[22] オッドアイ
ゆるやかに色を変える、天。――ソラと定められた、学都の上端を、ヒジリはジッとみすえていた。
光球の灯りを遮っていた『影』――おなじく、理によってそうと定められた濃霧が、融けるように失せていく。
当代の『アカリ』が好んだ、力まかせに蹴散らし呑みこむような争奪ではなく。くるべきときがきた、といわんばかりに自然に、うつりかわる光と影。
その、中心にいたのは、[焔灯]でも[長庚]でもない、――『虚無』だった。
黒い長衣を、はためかせ。
長い前髪を、宙に浮かせ。
漆黒の巻き布を、ほつれたまま、首もとに絡みつかせて。
――ソレは、立っていた。
おぞましい、と思った。変化の中心で、我関せずという顔をしながら、静かにたたずむ、その影を。
ヒジリは、特異棟の窓から、ぼうぜんと見上げていた。
法則すべてを無視して、独り。[破戒者]は、空の狭間に浮かんでいた。濃霧のなか、身を隠すように。
ユ=イヲンが動くたびに、影と光の境界線は、ほどけて消えた。
そうして、ユ=イヲンが、地上に降りたったとき。学都は、[焔灯]の司る灯りに支配されていた。
アカリは、権限を行使していないにも関わらず。
剥奪する、つもりできた。
アカリの権限は、メイひとりとつりあわせるには、強すぎる。
ゆえに、彼らが落ちつくまでのあいだ、『アカリ』を別の[焔灯]に譲り渡させるつもりだった。
少年に告げれば、彼は震えながら了承の意をしめした。――しめす他ないと、しっていた。
そのさなかに、影が引きはじめたのだった。[焔灯]の表情が、驚愕に彩られるのを、ヒジリは目の前でみていた。
[焔灯]の視線をたどるように、見上げた学都の天に、ソレがいた。
ヒジリは、みつめていた。
ただ、言葉もなく、みつめていた。
ひときわ、風が躍る。
ユ=イヲンは、口の端をつりあげて――紫黒の左眼と、色の無い右眼を、まぶたの奥に封じこめた。
ヒトが宿すには、あまりに異質。あまりに異様。物資というよりは、むしろ、『壁』に近い。あってないもの。有と無の境界。
――あれは。
いつだったか。ヒジリは、[調停者]に問うた、その日のことを思いだした。




