だぜ? どうするよ部長?」

 「私は・・・。」



 奏は誠司からの問いかけに、こうなったことは自分が英語部にこだわり過ぎていたことに一因があるのだと困惑する。

 それと同時に、このライブに賭けていた昂汰、誠司、自分たちのためにここまでしてくれた翔子のことを思い、熱い気持ちが奏をかきたてた。



 「・・・英語部のライブを続行します!!」

 「羽田野さん! 何を言っているの!?」

 「ライブを続ければ英語部はもう終わりかもしれません。だけど先生の婚約も必要なくなります!」



 思いもよらない奏の発言に、翔子は慌てて静止しようとするが、奏の決意は固かった。



 「先生がそうしてくれたように、私たちも先生のことを守りたいんです! これで英語部が無くなったのなら、それは私の責任です!」

 「羽田野さん・・・。」



 奏の強く凛とした表情に翔子はその場に膝を落とした。その美しい瞳からは一粒の涙が流れる。

 誠司はそのことの顛末を見届けると、状況も訳も分からず見つめるしかなかったシモンとアイリーンにライブの続行を告げた。



 『悪かったなお前ら! 次が最後の曲・・・“ティン・ソルジャー”だ!』

 『知ってるわ、あんたの一番好きな曲だもんね。』



 アイリーンは体を伸ばして深呼吸すると、再びドラムセットに座る。シモンも肩をぐるぐる回して曲の準備に入った。

 自分を無視して曲を続行しようとする誠司たちに柏葉が憤りを顕わにする。



 「お前らいい加減にしろ! どこまで私をコケにすれば気が済むんだ!? すぐに中止しろ! 英語部の廃部くらいでは済まさんぞ!!」



 大声を出して昂汰たちの方へ踏み出そうとする柏葉の手が突然掴まれる。



 「き、貴様! どういうつもりだ!?」

 「あんたには世話になった・・・。だがあんたは最低だ。教師の風上にもおけねー。」



 柏葉の前に立ち塞がったのは、軽音部の川村であった。その長身から柏葉を見下ろし、睨みつける。



 「暴力沙汰ばかり起こすお前に目をかけてやった恩を忘れやがって! こんなことをしてただで済むと思うなよ!」

 「フン!」



 柏葉を無視するように川村は誠司の方を向き、少し恥ずかしそうな様子で声を掛ける。



 「おい、そこの前髪パッツンのチビ! 佐伯とか言ったか?」

 「あ? 何だよ?」

 「こいつは俺たちが何とかする。お前らは演奏を続けろ。」



 誠司は川村の意外な言葉に一瞬キョトンとするが、すぐにその気持ちを受け止めてニヤリと笑った。



 「あんた意外といい人なんだな。」

 「勘違いするな。俺は柏葉のやり方が気に食わないだけだ。」



 気恥ずかしそうに言い訳をする川村。そんな川村を押しのけようとする柏葉を軽音部部長の小島が羽交締めにする。



 「は、離せ!!」

 「いけませんよ先生。大事な相談がありますから、あっちでお話しましょう。」

 「クソ!! 貴様ら皆退学だ!! 覚えていろよ!! 私がその気になれば・・・!!」



 小島は苦笑いしながら柏葉を引きずっていく。柏葉の最後の捨て台詞が虚しく宙を舞った。

 川村もその後に続くが、最後に昂汰の方を振り向く。



 「あとそこの眼鏡のチビ! ・・・お前のギター、かっこよかったぜ!」



 柏葉と川村ら軽音部のやり取りを漠然と見つめていた昂汰は、その言葉を聞いて川村に深々とお辞儀をすると、拳をギュッと握り締めた。

