Move On Up
――遠い異国の地で、おもちゃの兵隊は懐かしき祖国の空を思い浮かべた。
いつ果てるとも知らぬ旅路の中、彼は祖国への帰還を夢見る。
佐伯 誠司は7歳の時に父の仕事の都合でイギリスへと渡る。
当時一緒に遊んでいた友達は別れを惜しみ、誠司も彼らとの別れを悲しんだが、それが誰だったのかは今は覚えていない。
誠司が移り住んだのは、ブライトンというイングランド南東部に位置する海辺のリゾート地であった。モッズの聖地としても知られており、かつてモッズとロッカーズという2大カルチャーの抗争があったことでも有名である。
引っ越してきた当初、友達もいない、言葉も文化も違う異国の地で、誠司は毎日一人海岸線を眺めていた。
地球の裏側の、自分がかつて暮らしていた家、仲良く遊んでいた友達、愛する祖父母達のことをずっと思い浮かべていたのだ。
誠司が変わるきっかけとなったのは、自分と同じく外国から移り住んできた少年少女達との出会いであった。彼らは言葉こそ通じなかったが、同じ境遇である誠司のことを温かく自分達輪の中に迎えてくれたのだ。
彼らの影響を受け、誠司は音楽を始める。どこからか拾ってきたギターやベースを持ちより、皆が夢中になって演奏した。
やがて誠司の才能が頭角を現し、皆も彼の才能を認めて一緒にバンドを組むことになる。いつしかただの外国人であった彼らは、誠司のかけがえのない仲間となっていた。
後ろ向きであった誠司の性格も、祖国を離れ強く生きる彼らとの触れ合いの中で、明るく前向きなものへと変わっていった。
それから数年が経ち、誠司は父の仕事の都合で再び日本に帰国することとなる。
仲間達は何とかイギリスに残れないか誠司に説得を試みる。別れを悲しみ泣き出す少女もいた。しかしまだ子供の誠司にはどうにもできなかった。
誠司は仲間たちに再会と再びのセッションを約束し、住み慣れたイギリスの地を後にした。
★
某県某市、県立東成高等学校。昂汰と誠司が通うごく普通の高校である。
町中から少し離れた丘の上、急な坂を登った先に学校はあり、そこからは遥か先の水平線を見渡すことができた。
多くの自然に囲まれ、広い敷地を活かして運動系の部活動も盛んである。
また、吹奏楽部・軽音部などの文化系の部活動も多く、その実力も県下では有名であった。
転入から数週間が経ち、誠司は今のクラスにも大夫慣れてきていた。クラスメイトとも気さくに話す誠司の姿を、昂汰は微笑ましくも羨ましく感じていた。
そんな誠司にはある悩みがあった。彼にしてみれば、当然と言えば当然の悩みだったのだが。
「ファーック! 全然セッションができねー!」
その日の昼休み、二人はいつものように机を並べて昼食をとっていた。誠司は欲求不満を昂汰にぶちまけた。
練習用のスタジオを借りるのには当然金がかかる。そこまで高い金額ではなかったが、アルバイトもしてない高校生には限界があった。とても毎日弾きに行けるようなものではない。
文句を言う誠司を昂汰が宥める。
「仕方ないよ。二人でバイトして、少しでも多くスタジオを借りられるようにすればいいじゃないか。」
昂汰は淡白な反応を返すが、筋金入りのロック馬鹿の誠司は納得できない。
二人が不毛なやり取りを続けていた時、昼休み中の教室の中に、別のクラスの女子生徒がよそよそしい様子で入ってくる。
その女子生徒はきょろきょろとクラス内を見渡し、その後近くにいた別の女子生徒に何か尋ねている様子であった。
話かけられた女子生徒は誠司を指差し、別のクラスから来た女子生徒も誠司の方を見た。その女子生徒は小走りで誠司の元に駆け寄る。
背丈は150センチ前後、髪型はガーリーなマッシュで、クリクリとした目が印象的な、小動物のように愛くるしい少女であった。
