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言葉の庭のAlife ―『生きた歴史書』と理外の少年アリス―  作者: 本宮愁
第三話*観測者と特異職
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[17] 絶対者は嗤う(4)

 ひとしきりワラい終えたユ=イヲンが、かぶりを振ると、口もとまでかぶさっていた長ったらしい前髪は、またたく間に消えうせた。


 人形じみたかんばせが、あらわになる。

 底知れない深みをもった闇色の左眼と、漆黒の布地におおわれた右眼。


 簡素な黒の上着は、身丈をおおうほどの長さに変じ、さきほどまではみられなかった、こまやかな装飾が浮き上がる。


 身体の線がわからない、ゆったりとしたつくりのその装束は、フヒトの記録と寸分たがわない、彼女の正装だ。


 そして、貼りつけたような嘲笑をくずさないまま、ユイの唇が薄くひらかれる。



「我は[破戒者]。セカイの律を破るモノなり、――なァんて」



 獰猛な獣のように細められた闇色の瞳のなかで、寄りそって立ちつくす、[焔灯]と[風織]の影がゆれる。


 たまらず膝をついたアカリには、一瞥さえくれず。ユイは、なおも片割れをかばおうとするソウを、まっすぐにみすえた。


 [風織]の澄んだ空色の瞳が、緊張にふるえる。



「ねぇ、[風織]ソウ。きみに、それほどの価値があるとでも?」

「い、え……そういうわけでは」



 皮肉につり上がった口の端に反して、ユイのまなざしは冷たく、そして苛烈だ。ないだ闇色の奥に、氷を思わせるような炎がひそんでいる。


 答えに迷ったソウを鼻で笑い、彼女は表情を変えないまま、うたうように言葉をつむいでいく。



「セカイというものは残酷でね。[風織]キミに与えられた『役割』なんてその存続には大した意味を持たないし、『ソウ』がきみである必要なんてどこにもないんだ。わかる? きみがきみである意味はないんだよ」



 いちど、言葉を切ったユイは、背後のふたりを振りかえると、アリスの存在を無視して、亜麻色の少女だけに視線を向けた。



「現に、[長庚]がそうだった。そうでしょ? おチビさん。『メイ』が誰であったって関係ない。管理者なくとも学都ディーチェは存続する。セカイは、いびつだ。いびつだけど存続する。決して自壊しない。ねえフヒト、それはどうしてだと思う?」

「――そのくらいにしておけ」



 フヒトが答えるよりもはやく、いささか強引に割りこんだ、落ち着いた声色。ユイの表情から、わずかに棘が薄らいだ。


 その視線をたどって振りむいたフヒトの視界に、敬愛してやまない青年の姿がうつる。



「リヴさま」



 黄金色の瞳で、まっすぐユ=イヲンをにらみすえながら、ゆったりとした足どりでせまるのは、[調停者]だ。


 その姿を前に、フヒトは湧きあがる安心感、……そして、かすかな気まずさを、噛みしめていた。

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