 そしてステージに膝を落として放心状態の翔子の元へ歩み寄る。翔子は昂汰の顔を見上げた。



 「先生、これが最後の演奏になるかもしれません。見ていて下さい! 今までで最高の演奏をしますから!」

 「・・・不思議ね。」

 「・・・はい?」

 「あなたたちみたいな子供をこんなに頼もしくしてしまうのだから・・・。本当に・・・ロックって魔法みたいだわ・・・。」



 翔子は涙を拭いて立ち上がると、閉じてしまった垂れ幕を開ける為に、ステージの袖へと走る。



 「あなたたち、すぐに垂れ幕を上げるわ! アンコールに応えてあげなさい!」

 「はい! 先生お願いします!」



 全ての準備は整った。シモンとアイリーンは待ちに待ったライブの再開に意気揚々とし、昂汰と奏は決意の表情で垂幕が上がるのを待った。

 とその時、誠司は何かを思い出したのか、横を向き、マイクを奏の方に向ける。



 「最後の曲だ。部長からオーディエンスに挨拶してやれ!」

 「えっ!? いいですよ! そんなの考えてないです!」



 誠司の突然の提案に、奏は恥ずかしそうに両手を振ってそれを拒んだ。

 だが誠司はそんな奏を無視するようにニコッと笑うと、持っていたマイクを奏に向かって投げた。



 「ちょっ!? え? ええええぇ!?」



 奏はマイクが落ちないよう、反射的に受け取ってしまう。そのタイミングで垂幕はゆっくりと上がり出した。

 観客たちから一斉に大歓声が上がる。奏は受け取ったマイクを両手に抱えたまま、赤面して固まってしまう。



 「うおおおおぉぉぉ!!!」

 「待ってたぜ!!」

 「これで終わりなんてねーよな!!」

 「ん? なんかキーボードの子がマイク持ってるよ?」

 「あの子が歌うのか?」



 誠司の無茶振りに頭が真っ白になってしまった奏に、昂汰が歩み寄って優しく微笑みかける。



 「僕たちがここまで来れたのは、英語部に僕らを迎え入れてくれた奏ちゃんのおかげだよ。何も気取らなくていいさ。奏ちゃんの今の気持ちを素直に伝えればいいんだ!」

 「昂汰君・・・。」



 昂汰の言葉に表情を和らげると、奏は軽く頷いてゆっくりステージの前まで歩いて行く。

 奏はステージの真中に立ち、狭い体育館の中を満員電車のようにひしめく観客たちを見つめた。

 肌に観客たちの熱気がじわじわと伝わってくる。奏は胸に手をあて、ゆっくりと話し出した。



 「私は英語部部長・・・ザ・ティン・ソルジャーズのキーボード、羽田野 奏です! 今日は私たちのライブを最後まで聴いてくれてありがとうございます!」



 話し始めた奏を観客たちは温かい目で見つめる。皆がまだあどけなさの残る少女の真剣な言葉を聞き入った。



 「私はつい最近までロックなんて嫌いでした。煩くて野蛮で不良がやるものだと軽蔑してました・・・。」



 その言葉に昂汰と誠司は顔を見合わせニヤニヤする。昂汰たちの脳裏に初めて奏と会った日のことが思い浮かんだ。



 「だけどそれは間違いでした! 一見荒々しくて単純で安っぽくても、とても綺麗で夢と希望に満ちた・・・皆に勇気を与えてくれる魔法みたいな音楽だったんです!」



 ステージの袖に立つ翔子は奏の言葉を聞き、腕組みをしてクスッと笑った。



 「私がロックの素晴らしさを知ることができたのは、ここにいるギターの昂汰君、ボーカルの誠司君、そして顧問の高岡先生のおかげです! だから私は今、自信を持ってこう叫びます!」



