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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第一話*観測者と来訪者
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[4] もう1人の絶対者

 ランダムに、しかしある程度の間隔をあけて、不規則な周期でおこなわれる『ダイス』。


 その結果、商業区も工業区も居住区も、でたらめに入りまじって、巨大な迷路と化す。


 ユ=イヲンは、ときに天地さえ無視して『組み替え』、そして飽きたころに『適当』にもどす。そのせいで、学都においての地理情報は、常にあいまいで役にたたない。



(このあいだ、もどしたくせに……早すぎる)



 やっとのことで覚えなおした配置が、もう意味をなさない。それどころか今回は、いままでになく酷いありさまだった。


 足もとに現れた石畳の先に、アリスの姿はない。かわりに、どこからか動かされてきたらしい人影が、一人、二人。


 右手には、工業区のはずれにあった倉庫。見上げれば、学園の門。



 その先に待ちあわせの丘を発見したフヒトは、倉庫の壁に・・踏みだして体重をのせた。


 そのまま自然に壁面を歩き、横転する門に手をかけると、ひょい、と身体を持ちあげ――次の瞬間には、学園の敷地内に降りたっていた。


 頭上(・・)に広がる石畳には目もくれず、柔らかな草を踏みしめながら、フヒトは[調停者]の姿を求めて視線をさまよわせる。


 ――そして、とらえた。



「リヴさま」



 丘の頂上に根を下ろす大樹のもと、幹に背中をあずけていた青年が、ゆったりと身をおこす。


 頭頂部でまとめられた、艶やかな青藍せいらんの髪。彼の挙動にあわせて、かんざしの飾りが揺れ、かすかな音をたてた。



「フヒトか」

「申し訳ありません。少々面倒がありまして、遅くなりました」

「そのようだな」



 精悍な容貌に苦笑を浮かべた青年、リ=ヴェーダは、つかれた様子であたりを見まわした。



「派手にやったものだ。[史記]が巻きこまれれば、ひとたまりもないだろう。大丈夫か?」

「いえ……」



 言いよどむフヒトを、黄金色の双眸がとらえた。


 こうして、穏やかながら強いまなざしを向けられるたび、言いしれない緊張感がフヒトを襲う。


 [調停者]をあなどるクラスメイトに、体験させてやりたい。常々そう思っているのだが、肝心のリヴにその気はないようだった。


 態度を改めさせる気がないどころか、しかたないこととして受けいれている。

 ――それが、フヒトには口惜しい。



は、僕を隔離しますので」

「ああ、お前はユイに気にいられていたな」

「不本意ながら」



 表情を消して、不愉快だとばかりにつぶやくフヒトを、リヴはとがめることもなく笑った。


 奇特なことに、[調停者]が[破戒者]と友人関係にあるらしいことは、周知の事実である。


 一体、どうしたらあの変人とつきあえるのか。フヒトには、理解に苦しむ。


 落ちついた雰囲気をまとうリヴと、少年のようなユ=イヲン。彼らが同時期に生まれたこと自体、フヒトはいまだに納得できずにいる。



「リヴさま。ひとつ、ご判断をあおぎたい案件が――どちらへ?」



 アリスの件を伝えようと、あらためて口をひらいたフヒトは、学園の敷地外へ向けて歩みだしたリヴの背に問いかける。



「これではまともに生活できんだろう。やりすぎだ」

「では」

「戻させる。しかし、今回はやたら張りきっていたからな……聞くかどうか」

「――もしもの、場合」



 【宣言】を……? ほとんどひとりごとのようなフヒトの言葉に、リヴは、答えなかった。



(聞こえなかったのか、それとも)



 徐々に遠ざかる長身を、複雑な思いで見送ったフヒトは、逡巡のすえに後を追って走りだした。

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