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日蝕

蒲公英様主催かたつむり企画参加作品です。


※雨に濡れながら歩くというシーンを織り込んでの短編

 帰ってきたとき、娘の理奈はずぶぬれだった。

「傘はどうしたの?」

と聞くと、

「うん……ある」

と傘を私の前につきだす。

「だって、いきなりでかなり濡れちゃったんだもん」

そして、持っているなら何で差さないのと私が言う前に、理奈は唇をつきだしてそう言った。それでも、

「差したらここまで濡れないでしょ」

と叱った私に、

「天然のシャワーが気持ちよかったんだもん」

続けて理奈はそう言ったが、その目は心底急に降ってきた雨を楽しんでいるものではなかった。第一、高校生がホントにそうじゃ困る。今日一緒にいたミーコちゃんと何かあったのかも知れない。後で聞いてみなくてはと思う。

「とにかく、すぐにお風呂に入りなさい」

そう言った私に、理奈は、

「うん……」

と素直に頷いた後、

「今日のおかずは何?」

ときいたので、

「鶏の竜田揚げと、オクラのお浸しよ」

と答える。すると理奈は、

「ホント、パパの好きなものばっかだね」

と言って、唇を歪めた。

 ああ、そう言えばミーコちゃん家って、「あの人」がいる近くだった。もしかしたら見てしまったのかも知れない。


 しかし、理奈は「あの人」のことについて何も言わなかった。ただ、この日から夫に対しての嫌悪感がさらに露わになったから、間違いなくあの子は見たのだと思う。

-夫と彼のかつての恋人との逢瀬を-


 それは浮気と言えるのか言えないのか。とにかく、夫拓海は断じて浮気ではないと言い切る。ただの見舞いだと言い、堂々とかつての恋人に会いに行くのだ。

 私もそれを罵ったりしない。決して容認している訳ではないが、言ったところで拓海の機嫌が悪くなるだけだから。

 それに、それは期限付きだからというのもあるだろうか。「あの人」の余命は後少しだという。一時的にはすっぽりと覆い隠したとしても、まるで蝕のように時が経てば何事もなかったように元に戻る。「勝者の論理」でいるからこそ、私は冷静でいられるのだ。


 ……って、私はホントにそう思っている? 実はそう思わないといられないだけじゃないだろうか……


 何度も反芻した疑問に答えの出ぬまま、実際、それから三ヶ月も立たぬうちに拓海は夜中に

「危篤だ」

と呼び出され、飛んでいったが、通夜に葬式にと奔走した後、ちゃんと戻ってきた。

 

 我が家の蝕は終わった。


 ただ、私の心に一点の曇りを残して。

この作品は拙作「新月」の相手役拓海の妻からの視点バージョンになります。


本来なら拓海からの視点も書くべきなのでしょうが、女の私はどうしてもこのある意味のんきな男の視点に立つことができないままでいます。

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