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大当たり!!

【お土産】


 午後八時、怪我をして入院した義父のために実家の掃除をしてきた妻の二実子を出迎えた。

「ただいま、やっぱり、明雄さんの方が早かったね」

「たいへんだったろ、ごくろうさま」

「ううん、お姉ちゃんも達ちゃんもいたから。はい、お土産」

彼女は、そう言うとスーパーの袋からマルチパックのチョコミントアイスを取り出した。

「どういう風の吹き回しだい? チョコミントだなんて」

チョコミントアイスは私の大好物だが、二実子はいつも『歯磨き粉食べてるみたいで』と言って、私が一緒に出かけてスーパーの買い物カゴに入れない限り、彼女が自主的に買ってきてくれたことなんてなかった代物だ。

「うん? ちょっとね。たまには旦那様孝行しても罰は当たらないかなと思って。でね、私のはこっち」

二実子はそう言うともう一箱取り出した。

「ああ、それ懐かしいな。それを見ると俊樹を思い出すよ」

「俊樹って堀木さん?」

私は二実子の言葉に頷いた。





【“アタリ”で大当たり】


 堀木俊樹。中学・高校を共に過ごしたその男は、陽気で人が良くて、一緒にバカをやると必ず一人だけ捕まるという、ちょっと要領の悪い奴だった。


 夏休みになったばかりのある日のことだった。私たちは野郎ばかりでプールに出かけての帰り、くじ付きのアイスを買って食べながら歩いていた。

「やっぱはずれか……」

「そうそう当たりっこないって」

次々とはずれと書かれた棒が現れる中、最後まで食べていた俊樹がいきなり素っ頓狂な声を上げた。

「当たった!」

その声にみんなが一斉に俊樹の手元を見る。

「どれ、おっ、マジかよぉ。いいなぁ俊樹」

「俺も、もう一本食いてぇなぁ」

「ダメだ、やんねぇぞ!」

慌てて俊樹は手を引っ込めて、

「これは明日食うんだよっ」

と、ご丁寧にアイスを包んでいた紙に棒を包み直して鞄に放り込むと、

「当たった当たった~」

と小躍りして、歩道と車道の境目にある低い縁石に上り、そこを平均台のようにして歩いていった。

 

 たった一本のアイスで……いつもより浮かれていたのかも知れない。たたたっ、と十数歩歩いた後、俊樹はバランスを崩して車道側に倒れた。しかも、そこに運悪くトラックが通りかかり、俊樹はそのままそのトラックに轢かれた。


 一本のアイスの小さな幸せが一瞬にして悲劇に変わった瞬間だった。





【幸せの味】


 私たちは大騒ぎで救急車の手配をし、俊樹を病院に運んだ。


 事故は縁石でバランスを崩して転倒した後だったので、大部分は車体の下の隙間に潜り込んだ格好になり、俊樹は奇跡的にタイヤで轢かれた両足の骨折だけで済んだ。


 それでも全治2ヶ月。俊樹はまだ始まったばかりの夏休みをまるまる棒に振ることになってしまった。


 さぞかし退屈な思いをしているだろうと見舞いに行った私は、病室に入ろうとしたとき、女の子の笑い声を聞いた。そっと覗くと、それは中学3年の時の同級生櫻井智佳子だった。私はその日、病室には入らずそのまま帰った。


 やがて、俊樹は高校卒業後、大学には行かずに就職し、二年後二十歳で智佳子と結婚することになって、私はあのときの野郎たちと共に披露宴に招待された。

 そして、披露宴もたけなわの頃、デザートとして出されたアイスはあの当たりくじ付きのアイスだったのだ。 他の招待客が首をかしげる中、私たちその場にいたメンバーは笑いをこらえるのに必死だった。

 きれいな皿に乗せられたアイスを取り、銀紙をめくって口に放り込む。甘ったるさが口の中に広がる。二人の幸せの味だと思った。


 あのとき俊樹が引いた当たりくじは、アイスだけではなかった。

そう言えば、あの棒には「大当たり!!」と書かれていた様な気がした。



                       -END-


 




「溶けちゃった……」同様、某所の「夏休みの宿題」として書かれたモノです。


ただ、この物語にはモデルがいます。しかし、どちらも私の夫ではなく、オタ友なのですが。


ある日、オタな集まりに俊樹が来ないので聞いたら、明雄が笑いながら、

「あいつな、アイスに当たって、車にも当たりよってんわ。せやからしばらく、ここには来られへん」

と言ったのを元に書きました。

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