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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第四話*観測者と『例外』
71/115

[24] 王の命令

「では、アカリは――」



 勢いこんで尋ねたフヒトに、ヒジリは、いよいよ眉間にシワをよせて、いう。



「らしくないにも、程があるな。……ああ、消しても奪ってもないよ。今回は」



 うんざりしたような口調で告げて、ヒジリはさっさと身体を返した。そのまま立ち去ってしまいそうな背中に、あわててフヒトは頭を下げた。


 気にかかることは、いくらでもある。しかし、これ以上なにを聞いたところで、ヒジリは答えてはくれないだろう。



「ありがとうござ――」

「で、アカリは、どこにいるんだ?」



 殊勝に頭をさげたフヒトの陳謝を台なしにして、アリスが前に飛び出していった。

 つかみそこねた手を、フヒトは、ぼうぜんと見下ろす。



「アリス! ――ヒジリさま、申しわけ」



 途中で、フヒトは、言葉をのみこんだ。のどに絡まって、うまく続きがでてこない。ぱくぱく、と開け閉めする口を、アリスがきょとんとした瞳でみつめてくる。


 ――ヒジリは、そのアリスの頭をつかんで、ぐっと顔を寄せた。



お前(・・)に、教えると思うのか……?」



 低く響いたヒジリの声には、怒りの情がまるで透けてみえない。常の演技じみた憤りではないとわかるだけ、余分におそろしい。


 フヒトには、ただ、その様子を見守ることしかできない。



「忠臣を、無為に差しだす王がいるものか」

「なに、が……」

「なんでもないさ。俺は、あれをそれなりに気に入っていて、お前は気に入らない。それだけの話だ」



 ふん、と鼻を鳴らして、ヒジリは、アリスを解放した。



「アカリの居場所は教えない。フヒト。――それを決して、近づけるな」

「え、――はい」



 深緋のまなざしが、フヒトを容赦なく射抜く。その迫力に、フヒトは、反射的に首肯していた。


 考える暇もない。命令の形態をとっている、と認識した次の瞬間には、それを受諾する。選択肢もなにも浮かばない。


 ――そう、いまのは、【命令】だった。


 学都の王が担う役割は、支配だ。王が、王たること。その存在を、もっとも明確なカタチでつきつけるのが、命令である。


 それは、[勇聖]による【権限】の行使だった。

 ……どうして、そこまで。


 フヒトは、がく然としていた。


 自らが『光の眷属』であることを、これ以上ないほどハッキリとつきつけられたこともある。


 しかし、それ以前に、『王』が【権限】を行使する様を、はじめてみた。受けた。



「ヒジリ、さま?」



 たしかめるように、問うた声に答えることもなく。


 おなじようにポカンと口を開けてかたまるアリスを一瞥して、ヒジリは、異端児イフェンの部屋を去った。

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