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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第一話*観測者と来訪者
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[5] 嗜虐者の瞳

 ありとあらゆる建造物が、好きかってな方向に立ちならぶ無秩序な空間。そのなかを、フヒトは、四苦八苦しながらぬけていく。


 進めない方向はないのだが、無数の選択肢から一方向を選びとっていくことは、どうにも難しい。



 ユ=イヲンのつかさどるセカイは、すべてのしがらみを断ちきったもの。どこまでも自由であり、それゆえに混沌としている。


 手がかりになりうる法則性が、存在しないのだ。



 先行するリヴはさすがの様子で、迷うことなく、道なき道を選定していく。


 行き先どころか、現在地もおぼつかないフヒトとは異なり、つぎに足を進めるべき場所が、彼には見えているようだった。



「ユ=イヲンの居場所がわかるのですか? リヴさま」

「あれの考えを理解することはできないがな」



 フヒトの問いに、足をとめることなくリヴが応じる。


 これ以上離されぬよう、彼のたどった道筋を、フヒトは慎重に追った。ひとたび見失えば、おそらく、もう追いつけない。



「ユイは、あいさつにいくと言った。ならば、向かう先はひとつだろう」

「あいさつ……ですか」



 釈然としないまま反復するフヒトに、リヴはきわめて冷静に言葉をかえした。



「『異分子』だ」



 ――アリス。

 『ダイス』に巻きこまれてはぐれた、『来訪者』の少年の姿が、思いうかんだ。


 フヒトの背中を、嫌な汗がつたう。


 ユ=イヲンは気まぐれで、そして怠惰だ。彼の行動理由は多くの場合明白で、単純に気にくわないか、あるいは――リ=ヴェーダに対する冒涜、か。



 [破戒者]は、お気に入りを害することをゆるさない。



 フヒト自身も、不本意ながらその対象にふくまれるが、リヴは別格だ。


 誰にも心をゆるさないユ=イヲンが、ただひとり懐いている相手。『唯一無二の例外』を御しうる存在など、他にいない。



 なぜ、あのタイミングで、[破戒者]は【権限】を発動したのか。


 あの『ダイス』は――いままでにない大規模な組みかえは、この状況を作りだすためではないのか。


 すべては、フヒトを巻きこむことなく、かつ、リヴと接触するまえに、『異分子』への『あいさつ』をすませるためだとすれば。



(アリスが、危ない?)



 無意識に【自己参照】をおこなったフヒトの脳裏に、ニィっと口の端をつりあげたユ=イヲンの姿が浮かびあがる。


 愉しげに細められた瞳は、まるで嗜虐者のものだった。



「フヒト?」



 黙りこんだフヒトを不審に思ってか、足をとめたリヴが振りかえる。あわてて【参照】を断ちきったフヒトは、不穏な残像を打ちけした。



「すみません。……急ぎましょう、リヴさま」



 彼は、[調停者]だ。たとえ権限を行使することがなくとも、ソウイウモノであることは変わらない。


 それは、己が[史記]であることとおなじ、ひとつの真理なのだから。


 悪いようにはならない。バランスキーパーにとって、なるほど『異分子』であるアリスの存在は、たやすく知覚できるものなのだろう。



(そもそも、僕があいつを案じる筋合いなんて、ない)



 なんともいえない後味の悪さをいだいたまま、フヒトは、それ以上の思考をめぐらせることを放棄した。

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