「は、初めまして! 私、羽田野 奏といいます。帰国子女の佐伯君ですよね? お願いです。英語部に入って下さい!」
「えっ英語部!?」
その羽田野 奏と名乗る少女は必死な様子で誠司に言い寄る。突然のことに昂汰と誠司は互いの顔を見合わした。キョトンとする二人に更に奏は話を続ける。
「私、一年生なんですけど、この秋で三年の先輩が引退して、部員が私一人だけなんです! このままだと伝統ある英語部が廃部になってしまいます!」
奏の勢いにさすがの誠司も苦笑いを浮かべ、話の内容を確認する。
「あー、分かった。英語部ってのがあるんだな。で、英語部って何をやってんだ?」
「はい、英語部は英語を覚えることによって、英語圏の国の文化を深く理解し、自らそれに触れることを指針としています。活動内容は、近所の小学校を訪問して、小学生の英語教育を手伝ったり、ハロウィンやクリスマスにパーティーをしたりします。英検やトエック、英語のスピーチコンテストにも挑戦します。英語部の先輩達は、過去に色々なスピーチコンテストで何度も入賞しています。一年を通して沢山のイベントがあって、凄く楽しいですよ! 帰国子女の佐伯君なら大活躍間違いなしです! それから・・・。」
英語部のことを永遠と話し続ける奏に昂汰と誠司は呆然とする。溜まらず誠司が奏の話を止めに入った。
「ストップ! 残念だけど今更しゃべれるのに英語なんか学ぶ気もないし、イギリスに住んでたんだから、英語圏の国のことは理解してるつもりだぜ。大体スピーチコンテストなんかバイリンガルの俺が出られるわけないだろ?」
「うっ・・・。で、でも、小学校に行って子供達に英語を話すことの楽しさとか素晴らしさとかを伝えるには、実際ネイティヴで話せる人の方がいいと思います! 子供達と触れ合ったり、クリスマスとかハロウィンのイベントもやりますので、きっと楽しいですよ!」
誠司のご最もな反応に一瞬怯んだ奏であったが、話を更に被せる。誠司も中々帰らない奏に苛立ちを見せる。
「悪いけど俺らはロックがやりたいんだ。そんなにガキと仲良くままごとがしたいんだったら、他をあたってくれ。それとも入ってやったら、あんたが俺の彼女にでもなってくれるのかい? それなら少し考えてやってもいいぜ。」
(誠司君、それは完全に悪役のセリフだよ・・・。)
誠司は鬱陶しさのあまり、あえて少し強い口調の後、ふざけた態度で奏を怒らせようとした。昂汰は徐々に気まずくなっていく雰囲気に戸惑う。
奏は不満を感じる。彼女としては必死で英語部の魅力を伝えたかっただけなのだが、誠司のふざけた態度に憤りを隠せなかった。
「なっ何ですか! ロックなんてガチャガチャ騒がしくて、ダサくて野蛮な、不良がやる音楽じゃないですか! 何が楽しいのかわかりません!」
誠司の言い方も良くなかったが、奏は一番言ってはいけない反論をしてしまった。
(あ~あ、言っちゃった・・・。)
昂汰は奏の発言に冷や汗をかき、ゆっくり誠司の方を向いた。
誠司は涼しい表情で微笑んでいるように見えたが、次の瞬間、誠司の罵声がクラス中に響く。
「ファック・オフッ!! ダム・ビッチ!!」
楽しい昼休みの教室は一転、ただ事ではない誠司の大声に静まり返ってしまう。
日本語に訳せば、「消え失せろ!! このクソ女!!」ってなところであろう。奏は図らずも、本場の英語で罵声を浴びるという貴重な体験をしてしまったのだ。
誠司の強烈な罵声にさすがの奏も何も返せず、目に涙を浮かべて廊下の方に走って行く。教室を出たところで一瞬立ち止まった奏は、誠司の方を振り返り、歯を見せて叫んだ。
「いぃぃーだっ!! バーカ!」
