[6] つかの間の、(1)
天災級の人災が去ったあと、アリスは、大げさなしぐさで空をあおぎ、叫ぶ。
「だあー、くそ。なんなんだよ、結局! ユイって本当わけわかんねぇ」
フヒトは、それに苦笑を浮かべた。
「そういうもの、だから。――メイ、大丈夫?」
こくり、とうなずいた少女は、長い闇色の衣を引きずるように立ちあがった。そのまま、思いのほかしっかりとした足取りで、アリスに歩みよる。
そして、じー、と無言のまま、いらだちを吐きだす来訪者の姿をみつめはじめた。
「あー、っと……メイ?」
さきの『かわいそうな子』発言を思ってか、めずらしくも腰が引けているようだ。向かいあいながら、アリスは、落ちつかなさげに視線を泳がせている。
その姿を気にしたふうもなく、メイはじっくりと金髪の少年を観察し、ふと、視線を足元に落とした。
「きみは、あれを、おそれないのだね」
ボソリと声を漏らしたメイは、ゆるゆると左右に首をふる。
「それは、無知ゆえの愚行か。あるいは、たぐい稀なる英断か。ワタシにはまるでわからないよ」
皮肉めいた言葉を吐きながら、揺れる亜麻色の髪。それを背後から眺めながら、フヒトは、わずかに口もとを緩めた。
アリスはといえば、案の定、ぽかん、と固まりかけている。
「なに言ってんのかよくわかんねえ……」
「だと思ったよ。いっそ安心する」
ため息を吐きだしたフヒトへと、代わりに答えろとばかりに、メイが振りかえる。
「観測者。なぜ、止めないのかな」
「きみの言うそれが答えだからだよ、[長庚]。僕はそういうもの」
メイが、よくわからない、というように小首をかしげた。
「そういうもの? ワタシが[長庚]であるように?」
「そう。……観測者だの、時の管理者だなんて、過ぎた名だよ。僕は、[史記]は、もっと矮小で身勝手なものだ」
[史記]は、『書』。それ以外のナニモノでもないことを、フヒトは知っている。
誰に与えられた知識でもなく、蓄積されゆく記録でもなく、ある種の本能として、知っている。
学都の民は、みな、そのようにして言名の意味を感じるのだ。
従わなければならない掟があるわけではない。ただ、自分という存在の延長線上として、包括円のように『言名』がある。
(管理者なんて呼び名、ふさわしいのは……)
フヒトの脳裏に浮かぶのは、青藍の髪をした青年の姿だ。
あるいは、その隣にならぶ、隻眼の少年。
彼らクラスの【権限】なくして管理者を名乗るなど、笑止である。
「ねぇメイ。きみは、なにを言いかけてたの? ユ=イヲンについて、覚えて……いいや、知っていることがあるんだね」
確信をもって問いかけたフヒトを、メイのやわらかい色合いの瞳が見上げる。
まるい光をつつんだ光彩が、ためらうように、すこし揺れて。メイは、探るように慎重に、答えはじめた。
「――右の、瞳」
「右眼?」
「彼女は[破戒者]で、例外で、近づいたら、危険。ワタシの知っていることは他に、それだけだよ」




