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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第三話*観測者と特異職
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[19] 平行線をたどる

 ややあって、ユイは、しばいがかったしぐさで肩をすくめた。



「やだなあ、ひと聞きのわるい。まるで俺が、なにかイケナイコトをしてるみたいだ」

「あいにくと、お前の言葉は信用にあたいしない」

「あは。そいつはひどい」



 ゆるい笑みを浮かべつづけるユイに対して、リヴの表情は、無機質にかたい。



「なんにも、たくらんでいやしないよ。きみは知っているでしょう? だって、俺は[破戒者]だ・・・・・・・



 高慢ともとれる口調で告げた、ユ=イヲンの闇色の右眼は、まっすぐにリ=ヴェーダの姿だけを映している。


 彼らの様子を注意深くうかがっていたフヒトは、さきの瞬間、以前アリスに『仏頂面』と称されたリヴの表情に起こった変化を、見逃さなかった。



(あれ、は……憐憫?)



 なにかが、冷静沈着な[調停者]の、琴線に触れた。


 ――なにが?


 思えば、アリスが学都にオちて以来。はっきりとわからない物事が、あまりに多くはなかったか。


 ユ=イヲンが、あるいはアリスが、学都にとってなんらかのイレギュラーが関わることで、[史記]の記録は精度をうしなってしまう。


 ふいに、フヒトは、漠然としたわだかまりを抱いた。



([史記]は、すべてを知っている。だけど)



 絶対の真実。

 その記録媒体たるモノ。


 ならば記録がすこしでもゆがみ、穴をもったなら、フヒトは、[史記]は、――存在意義をうしなうのか?


 背筋を流れおちる冷たい汗の感触に、フヒトは身震いした。


 一方、再三の沈黙を耐えかねたらしいユイは、いらだたしげに口をひらいた。



「きみが気に病むことじゃあないし、そんなのは無意味だ。それともなあに? 【宣言】でもしてくれる気になった?」

「仮にそうしたとして、なにか変わるのか?」



 [破戒者]は瞠目し、そして、つぶやいた。



「……変わらないよ。なにも。だって、きみは絶対にそうしない」



 ちいさく、しかしはっきりと断定したユイの言葉を、リヴは否定しない。肯定することもないまま、静かに少年のような少女をみつめている。


 しばし、どこか心あらずに、ないだ金眼を眺めていたユ=イヲンは、やがて、くすり、と邪気のないほほ笑みをもらした。



「それでいい。うん、きみは、そのままでいいよ、リヴ」

「俺は、……お前がわからない」

「なにをいまさら。俺はソウイウモノでしょ」



 むずかしい表情を浮かべたリヴへ軽口をたたいて、ユ=イヲンは、きびすを返した。



「――ユイ!」

「これ以上話したって、どうせ平行線じゃない。きみは俺をわからない・・・・・・・・・・し、俺はきみに望まない・・・・・・・・・。……じゃあね、リヴ」



 淡々と述べながら迫りくるユ=イヲンに、フヒトはぎくりと身をこわばらせる。



「ああ、そうだ。――この子、借りてくよ」



 不穏な言葉を聞くが早いか。

 逃げるいとまさえ与えられないまま、気づけばフヒトは、[破戒者]に抱えられていた。


 かと思えば、予兆なく、ぐにゃりとゆがみだした視界に、声にならない叫びを上げる。



「――!」



 それは、先刻の[焔灯]など、比ではないほどに正確で強力な、局地的な【権限】の発動。


 すこしばかり変わった『特異職』でしかない[史記]に、あらがえるはずもなかった。



「フヒト!」



 またたく間に混濁するセカイのなか、焦りをふくんだアリスの叫び声が、どこか遠くで、こだました。

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