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言葉の庭のAlife  作者: 本宮愁
第三話*観測者と特異職
29/115

[4] 遭遇(1)

 メイは、興味深そうにアリスを眺めている。


 ふわふわの金髪も、黒い瞳も、めずらしいといえばめずらしいが、それほど驚くものでもない。


 なにが彼女の関心を引くのか。フヒトは、はたと思いあたった。



(服装……か)



 学都では、『言名』により、さまざまな服装がみられる。基本的には髪や瞳の色とおなじ、そういうもの・・・・・・の一部なのである。


 フヒトであるならば、[史記]特有の、肌をほとんど露出させない作りの白衣。


 [長庚]に関して言えば、被りもののついた丈の長い濃紫の一枚布だ。


 しかしアリスの服装は、そのなかでもどこか浮いている。


 フヒトが『来訪者』だと断じたのはそういった知識があったからに他ならないが、そうでなくても違和感を与えることは避けられない。


 どうしようか、と首をひねるフヒトの隣で、アリスが微妙な表情で目をしばたかせた。



「迷い子って、俺のこと、か?」



 十を越えているようには見えないメイに、強く言うのは、さすがにはばかられたのか、その声には戸惑いがにじむ。


 じっ――とアリスを見つめたまま、メイはゆっくりとうなずいた。



「うん。きみ。居場所を追われた可哀想な子」



 絶句するアリスから視線を離して、ちがう? とメイは小首をかしげる。問われたフヒトは、なんとも言えずに少女を見下ろした。



(前の[長庚]とはまた、ずいぶんと性格がちがう……)



 ユ=イヲンと先代のあいだに、なにがあったのか、フヒトは知らない。


 より正確に言うならば、知ろうとしたことがない。フヒトだけでなく、読み手の資格を与えられた誰も彼もが、である。



「メイ。きみはなにか覚えているの」

「なんにも。けれどワタシは[長庚]ワタシを知ってるよ」

「それだけ? ユ=イヲンが『なに』かはわかる?」



 しばらくのあいだ、メイは目を閉じて静かに考えていた。



「……あんなもの」

「え?」

「あんなモノはもうヒトじゃない。ただの――」



 震えた声が、最後まで形になる前に、かすれた少年の声が割って入る。



「ただの?」



 クスクス、クスクス、と、ひとしきり耳障りな笑い声を響かせた後。にんまりと口の端を持ち上げたその主に、フヒトは思わず一歩後ずさった。



「おもしろい話をしているね」



 言いながら、メイの肩を捕まえる、黒髪の少年。染みついたものがあるのだろう、メイの顔からは一瞬で血の気が引いている。



(どうして、ここに)



 身にまとうのは、ごく一般的で質素な衣。


 やぼったい前髪にさえぎられ、人形じみた美しさはなりを潜めているが、フヒトにとっては見間違えようもない。


 凍りついた場で、まっさきに我にかえったのは、アリスだった。



「あんた、あのときの……!」

「ああ、覚えていていてくれたんだね、俺のこと。ふふ、ご機嫌麗しくないようでなによりだよ、アリス」



 首を揺らす動作にあわせて、髪が流れる。その隙間からのぞいた漆黒の布地を、ユ=イヲンは愛しげになぞった。



「あーもう、いい加減にしろよ! あんた、俺になにしたんだ」

「なあんにも」

「嘘つけ。俺を落としたの、あんたなんだろ」

「知らないねえ。俺はただの『例外』。そういうものじゃない」



 アリスをおざなりにあしらいながら、ユイのまなざしは、なぜかフヒトに向けられている。


 満足気につり上がる口もとに、フヒトがわずかに眉を寄せた、そのとき。


 ユ=イヲンの腕が伸ばされ、身をすくめているメイを、背後からしっかりと抱きこむ。



「[長庚]。ずいぶんと様変わりしたみたいだけど、わかるよね? つぎは、十年なんかじゃすまさない――二度と戻れないようにしてあげる」



 頭上で獰猛な笑みを浮かべたユイに、メイは、青ざめた顔で目をみはった。

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