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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第四話*観測者と『例外』
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[27] 狂い月の子兎(1)

 メイは、それきりなにも言わずに、黙々とふたりを案内した。森を抜け、向かう先は、以前とおなじ三位の館。



「ねぇ、メイ」



 問いかけても、返答がないことは、すでにわかっている。


 [叡魔]に任じられた使い、という絶対的にゆらぐことのない優先事項があるからこそ、[長庚]は、黙々とそれを実行しているにすぎない。


 静けさを重んじる、闇の眷属らしい行動だ。


 それを、よくしっているフヒトは、かまうことなく言葉を重ねた。



「思いだしたの? きみが【破戒】(コワ)された理由を」



 メイは、やはり、答えない。

 それでも、足は止めないまま、首から上を振りむかせて、フヒトをうかがった。



「ユ=イヲンが[長庚]を敵視したのは、[調停者]を害したからなの? きみが暴こうとした、リヴさまの過去って、いったいなに?」



 矢継ぎ早に詰問しても、メイは、だんまりを続ける。


 あきらめて、フヒトは、森を抜けることに集中した。おもわずこぼれ落ちた、ため息の音が、静寂のなかに目だって響く。


 となりを歩むアリスが、フヒトのそでを、ちょいちょいと引っぱった。



「なあ……エマが、俺に用があるって、想像つかないんだけど」

「僕だって、おなじだよ」



 めずらしく不安げなアリスの声に、フヒトも、ひそやかに応じた。


 フヒトとて、どんな話をされるものかと、内心、冷や汗ものでいる。[叡魔]の考えは、[勇聖]以上にわからない。


 正反対のようで、似たモノ同士の学都の王たち。備えたものが同質であるならば、永い時を生きてきただけ、赤の女王が一枚上手となることは当然の帰結だ。


 そもそも、三位でもっとも年若いのは、ヒジリである。[勇聖]の代替わりは、[調停者]のそれより遅かったらしい。


 そのあたりの『記録』が、どこまで正確かはわからないものの、さすがに誕生順からあやまっているということはないだろう。


 逆に考えれば、経験の差をものともせずに並びたつヒジリのカリスマ性には、末恐ろしいものがある。



(でも、それは、あたりまえのことだ)



 特別なことでは、ない。フヒトの知識は告げる。[勇聖]とは、そういうものだ、と。


 あれは、生まれながらの『王』である。誕生したその瞬間から、つねに、王でありつづけるモノである。


 ――ことわりによって定められた『言名』の重みを、実感する。


 そして、それをあつかったという異端児、イフェン。いっそ、うすら寒くも思えてくる。



(だって、それは……[調停者]だけに、許された【権限】なのに)



 ぎり、と歯を食いしばるフヒトは、メイの言葉が、ヒジリの話が、どうしても忘れられない。


 リ=ヴェーダが、背負う罪。空白の過去。ユ=イヲンとの関係。


 手がかりになる情報は、どんなものでも、欲しかった。

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