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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第四話*観測者と『例外』
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[28] 狂い月の子兎(2)

 むだだろうと思いながらも、フヒトは、いまいちどメイにたずねた。



「地雷だってわかっていたなら、どうしてきみはそんなことを――」

「エマさま、が」



 はじめて得られた応答に、フヒトは、おどろいて言葉を止めた。その途端に、メイが立ちどまる。


 ぐっ、となにかを堪えるようなそぶりをして、メイは、ゆっくりと語った。



「ワタシにとっての王は、[叡魔]、ただひとり。ゆるせなかったのだよ。……どうしても」

「え……?」



 振りむいた亜麻色の瞳に、影が落ちる。


 どこからともなく闇色の霧がわいて、すぐに、頭上から降りそそぐ木漏れ日に打ち消されていく。



「畏れ多くも、あの方を支配せんとしたモノが、いた。それが、どうしても、ゆるせなかったのだよ」



 ほとんど消え入るような声で、メイはつぶやいた。



「それ、って……」



 [叡魔]を、支配しようとしたモノがいた? だれに、そんなことが可能だというのか。……まさか。



「ワタシに語れることは、なにもない。[叡魔]は、それを、望まない。だから」

「あーもう、まどろっこしいなあ! 直接聞けばいいんだろ? ……怖ぇけど」



 割りこんだアリスが、右手の人指し指をのばして、道の先をしめす。



「あそこで」



 いつのまにか、目的地は、目前にせまっていた。見覚えのある玄関口が、そこにある。


 こくり、とうなずいたメイが、無言で道の横によける。



「メイ。きみは、こないの?」



 フヒトの問いに、こんどは、首を横にふって、メイは、さらに一歩下がる。



「……そう」



 [叡魔]の望みに、[長庚]は、どこまでも忠実に従う。たとえ狂気の沙汰であったとしても、自らをかえりみることもなく。


 絶対的に、[叡魔]の利だけを、優先する。 狂信的な崇拝とは、すこしちがう。言うなれば、盲目的な献身。


 ――それが、闇の眷属が捧げる忠誠のカタチだ。


 苦笑したフヒトは、すぐに気持ちをきりかえて、アリスへと目配せする。ぱちり、と目をまたたかせてから、アリスは、ニッと笑った。



「いくしかない、ってか?」

「そういうことだね」



 そうして、フヒトは、ふたたび三位の館の扉を叩いた。


 ――その先に、求める答えがあると、信じて。

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