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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第三話*観測者と特異職
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[10] 焔灯と長庚(1)

 網膜を焼くような・・・強い光が、視野一面に広がっていた。


 ぎゃあぎゃあとさわぐ、アリスの声が聞こえる。おそらく、この場にいる全員がおなじ状況にあるのだろうと、フヒトは推測した。



「フヒト、いる? メイは? つか、目、いってぇ! なんもみえねえ」



 闇雲に振りまわしたのか、アリスのものらしき腕がフヒトの肩をべしり、とたたく。その手をとりおさえて、フヒトは、いたって冷静に口をひらいた。



「落ちつきなよ。ただの光だから」

「いや、痛いって!」

「……きみはまだ、あつかい方がわかってないの」



 しょせん、すべては情報なのだ。自分自身の取りこみ方次第で、いくらでも姿を変える。


 光をまぶしいと思わなければ、このなかで目を開けていることは、たやすい。痛みをともなうと思わなければ、アリスのように苦しむこともない。


 他者に一定の影響を強制することなど、ユ=イヲンにすら、むずかしいのだから。



(それでもあのイカれ猫なら、できかねないけど)



 『流し方』を熟知しているフヒトにとって、[破戒者]でもない一介の特異職がふるった【権限】など、お遊びのようなものだ。


 ――もっとも、この程度。相手にとってもお遊びであることは、想像にかたくなかった。



「そろそろもどして、[焔灯]ほむらび



 依然と、白一色におおわれた空間へ向けて、フヒトは呼びかける。



「あいかわらず、つきあいわるいなー、[史記]」

「アカリ」

「やだよ。なんであんたが首をつっこむのさ」



 どこからともなく、ひねくれた少年の声が応じる。


 特異職は、一部の例外をのぞき、短いサイクルで代替わりをくり返す。成長も遅く、成人の体躯になるまでに消滅するほうが一般的だ。


 今代の[焔灯]、アカリもまた例にもれず、フヒトより6年ほど後に生まれた、年若い『名持ち』だ。



 やれやれ、と首を振るフヒトの手のなかでは、アリスの手首が暴れている。解放して、アカリに特攻されてもたまらない。


 フヒトは頬をひきつらせながら、しっかりと握りこみなおした。


 ――と、目の前に広がる白に、わずかながさす。アリスの抵抗が、急にやんだ。



「なんだ……これ」



 じわじわと、にじみこんだ穏やかな黒は、光を喰らい、ゆるやかな侵食をつづける。


 大口を開けて固まるアリスの様子が目に浮かぶようだ、と思いながら、フヒトはちらり、と左手を見下ろした・・・・・



「闇呼び……!」



 ほんの少しいらだちをにじませた、アカリの声が、響く。


 徐々に明度の下がっていく空間。そのなかで、ぼんやりと浮かびはじめた自分自身の姿を確認して、フヒトはあたりを見わたした。



 右手に数歩離れた、ひときわ暗い一角。球状にとりまく影のなかから、見覚えのある闇色のすそが、のぞいている。


 対して、左手。こちらは、まだ輝きが強くて判別がつかない。――だからこそ、そこに、光源が存在するとわかる。



 右手の影が、ぐっと大きさを増す。

 チッ、と短い舌打ちが、左手の光のなかから聞こえる。


 ――そして、闇が、光が、どうじに弾けた。

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