表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第三話*観測者と特異職
38/115

[13] 焔灯と長庚(4)

 メイを背にかばったアリスが、びしり、と、ひとさし指を突きだしながら、鋭く声をあげる。



「特にあんた! さっきから言ってること滅茶苦茶だろ」

「うるさいな。……じゃまするの? 関係ないでしょ、きみに」



 いらだたしげにだいだいの髪をかき乱しながら、一歩、アカリがせまった。


 どこか余裕をもった表情ながら、黄色の双眸には、部外者に水を差されたことに対する、静かな怒りが浮かんでいる。


 それを意に介したふうもなく、アリスは言いつのる。



「許せないもんは許せない。俺にはあんたの言い分が、ぜんっぜん理解できないし。だいたいさあ、[叡魔]に望まれたから――っていうメイもメイだけど、あんたにいたっては、勝手にふさわしいだのなんだの、わめいてるだけじゃねーの。[勇聖]――ヒジリだっけ? あの人がそんなん気にするようにも思えねーんだけど」



 アリスの口からヒジリの名がでた、その途端、一転してアカリは顔をゆがめた。



(……ああ、まずいな)



 一般に、[勇聖]に対する[焔灯]の執着は、簡単には推しはかれないほどに、強い。なかでも当代のアカリは、ヒジリという個人に対して、狂信じみた忠誠をもっている。


 軽はずみな気のある言動に目をつぶるなら、あれはたしかに王たる者だと、フヒトとて評価している。


 自分の、そして、周囲の使い方を、よく心得ている。

 強引な行動力でもって牽引する、求心力に優れた王。


 典型的な[勇聖]の在り方だが、ヒジリの場合は、とくにそれが顕著にあらわれていた。光の眷属などは実質、大なり小なり、彼の信奉者である。



「なにも、しらない、……子どもが」



 周囲の気温が、急激に上昇をはじめる。


 それをいちはやく悟ったフヒトは、静かに両目を閉じた。無防備なアリスをかばおうと、メイがあわてて動く気配がする。



(でも、……まにあわない)



 メイには、光を呑みこむことができても、生まれた熱を消しさることはできないだろう。


 彼らの【権限】は、完全な対をなしているわけでもないのだから。現状、優先順位に劣る[長庚]に、あれを打ち払うことは、できない。



 燃えさかる火球――そのイメージを付加された熱のかたまりが、アカリの頭上で煌々と輝いていた。



 [焔灯]は、と灯りの管理者。


 局地的な変化しか起こしていないあたり、理性は残っているようだが、激昂していることには違いない。


 よりにもよって、アカリの地雷を踏みぬいた、アリスがわるい。



 このまま、全力であれをぶつけられたら、一体どうなるのだろう。光の副作用さえ、ろくに流せないような、アリスは。


 ……一歩、踏みだしかけた右足をぐっと踏みしめて、しかしフヒトはその場に留まった。



「――みないの?」



 耳もとで、[破戒者]が、ささやく。


 それは、喜悦に満ちた声色。さぞかし愉しげな笑みを浮かべていることだろうと、フヒトは眉をひそめた。



「ほら、みてなよ、[史記]」



 おもしろい見世物なんだから。そう告げたユ=イヲンの真意を探るよりもはやく、熱気が、一層高まる。


 たまらず、フヒトがまぶたを跳ねあげた直後、悲鳴じみたアカリの叫びが響いた。



「あの御方を語るな――!」



 極度に凝縮された火球が、眼をみひらいて固まっているアリスに目掛けて、一直線に放たれ、そして。


 ――火球は、爆散、した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