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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第三話*観測者と特異職
39/115

[14] 絶対者は嗤う(1)

「え、……?」



 フヒトは、気の抜けた声が口から漏れだすことを、止められなかった。


 限界までみひらいた緑青ろくしょう色の瞳に、とりつくろいようもない驚愕があらわれる。


 なにが、起こっているのか。

 いま、目の前に存在する、モノは、なんだ。


 脳内を、答えを得ようもない問いが、際限なく駆けめぐる。



 フヒトは、[史記]だ。かぎりなくすべてに近い、ほとんどの物事を『知って』いる。


 例外であるユ=イヲンの介入なくして、その予測がくつがえることは、まず起こりえないと言ってよかった。


 学都ディーチェに存在するモノの在り方は、定められているのだから。

 『言名』の示す範疇から、大きくはずれることなど、ないのだから。



(どうして)



 さきの、一瞬。


 アリスに触れる直前で、とつぜん存在がゆらいだ火球は、あっというまに肥大化し――そして、はじけた。


 まさに爆発的な散逸と呼べるような、激しい反応だった。


 にもかかわらず、フヒトの立つ地点には――そしてすぐ近くまでせまっていたメイにさえも――なんの影響も、およぼされなかったのである。



 わずかな熱も、大気のゆらぎも、そこには存在しなかった。

 かつて火球が在った痕跡など、どこにもない。



 あれだけの情報量をまとったかたまりが、またたく間に『うしなわれた』――それは、ことわりに縛られたこの地において、あまりにも異質なことであった。


 あとかたもなく消えさった名残ともいうべき、不自然にひらけた空間が、物語る。


 これまで、[破戒者]が、たびたびおこなってきたような……変質させるなどという、なまぬるい現象ではない。



 いま、フヒトたちが眼にしたのは、理を無視した一方的な破壊だ。



 かつてない衝撃に、うちふるえるフヒトの隣で、黒をまとう少年のような少女は、クスリ、と微笑をもらした。


 戦々恐々としながらユ=イヲンの表情をうかがったフヒトは、大部分をおおい隠された、その奥にひそむ作り物めいた美貌に、絶句した。



 ――[破戒者]は、わらっていた。

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