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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第五話*観測者とハカイシャ
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[6] やがて芽吹く落とし胤は

 その子供が現れたのは、のちに聖魔戦争と名づけられた壮大な遊戯が終結してから、20年ほどが経ったころであった。


 見なれぬ異国風の服装に、フワフワとした猫ッ毛。薔薇色に染まる頬は美しく、長いまつげに縁取られた黒い瞳は聡明さを映した。



「お初にお目にかかります、[叡魔]」



 子供といえども、十分に成熟した精神をもった『来訪者』は、三年前にはすでに、この学都に迷いこんでいたのだという。



「おそらく、お会いすることは、これが最後になりましょう。彼女・・が讃える、美しく聡明な女王に拝謁できたこと、光栄に存じます」



 いつ消えるともしれない不安定な身で、少年は笑っていた。


 定着度、という指針がある。どのような隙間をぬってか、あるいは壁をぬけてか。具体的なルーツはしれぬものの、『外』から迷いこんでくる異物は、一定数存在する。


 けれど、異物は異物にすぎず、この箱庭での役割をもたぬ『来訪者』は、セカイとの結びつきが非常に希薄だ。


 定着度の低い彼らは、カタチを得るまで、存在を安定させるまで、長い時間をかける。あるいは、それを待たずして消滅してしまう。


 自我を保ったまま、つかの間であれど、姿形を手にした少年は、よほどの運に恵まれたのか。あるいは、なにか他の要因――たとえば[寒月]に見染められ、情を交わしたことに、救われたのか。



「そなた、ミヅキに会うたそうじゃの」



 少年の眼が、わずかに細まる。



「あれも、哀れなモノじゃ。満たされることも、理解されることもない。情も欲も、妾には備わらぬ。せめてもうひとり、[寒月]がいたのなら、ああも報われぬ生にはならずに済んだろうに」

「……ええ」

「わかっておろうな。ミヅキにとって、そなたは正しく唯一であろうが、それはそなたの望む唯一のカタチではあるまい」

「それでも、私は。限られた短い時に、彼女とめぐり逢えた――その事実を、素直に感謝したいのです」



 少年らしからぬ口ぶりで語っていた来訪者は、そのとき、はじめて見目相応の幼い笑みを咲かせた。



「なにも遺せず散りゆくのは、いささか寂しいでしょう?」



 エマが、かの来訪者と言葉を交わしたのは、言葉どおり、その一度きりとなった。


 寂しがり屋の少年が遺した種が芽吹くのは、それから遠くない未来のこと。

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