そう言って泣きながら廊下を走り去る奏を見ながら、昂汰と誠司は唖然とし、またしても顔を見合わせる。ただ事ではない状況のはずなのだが、子供のような奏の行動は、コミカルに見えてしまっていた。
「誠司君、言い過ぎだよ。」
「何だかパンクな女だったな。」
静まり返るクラスメイト達を尻目に、二人はクスッと笑って食事を再開する。何だか周りの女子生徒の視線がやたら冷たく感じたが、昂汰は気にしないようにした。
しばらくして、誠司はあることを思いつく。
「そうか、部活か! 部活に入れば学校でもセッションできるんだよな!?」
誠司の思いつきに昂汰は嫌な予感を感じた。学校で堂々とロックなどやらせてくれる部活など一つしかないに決まっている。そしてこの後、誠司が何を言うかは分かっていた。
「なあ、コウ! 二人で軽音部入ろうぜ!」
「嫌だよ! 軽音部って恐い先輩ばっかいて近づきたくないんだ。」
またしても昂汰の最も恐れていた事態となってしまう。昂汰としては何としても阻止したいことであったが、こうなってしまった誠司を止めることができないのも既に理解していた。
「頼むよコウ! 見学だけでもいいからさ。なっ!」
「・・・分かったよ。だけど行くだけだからね!」
無邪気に振舞う誠司を、この時ばかりは昂汰も疎ましく思った。良いことも悪いことも誠司の一言から始まる。しかし軽音部に対しては、この時昂汰は全く良い予感を感じることはできなかった。
「サンキュー! じゃあ、早速今日の放課後見学に行ってみようぜ!」
「・・・。」
思い立ったら吉日の男である。二人はその日の放課後、軽音部の部室である第二音楽室に行くこととなった。
★
第一校舎三階の奥、軽音部用の部室である第二音楽室はそこにある。現在男女二十人程の部員が在籍しており、いくつかのバンドに分かれて活動している。ここからプロのミュージシャンになった卒業生もおり、実力、知名度ともに近隣の高校の間では有名であった。
授業が終わり、昂汰と誠司は第二音楽室へと向かった。誠司はいつも通りご機嫌な様子であったが、昂汰の足取りは重い。
第二音楽室へ近づくにつれ、ギターやドラムなどの音が聴こえてくる。入り口の扉は若干開いており、何人かの女子生徒が中を覗いているようであった。
「ねーねー、川村先輩どこ?」
「あそこあそこ! ギター持ってるでしょ!」
「やっぱり超イケメンだね!」
昂汰と誠司は楽器の音よりも、女子の黄色い話し声に耳が行ってしまう。どうやら部員の誰かのおっかけのようだ。誠司はその集団に話しかける。
「あの、どいて貰っていいかな? 入れないんだけど。」
女子生徒の集団は一瞬誠司に目をやり、少し道を開ける。二人が入っていくと再び黄色い声が後ろから聴こえてくる。
二人が第二音楽室の中に入っていくと、一つのバンドがセッションしている様子であった。
防音処理のされた白い壁、少し広めなスタジオくらいの空間に何人かの部員が床に座って、演奏しているバンドを見ていた。真中にはギターを弾きながら歌を歌う長身の男子生徒がおり、外の騒がしい女子生徒はその男子生徒を見ながらキャーキャー言っているようだ。
「ふ~ん。まあまあだね。」
誠司は演奏するバンドを眺めて小声で呟いた。
昂汰と誠司が入ってきたことで、セッションしていたバンドは演奏を止め、二人の方を見る。ベースを弾いていた筋肉質でボーズ頭の柄の悪い男が二人に問いかけた。
「何だ? お前ら見学か? 邪魔だから外で見てな。」
「見学じゃないですよ。俺ら軽音部に入りたいんです。」
「・・・えっ!?」
昂汰は耳を疑った。間違いなく誠司の入部したいには自分も混ぜられている。昂汰は頭を抱えるが、誠司はお構いなしに話を進める。
「ここに入れば、学校でバンドができるんでしょ? 佐伯 誠司です。俺らバンド組むんです。」
