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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第三話*観測者と特異職
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[18] 秩序の番人

 吹きやんでいた風が、不意に、息を吹きかえす。



「風が……」



 とつぜん、制御をとりもどした主――ソウのとまどいを反映するように、リ=ヴェーダのまとう衣が、ふわりと浮きあがってゆれた。


 ユ=イヲンの支配が、薄れたことを知る。



「す、げぇ――」

「アリス」



 さきんじて、フヒトは、好奇心おうせいな来訪者にクギを刺した。


 瞳を輝かせていたアリスは、メイに袖をひかれ、不服そうに口をとがらせながらも、しぶしぶ言葉をのんだ。



 [調停者]は、学都における最高権力者でありながら、『王』ではない。――いわば、秩序の番人だ。権限をもちいずとも、この程度の『乱れ』は、その存在だけで正してしまう。



(たとえ権限を放棄されようとも……『そういうもの』であることは、変わらない)



 ごくり、とつばを飲みくだしたフヒトを一瞥さえせず、そのわきをすり抜けて、リヴは渦中へと足を踏みいれていく。



「……、リ=ヴェーダ」



 どこかおよび腰で、微妙な表情を浮かべながら呼びかけたソウに、リヴは立ちどまり、寄りそう双子へと無造作に視線を投げた。



「お前たちは散れ。これ・・の逆鱗に触れれば、ろくなことにならんぞ」

「ありがとう、ござい……ました……」



 非礼をとがめることもせずに、事務的な忠告をよこした[調停者]へ、[風織]は歯ぎれのわるい礼をかえした。


 そのまま、うつむいて視線をあわせようとさえしない片割れアカリを、むりやり引きずるようにして、ソウは足早に別棟のなかへと消えていく。



「あ、おい――!」



 追いかけようとしたアリスを視線で制して、フヒトは、内心口惜しい思いをかかえながら、双子を見送った。



(これが、[調停者]と特異職の現状だ……)



 グッとこぶしを握ってやりすごしていたフヒトの意識に、少年じみたハスキーボイスが割ってはいった。



「――ずいぶんと」



 口火を切ったユ=イヲンが、皮肉に唇をゆがめる。



「まどろっこしい真似をするんだね」



 つかの間おとずれた、痛いほどの沈黙。そのなかで、青藍せいらんの髪を飾るかんざしの装飾が、風にゆられて、かすかな音をたてた。



「……。そもそもは」



 短い嘆息のあと、低く落ちついたリ=ヴェーダの声が応じる。



「お前が、まどろっこしい真似をするからだろう、ユイ。[破戒者]と知って、うかつに手だしするモノはいまい」

「それで? 俺に、なんのメリットがあるっていうの」



 心底くだらない、とでも言いたげに、ユ=イヲンは鼻で笑った。


 無言で、彼女へと向きなおったリヴの黄金こがね色のまなざしが、ひょうひょうとして底のみえない紫黒しこくの瞳を、真正面から、とららえる。



 ――そうして、ふたりの絶対者は、対峙した。



 まじわった視線の延長線上。いっそ音が立ちそうなほどに張りつめた空気のなかで、ユ=イヲンは、くつり、とのどを鳴らす。



「ああ、怒らないでよ、リヴ」



 おどけた[破戒者]の言葉に、やはり短い嘆息だけを返して、[調停者]は静かに問う。



「なにをしていた、ユイ」

「なぁんにも。きみが気にするようなことは――」

「いい加減、そのセリフは聞きあきた」



 ゆるりと口の端をつり上げたユイから、一瞬たりとも目を離さず、リヴは告げる。



「答えろ、ユ=イヲン――お前は、なにをたくらんでいる?」



 刹那。不自然な無音が、耳を打つ。

 ふたたびおとずれた静寂のなかで、リヴの黄金色の双眸が、強い輝きをみせていた。

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