 昂汰、誠司、翔子、そして観客たち全員が固唾を呑む。

 奏はゆっくり息を溜めると、ありったけの声で叫んだ。



 「私はザ・ティン・ソルジャーズが、ロックが大好きです!!!」



 奏の絶叫に観客たちが大歓声で応える。

 シモンとアイリーンは、言葉こそ分からなかったが、奏の熱い叫びと観客の大歓声に心を震わせた。



 「次の曲は私たちのバンドを作るきっかけになった曲です! 聴いてください! 『ティン・ソルジャー』です!」



 奏はピアニストの様に深々と一礼をすると、振返って誠司にマイクを突き出す。



 「ナイスなMCだったぜ! 奏!」

 「もう! 心臓が止まるかと思いました!」



 誠司にマイクを手渡すと、奏はキーボードの位置まで行き、鍵盤を見つめた。

 一呼吸置いて、皆に合図を送ると、奏は穏やかにキーボードを弾き始める。

 キーボードから流れるオルガンのクラシカルな音色が体育館に響き渡る。やっと始まった演奏に観客たちは腕を高々と上げて歓喜の咆吼が沸く。

 アイリーンとシモンがゆっくりとリズムを刻んで、昂汰のギターの音を重ねる。誠司が雄叫びを上げるとアイリーンが激しくドラムを叩きだす。

 見事な一体感の土壌の上を、誠司のブルージーでソウルフルな歌声が芽吹いた。

 約半世紀前に作られたこの曲は、彼らザ・ティン・ソルジャーズの始まりの曲であった。

 学校の片隅で昂汰と誠司のたった二人の演奏から始まったこの曲は、奏の加入によるザ・ティン・ソルジャーズの結成、そしてシモンとアイリーンという思わぬヘルプの乱入でついに完成したのであった。



 伝説のシンガー、スティーブ・マリオットを生き写した様な誠司のパワフルで突き抜けるような歌声が観客の心を揺さぶる。

 奏は今までのことに思いを馳せながらエモーショナルにキーボードを弾き、昂汰は仲間たちと一緒に演奏できることを深く噛みしめながら激しくギターをかき鳴らした。

 五人の演奏は一つに重なり、作り出されたグルーヴに誰もが酔いしれ、この場に居合わせることができた幸運に浸った。

 観客たちの惜しみない讃辞と感嘆の声が至る所から飛び交い、大興奮の渦を巻き起こす。

 偶然が生んだこの奇跡の演奏は、誠司の激しい雄叫びと共についにフィナーレを迎える。



 「ボーカル歌上手すぎだろ!!」 

 「いやいや、全員化け物みたいに上手いぞ!」

 「何か心が熱くなるみたいだ!」

 「サイコー!!」

 「今の曲聴いたことないけど良かったね! 一体誰の曲だろ!?」

 「ティン・ソルジャーとか言ったよね!? 今度私ダウンロードしよ!」



 有名なロックミュージシャンのライブでも、こんな大歓声は果たして起こり得るだろうか? 昂汰、誠司、奏の三人はステージに佇み、見たこともない人々の興奮と歓喜の声に言葉を失っていた。