誠司がそう言った瞬間、部屋中からせせら笑いが聴こえてきた。先程のベースの男子部員が誠司に説明する。
「あのな、ここの軽音部は4月に入部テストをやって、それに合格しないと入れないんだよ。下手な奴や素人はお断りってことだ。」
その男子部員の説明に誠司はニヤッとして言い返す。
「だったら俺は下手糞でも素人でもない。転入生なんだから、そのテストってやつをやって貰えませんかね?」
誠司の発言に部員達がざわつき始める。
「こいつ、こないだ転入してきたC組の帰国子女です。外国でバンドをやっていたらしいです。」
座っていた一年生らしき男子部員が先程のベースの男子部員に報告する。それを聞いて、柄の悪いベースの男子部員も若干態度を変える。
「そうか、悪いな。俺は2年で部長の児島だ。そういうことなら、テストのことも考えてやらんでもない。で、隣の奴は一体何なんだ?」
「こいつは結城 昂汰。俺のバンドのギタリストです。」
部長の児島が昂汰の方を見る。昂汰は小さく会釈するが、何もしゃべれない。蛇に睨まれた蛙状態だ。
児島は笑いながら誠司に言う。
「こりゃまた、ずいぶんと頼りないギタリスト君だな!」
児島が昂汰をからかうと、部屋中からドッと笑い声が聴こえてくる。
昂汰は恥ずかしくなり、下を向いて赤面してしまう。しかし昂汰は自分のことよりも誠司のことを心配した。先日のライブの時のように、友達を侮辱された誠司が逆上してしまうのを恐れたのだ。
誠司の顔に目をやる昂汰であったが、その反応は意外なものであった。
「確かにこいつは根暗で友達が少なくて、なよなよしてて勉強も運動もできないどうしようもない奴だ。」
(な・・・何もそこまで言うことないじゃないか・・・。)
誠司にコテンパンな紹介をされて、昂汰の気持ちは深く沈んでしまう。だが次の瞬間それは驚きへと変わる。
「だけどこいつは、俺が今まで出会ってきた中で2番目に偉大なギタリストだ。見た目だけで判断するのは止めてもらいたいですね。」
誠司のフォローに昂汰は胸が熱くなった。1番が誰かと言うことは多少気になったが、純粋に誠司の評価を聞けたことに気持ちが一杯となる。
強気な態度で誠司が切り返すと、場の雰囲気はいよいよ気まずいものへと変わった。
そこに先程女生徒から黄色い声援を受けていた長身の男子部員が口を挿む。ギターボーカルをしていた川村という2年生だ。身長は180センチちょっとといったところである。センター分けのさらさらロングヘアが印象的なイケメンだが、この男も柄が悪い。
「おい児島、そんな一年の相手はいいから、練習再開するぞ。そんなオタクみてぇーなチビのギタリストなんかステージに出せねーよ!」
「そうだな川村。お前らギターがやりたいんなら諦めろ。ギターやってる奴は多くてな。ベースかドラムなら今度審査してやってもいいぞ。」
児島の言っていることははっきり嘘と分かった。いずれにしても、昂汰を相手にする気はないらしい。児島は後日の入部審査を匂わせ、練習へと戻ろうとする。
「いいんですか先輩? 後悔しますよ。こいつのギターの腕は本物です。恐らくここにいる誰よりも上手いですよ。・・・そう、そこのあんたよりもね。」
練習に戻ろうとする児島達に向かって誠司が声を投げかける。そして誠司の指差す方向には、長身・イケメンの川村の姿があった。
川村はニヤッとするが、何も言わない。あくまでも誠司達の相手をするつもりはないようだ。川村の代わりに児島が答えた。
「お前ら何も知らねーな。川村はレベルの高いうちの軽音の中でも一番のギタリストだ。名前は言えねーが、有名なインディーズバンドからもスカウトも受けてる。そしてこのルックスだ。お前らチビとは住む世界が違うんだよ! とにかくギターはいらん。いいから今日はさっさと帰れ。」
