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言葉の庭のAlife ―『生きた歴史書』と理外の少年アリス―  作者: 本宮愁
第四話*観測者と『例外』
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[22] オッドアイ

 ゆるやかに色を変える、天。――ソラと定められた、学都の上端を、ヒジリはジッとみすえていた。


 光球の灯りを遮っていた『影』――おなじく、理によってそうと定められた濃霧が、融けるように失せていく。


 当代の『アカリ』が好んだ、力まかせに蹴散らし呑みこむような争奪ではなく。くるべきときがきた、といわんばかりに自然に、うつりかわる光と影。


 その、中心にいたのは、[焔灯](ひかり)でも[長庚](かげ)でもない、――『虚無』だった。


 黒い長衣を、はためかせ。

 長い前髪を、宙に浮かせ。


 漆黒の巻き布を、ほつれたまま、首もとに絡みつかせて。



 ――ソレは、立っていた。



 おぞましい、と思った。変化の中心で、我関せずという顔をしながら、静かにたたずむ、その影を。


 ヒジリは、特異棟の窓から、ぼうぜんと見上げていた。


 法則すべてを無視して、独り。[破戒者]は、空の狭間に浮かんでいた。濃霧のなか、身を隠すように。


 ユ=イヲンが動くたびに、影と光の境界線は、ほどけて消えた。


 そうして、ユ=イヲンが、地上に降りたったとき。学都は、[焔灯]の司る灯りに支配されていた。


 アカリは、権限を行使していないにも関わらず。



 剥奪する、つもりできた。

 アカリの権限は、メイひとりとつりあわせるには、強すぎる。


 ゆえに、彼らが落ちつくまでのあいだ、『アカリ』を別の[焔灯]に譲り渡させるつもりだった。


 少年に告げれば、彼は震えながら了承の意をしめした。――しめす他ないと、しっていた。


 そのさなかに、影が引きはじめたのだった。[焔灯]の表情が、驚愕に彩られるのを、ヒジリは目の前でみていた。


 [焔灯]の視線をたどるように、見上げた学都の天に、ソレがいた。



 ヒジリは、みつめていた。

 ただ、言葉もなく、みつめていた。


 ひときわ、風が躍る。


 ユ=イヲンは、口の端をつりあげて――紫黒の左眼と、色の無い(・・・・)右眼を、まぶたの奥に封じこめた。


 ヒトが宿すには、あまりに異質。あまりに異様。物資というよりは、むしろ、『壁』に近い。あってないもの。有と無の境界。


 ――あれは。


 いつだったか。ヒジリは、[調停者]に問うた、その日のことを思いだした。

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