 歓声に酔いしれている三人にアイリーンが檄を入れる。



 『ちょっとあんたたち! 感動に浸るのはいいけど、これだけじゃまだオーディエンスは納得してくれないわよ!』



 興奮した観客からは更なるアンコールの要求が沸きあがる。



 「ええ!? これで終わり!?」

 「もう一曲やってよ!!」

 「アンコールだ!!」

 「まだこれじゃ帰れないよ!!」



 その時、後夜祭の閉会時間はもうすっかり過ぎていた。さすがに不味いと思った昂汰たちはステージの袖にいた翔子の方を不安そうに見つめる。

 翔子はその視線の意味を感じ取り、ステージの昂汰たちに向かって叫んだ。



 「あと一曲やってあげなさい! 責任は私が取ります!!」



 誠司は翔子に向かって親指を立てた。そしてまたしても何か思いついたのか、不敵な笑みを浮かべてシモンに近寄る。

 昂汰と奏は不思議そうに首を傾げた。



 『シモン、そろそろお前もギターが弾きたいだろ? ベース返せよ。』

 『誠司、ベースを返すのはいいが、ギターはどうするんだ?』



 誠司はニヤッとしながら昂汰を指さした。どうやら先程昂汰に貸したギターを使えということらしいが、それでは本末転倒である。

 英語でやり取りする誠司に指差され、昂汰は嫌な予感を感じた。



 「コウ、シモンにギターを返せ。今度はお前が歌うんだ!」

 「え・・・? ・・・ええええぇぇぇぇ!!?」

 「お前オアシスなら歌えるだろ? ライブの候補曲だったから奏も弾けるはずだ!」



 誠司は首尾良くシモンとアイリーンに内容を伝える。昂汰の歌など勿論聴いたことはないが、二人とも誠司の提案に乗り気だ。

 最後の曲を終えた高揚感の中、またしても誠司の無茶振りが炸裂する。昂汰は苦し紛れに奏に顔を向けた。



 「奏ちゃん! どうしよう!?」

 「いいじゃないですか~。昂汰君の素直な気持ちを伝えれば~。」



 奏は笑いを含み、おどけながら昂汰に少しいじわるな返事をする。どうやらさっきのことを根に持たれているようである。

 昂汰は観念したのか、肩を落として溜息を吐くと緊張しながらシモンに借りていたギターを返した。

 観客からは困惑の声も上がったが、これまでのライブの余熱で次の演奏への期待が勝っていた。

 慣れない様子でマイクスタンドに手を掛けた昂汰は、観客でパンパンに膨れ上がった体育館を見渡し、口を開く。



 「僕は今このメンバーと演奏ができてとても幸せです。この日、この瞬間を一生忘れません! 次の曲がライブの・・このバンドでの最後の曲です!」



 昂汰はそうすると、本日最後の曲を観客に告げた。その曲はまさに今夜の彼らを象徴するかの如く。オアシスで『ロックン・ロール・スター』・・・。



 ――僕は歌った。それが上手かったのか下手だったのかは分からない。だけどそれはステージと会場が一つに溶け合って、とても気持ちいいものだった。

 シモンのギターはやっぱり凄かった。人並み外れたオーラは別次元だ。あんなの今はとても勝てる気がしない。

 いつかバンドにドラムを入れるなら、アイリーンみたいに上手くてカワイイ子がいいな。だけど口はもう少しいい方がいいかな。少し贅沢言い過ぎだね。

 奏ちゃんは相変わらずとても楽しそうに弾いているね。君の横でだったら、ずっと歌っていられそうだ。

 まさかロクサーヌの人たちと一緒にバンドをやっていたなんてね。まあ、君の歌や演奏を聴いてれば納得かな。誠司君、君に会えて良かった。



 ライブは終わった。ステージを温かい大歓声が包み込み、昂汰、誠司、奏の3人は嬉し涙を流してステージの真中で抱き合った。

 シモンとアイリーンはそんな3人を見つめて、誠司はもう自分たちと一緒にいた頃とは違うのだと実感する。

 アイリーンは寂しそうに笑った後、三人の元へ駆け寄る。



 「やったな! 最高の気分だぜ!」

 「私・・・私・・、感動しました!」

 「皆ありがとう。僕は幸せ過ぎて・・・ちょっ!? あれ?」



 感動に浸る昂汰にいきなりアイリーンが後ろから抱き付く。昂汰は何が起こったか理解できない。



 『私も混ぜなさいよ! あんたギターも上手いし、歌も中々ね! さすが誠司が見込んだだけのことはあるわ! また一緒にやりましょ!』

 「え? 何? 何なの!?」



 慌てる昂汰を見て、誠司は声を上げて笑う。



 『アイリーン、どうやらコウのこと気に入ったようだな。だけどその辺にしとけ、うちの女神様が許さないぜ!』



 奏はアイリーンに抱き付かれる昂汰を見て気が気ではない様子だ。昂汰が真っ赤な顔でふと奏を見ると、「フンッ」と顔を背けられる。

 シモンは少し呆れた様子ながらも、微笑んで誠司に最後の挨拶を交わす。



 『誠司、今日は楽しかったぜ! いいバンドを組んだな。もう時間だ。勝手にこんな所に来たから、マネージャーにどやされちまうな。アイリーン行くぞ!』

 『ええー!? まだ誠司と話足りないわよ!』

 『ははは・・・また今度な!』



 ギターをケースにしまうと、シモンは駄々をこねるアイリーンの手を掴み、ステージの袖へと消えて行く。

 今だ熱気溢れるステージ、鳴り止まぬ歓声。翔子は安らかな顔で昂汰たちをを見つめていた。



 「あなたたちは私にとって・・・、誰にも負けない最高のロックスターよ・・・。」



 ――それは誰も知らないおもちゃの兵隊とロックという魔法に導かれた少年の物語。

 一人ぼっちであった少年は様々な人々と巡り会い、そして掛替えのない仲間を手に入れる。

 少年と仲間たちの絆は奇跡を呼び、轟音が鳴り響くステージの上からは熱くて眩い、見たこともない景色が広がっていた。

ここまで読んでくれた皆様、どうもありがとうございました。

次の会で最終回となります。

どうか最後まで宜しくお願い致します。

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