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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第四話*観測者と『例外』
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[26] ティー・パーティーへの招待

 この階に、人影はない。らせん状の石段を駆け下りる。反響する足音は、ふたり分。


 アリスは、まだ、棟内にいる。


 特異棟につくまえにみた、濃色のすそ。――あれが、メイのものであればいい。叶いそうもない希望的観測を、くりかえし掲げる。


 いまのアリスとイカれ猫(ユ=イヲン)を、接触させてはいけないような気がしていた。



「――フヒト!」



 一階まで駆けおりたところで、アリスに追いついた。その場所で、待っていたのだろう。


 いつものように飛びついてくる金色の毛玉を、フヒトは、とっさに避けてしまった。アリスの表情が、一瞬、こわばる。



(あ……)



 しまった。あわてて、フヒトは、少年のひたいを指で弾いた。



「いった!」

「いきなり飛びついてこないで、って言ってるよね」



 ごまかすように早口で告げて、フヒトは、アリスのとなりをすり抜けた。後ろから聞こえてくる反論を黙殺して、正面口の扉に手をかける。


 いちど、浅く息をはいて、すう。……大丈夫。まだ、きっと。


 そうして、フヒトは、特異棟の戸を引いた。ギィ、と重苦しい音がなって、外から明かりが差しこんでくる。


 空の覇権は、[焔灯]のもの――。


 外の空気を肺いっぱいにとりこんで、フヒトは、閉鎖的な石棟をでた。



「あ、待てよ、フヒト!」



 駆けだしてきたアリスの後ろで、荘厳な檻は、またその口を閉ざす。隔離棟。このなかのどこかに、アカリはいるのだろうか。


 ――立ち去らなければならない。一刻も早く、アリスを連れて。


 【命令】は、フヒトのなかに深く根づいて、その行動を限定する。ヒジリに縛られた自分を感じながら、フヒトは、真の主のもとへ帰るべく、足を踏みだした。



(リヴさまの……罪……)



 変質した水。沈みこんだ石。


 彼は、どんな表情で語ったのだろう。フヒトのしらない、記録上に残らなかった『うしなわれた過去』に、なにがあったのか。


 そこに、きっと、すべての答えがある。


 決意もあらたに特異棟を離れたフヒトは、ソウと別れた森の入り口に、予想とちがう影をみつけた。


 思わず立ちどまると、後続のアリスが、背中にぶつかってきた。



「メイ……?」



 亜麻色の髪を下ろした少女。小柄な[長庚]は、濃紫の衣のすそを引きずって、近づいてくる。



「きみ、だったのか」

「フヒト」



 ホッと息をついたフヒトを、メイは、静かに見返す。



「[叡魔]が、お呼び。……きて」

「[叡魔]が?」



 [勇聖]につづいて、[叡魔]までも? フヒトは、首をひねった。直接的に民と関わることのすくない『王』から、たてつづけに接触があるとは。



「時の管理者。使者は墜ちた。めぐるとき。めぐるさだめ。みだれた箱庭。終わりの始まり」



 謎めいた言葉を連ねたメイに、フヒトは、目を丸くする。



「え?」

「……エマさまが、言ったのだよ」



 ぱちり、と目をまたたかせて、メイは、後ろに視線を投げた。その先で、鼻をおさえたアリスが、首をかしげる。



「なんだ?」

「アリス。きみも」

「俺? そりゃ、フヒトが行くなら、行くんじゃねーの」

「ちがう。きみも、呼ばれている」



 メイは、ちらりと周りをうかがって、声をひそめる。



「あれに、みつかる前に。早く」

「あれ、って……」

「ユ=イヲン。理を外れた、異端なるモノ」



 亜麻色のまなざしが、ほんの一瞬、中空をただよった。遠い過去を、思い描くかのように。



「リ=ヴェーダの過去をあばくモノは、ユ=イヲンに、コワされる――」

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