[24] 王の命令
「では、アカリは――」
勢いこんで尋ねたフヒトに、ヒジリは、いよいよ眉間にシワをよせて、いう。
「らしくないにも、程があるな。……ああ、消しても奪ってもないよ。今回は」
うんざりしたような口調で告げて、ヒジリはさっさと身体を返した。そのまま立ち去ってしまいそうな背中に、あわててフヒトは頭を下げた。
気にかかることは、いくらでもある。しかし、これ以上なにを聞いたところで、ヒジリは答えてはくれないだろう。
「ありがとうござ――」
「で、アカリは、どこにいるんだ?」
殊勝に頭をさげたフヒトの陳謝を台なしにして、アリスが前に飛び出していった。
つかみそこねた手を、フヒトは、ぼうぜんと見下ろす。
「アリス! ――ヒジリさま、申しわけ」
途中で、フヒトは、言葉をのみこんだ。のどに絡まって、うまく続きがでてこない。ぱくぱく、と開け閉めする口を、アリスがきょとんとした瞳でみつめてくる。
――ヒジリは、そのアリスの頭をつかんで、ぐっと顔を寄せた。
「お前に、教えると思うのか……?」
低く響いたヒジリの声には、怒りの情がまるで透けてみえない。常の演技じみた憤りではないとわかるだけ、余分におそろしい。
フヒトには、ただ、その様子を見守ることしかできない。
「忠臣を、無為に差しだす王がいるものか」
「なに、が……」
「なんでもないさ。俺は、あれをそれなりに気に入っていて、お前は気に入らない。それだけの話だ」
ふん、と鼻を鳴らして、ヒジリは、アリスを解放した。
「アカリの居場所は教えない。フヒト。――それを決して、近づけるな」
「え、――はい」
深緋のまなざしが、フヒトを容赦なく射抜く。その迫力に、フヒトは、反射的に首肯していた。
考える暇もない。命令の形態をとっている、と認識した次の瞬間には、それを受諾する。選択肢もなにも浮かばない。
――そう、いまのは、【命令】だった。
学都の王が担う役割は、支配だ。王が、王たること。その存在を、もっとも明確なカタチでつきつけるのが、命令である。
それは、[勇聖]による【権限】の行使だった。
……どうして、そこまで。
フヒトは、がく然としていた。
自らが『光の眷属』であることを、これ以上ないほどハッキリとつきつけられたこともある。
しかし、それ以前に、『王』が【権限】を行使する様を、はじめてみた。受けた。
「ヒジリ、さま?」
たしかめるように、問うた声に答えることもなく。
おなじようにポカンと口を開けてかたまるアリスを一瞥して、ヒジリは、異端児の部屋を去った。




