[17] 絶対者は嗤う(4)
ひとしきりワラい終えたユ=イヲンが、かぶりを振ると、口もとまでかぶさっていた長ったらしい前髪は、またたく間に消えうせた。
人形じみた顔が、あらわになる。
底知れない深みをもった闇色の左眼と、漆黒の布地におおわれた右眼。
簡素な黒の上着は、身丈をおおうほどの長さに変じ、さきほどまではみられなかった、こまやかな装飾が浮き上がる。
身体の線がわからない、ゆったりとしたつくりのその装束は、フヒトの記録と寸分たがわない、彼女の正装だ。
そして、貼りつけたような嘲笑をくずさないまま、ユイの唇が薄くひらかれる。
「我は[破戒者]。セカイの律を破るモノなり、――なァんて」
獰猛な獣のように細められた闇色の瞳のなかで、寄りそって立ちつくす、[焔灯]と[風織]の影がゆれる。
たまらず膝をついたアカリには、一瞥さえくれず。ユイは、なおも片割れをかばおうとするソウを、まっすぐにみすえた。
[風織]の澄んだ空色の瞳が、緊張にふるえる。
「ねぇ、[風織]。きみに、それほどの価値があるとでも?」
「い、え……そういうわけでは」
皮肉につり上がった口の端に反して、ユイのまなざしは冷たく、そして苛烈だ。ないだ闇色の奥に、氷を思わせるような炎がひそんでいる。
答えに迷ったソウを鼻で笑い、彼女は表情を変えないまま、うたうように言葉をつむいでいく。
「セカイというものは残酷でね。[風織]に与えられた『役割』なんてその存続には大した意味を持たないし、『ソウ』がきみである必要なんてどこにもないんだ。わかる? きみがきみである意味はないんだよ」
いちど、言葉を切ったユイは、背後のふたりを振りかえると、アリスの存在を無視して、亜麻色の少女だけに視線を向けた。
「現に、[長庚]がそうだった。そうでしょ? おチビさん。『メイ』が誰であったって関係ない。管理者なくとも学都は存続する。セカイは、いびつだ。いびつだけど存続する。決して自壊しない。ねえフヒト、それはどうしてだと思う?」
「――そのくらいにしておけ」
フヒトが答えるよりもはやく、いささか強引に割りこんだ、落ち着いた声色。ユイの表情から、わずかに棘が薄らいだ。
その視線をたどって振りむいたフヒトの視界に、敬愛してやまない青年の姿がうつる。
「リヴさま」
黄金色の瞳で、まっすぐユ=イヲンをにらみすえながら、ゆったりとした足どりでせまるのは、[調停者]だ。
その姿を前に、フヒトは湧きあがる安心感、……そして、かすかな気まずさを、噛みしめていた。