門前払いであったが、このまま黙っていれば、誠司だけは入部できる可能性があったのかもしれない。勿論ここまで言われて黙って帰るような誠司ではなかった。
「大人しくしてりゃあ、さっきからチビチビって、スモールフェイセスだってみんな小さかったんだぜ! 大体この程度でレベルが高い? どうやら日本のギタリストのレベルってのは相当低いみたいだな。それとも、女にキャーキャー言われてるから、浮かれて本気が出せないんですかね?」
上級生を相手に誠司は全く動じない。というか、ここまで来ると単に喧嘩を売っているだけである。昂汰の顔はどんどん青ざめる。こんなことを言ってしまったら、軽音部の上級生からの反応は決まっている。
「ああぁ! てめぇ自分が何言ってんのか分かってんのか、コラァ!?」
先程までクールに決めていた川村が、その大きな体で誠司に凄んでくる。それでも尚、誠司を見下ろす川村を睨み上げ、話を続ける。
「今度のカルチャー・フェスティバルのライブにあんたら出るんだろ? 口で言ってもわかんねー低能みたいだから、俺らの実力をそこで証明してやるよ。」
そう啖呵を切ると、誠司は両手の掌を自分の方に向け、人差し指と中指を川村に向かって突き立て、叫んだ。
「アイル・ファック・ユー・アップ!!」
このピースを逆さにしたサインは、イギリスで使われる相手を侮辱するポーズだ。アメリカで言えば、相手に向かって中指を突き立てるのと同義である。
さすがにその意味は理解できなかったが、侮辱されているのだとは分かったらしく、川村は今すぐにでも殴りかかりそうな形相を見せた。誠司と川村は睨み合う。
正に一触触発であったが、そこに見かねた児島が仲裁に入る。
「まあ止めとけ川村。流石にまた喧嘩はまずい。気にするな。どうせこいつらがいくら粋がったって、文化祭のライブには絶対出られないんだからよ。」
「ちっ・・・。」
児島に止められ、川村はギロッと誠司を睨みつけ、元の場所へと戻っていく。
いい加減この場を離れたい昂汰が、しびれを切らして誠司に話しかける。
「もう帰ろうよ。喧嘩しに来たわけじゃないだろ?」
「まーな、言うこと言ってすっきりしたからもういいや。」
誠司もやっと落ち着き、軽音部員達の刺さるような視線を背に、二人は部室を出ていく。入り口にいた女生徒達も、中での誠司と川村のやり取りを見て固まってしまっている。
部室を出ていった昂汰と誠司に対して、嘲笑うような川村の声が後ろから聴こえて来た。
「お前ら、精々文化祭のライブに出られるといいな!」
川村の言葉に、部室の中から軽音部員達の高笑いが響いてきた。しばらく後になって、昂汰と誠司はこの時の川村の言ったことの意味を知ることとなる。
昂汰と誠司は重苦しい雰囲気の中、昇降口まで辿り着く。夕日色に染まる下駄箱から、靴を取り出そうとする誠司に昂汰が問いかける。
「いいのかい? 誠司君は軽音部に入れてたかもしれないのに?」
この言葉には確認の意味もあったのかもしれない。誠司は微笑み、当然のように答える。
「何言ってんだ。もう分かってんだろ? 俺はお前とロックがやりたいんだ。あいつら見返してやろうぜ!」
昂汰の胸に再び熱いものが込み上げてくる。自分の好きなことで人に必要とされることが、ここまで嬉しいこととは昂汰は知らなかった。「世界が変わる」、「何かが起こる」。そんな予感をこの時感じていたのかもしれない。
「のんびりしてらんないぜ。バンドたってまだ二人しかいないんだからな! まずはメンバー探しだ。忙しくなるぜ!」
「ああ、・・・そうだね。」
――魔法使いの仕業か運命の悪戯か、二人のおもちゃの兵隊は巡り会った。
異なる旅路を歩んできた二人は、やがて同じ戦場へと誘われる。