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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第五話*観測者とハカイシャ
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[16] 唯異音

 兄が、まぶしかった。


 生まれおちた瞬間から、孤独で孤独でたまらなくて。孤独という言葉もしらないまま、孤独という冷たさを噛みしめた。


 父も母もいない。いたのに、いない。

 父も母もしらない。だって、おれが生まれたときには。


 ――もう、彼らは、消えていた(・・・・・)



「どうして……こうなったんだろうね」



 兄は、ときたま、とても暗い瞳をする。



「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……唯異音ユイヲン



 慈しむように撫でながら、憎むような瞳で、おれを見る。


 兄の美しい白眼が、暗い闇に染まる瞬間が、大嫌いで。兄の美しい金髪とは、似ても似つかない黒髪が、大嫌いで。


 けれど、兄が、会ったこともない母に似た、おれの顔が嫌いだと知ってからは、大嫌いな髪を長くのばして、もっと大嫌いになった顔を、その奥に隠した。


 そしたら、フェンは、笑ってくれるから。


 フェンが笑えば、おれもうれしい。からっぽなおれの望みは、ぜんぶフェンの望みでうまった。



「お前はね、例外だよ。かわいそうに。だれにも、セカイにすらも望まれずに生まれた、いびつな人工生命(Alife)。僕の誤算……[調停者](リ=ヴェーダ)の誤算……いいや、彼ならば、ここまで計算していたのかもしれない……なんて憎い人だろう……」



 フェンが笑えばうれしい。フェン泣けばかなしい。フェンの涙は見たことがなかったけれど、フェンは、いつも泣いていた。声もなく涙もなく、その瞳だけで、泣いていた。


 おれがいるよ。

 おれがいるから。


 だから、泣かないで。

 だから、おれを見て。


 知りもしない両親になんて、興味もない。絶望的な孤独だけをもって生まれおちた、おれに、ただひとり手をさしのべてくれた兄。



「ユイ……僕のかわいいユイ……僕のオネガイを聞いてくれる? なにがあっても、なにをさしおいても、僕のコエを聞いてくれる? 僕のノゾミを、かなえてくれる――?」



 あなたにだけ、すべてを託す。

 たとえ、あなたが、おれを憎んでも。



「フェンが、のぞむなら」



 幼い少女は、少女の殻を破りすてて、ただひとりの兄に、すべてを捧げると誓った。


 終わりそこねた物語の、ゆがんだ蛇足を背負った少女アリスは、やがて少女アリスであることさえも否定して、きしむ日常へと身を投げる。


 すべては、ただひとりのために。

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