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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第三話*観測者と特異職
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[15] 絶対者は嗤う(2)

 感情の読めない無表情のなか、闇色の片眼だけが獰猛に輝いている。ごくごくかすかに持ちあげられた口もとが、みるものの恐怖心をあおってやまない。


 いっそのこと、嘲笑を浮かべてくれたほうが、まだ精神に優しいとさえ思う。


 ぬいとめられた視線が、はずせない。あわだつ肌をおさえることもできずに、フヒトは凍りついていた。



「ユ=イヲン……、アリスが、嫌いなんじゃないの」

「だぁい好きだよ? ぐっちゃぐちゃにコワしたくなる」



 ユイの表情は崩れない。


 つまり嫌いなんだろう、と毒づいたフヒトの内心はしかし、気圧され萎縮した口から漏れだすことはなかった。


 かわりにため息をこぼして、つづける。



「……。なら、どうして」

「なあに? なんのことなのかわかんないなあ」

「あんたにしかできるわけっ――」



 とっさに声をあらげたフヒトは、そのまま中途半端に言葉を呑みこんだ。



[史記]きみがそう思うならそうなんじゃない」



 感情のこもらない声をかえして、[破戒者]は、いちどもフヒトのほうをみない瞳を、細めた。


 その視線のさきでは、硬直していた当事者たちが、我にかえりはじめていた。よほど余裕がないのか、いまだ彼らは、ユ=イヲンの存在に気づいていない。


 ――ふと、こちらを振りむいたメイの瞳が、丸くみひらかれる。


 すでにいちど、ユイに遭遇している闇呼びの少女は、その正体を考えるまでもなく悟ったのだろう。あからさまに表情が、こわばっていた。


 一方、アカリは、混乱のさなかにいる。



「い、きなり、なにすんだよ!」

「なに……、お前、一体――」



 アリスの抗議も耳にはいらない様子で、橙色の頭をかかえていたアカリは、途中で深く考えることを放棄したらしい。


 キッとアリスをにらみつけると、ふたたび攻撃の意思をみせる。



「たかが異分子のぶんざいで……!」



 さきほどよりも、はるかに速い。


 まさに、なりふりかまわず熱のかたまりを生成する[焔灯]に、さすがのアリスも頬をひきつらせる。


 そうして、二度めの火球が完成する間際、――ユ=イヲンは、動いた。


 無言でふたりのあいだに割りこんだ、黒ずくめの少年。その正体を知るよしもないアカリは、盛大に顔をしかめる。



「どけ! じゃまするなら、あんたも燃やす!」

「あ、ははは! ……そう」



 いきりたつアカリを笑いとばしたユイの口もとが、ゆるりと、弧を描く。


 これからおとずれる惨状を予測して、フヒトは、肩をすくめた。


 青ざめたメイが、すがるようなまなざしを向けてくる。

 それでもフヒトは、[史記]は、動かない。――動けない。



おごるなよ。忠誠と妄信を、はきちがえた愚者が」



 冷徹ともとれる口調で、[破戒者]が吐きすてた、その瞬間。


 ――どこからともなく、風が巻きあがった。

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